コラム
弁護士と格言 4 白と黒とに別れて争っている,その間にあるものが欲しい
2014年2月6日
この言葉は,池波正太郎の小説「応仁の乱」の中で,室町幕府の八代将軍足利義政が,いままさに応仁の乱の戦端が開かれようとする時,御家人の代表格の1人である細川勝元に言った言葉です。
意味は,“政治の世界だ。妥協をせよ。”ということだと,思います。
この時代,御家人の細川勝元とその舅である,これも御家人の代表格の山名持豊とは,一方は白,一方は黒といえるほどの妥協のない対立と抗争を続けていました。
将軍義正は,両派の間で乱が勃発することを阻止すべく,勝元を説得したのです。
時は,芸術の華が開こうとし始めた時。明との貿易による利益をもって大きく商業が伸びようとする時です。義正は,争うことの愚を,勝元に説くのですが,効果はありませんでした。
もし,この時期,足利幕府政治の中で,御家人と御家人との間に,白と黒の間にあるもので妥協ができていたら,その後の我が国は,大きく違っていたかもしれません。
弁護士が仕事場とする,法律の世界でも,白と黒の間にあるものを,確保して満足することが,多々あります。いわゆる和解です。
ましてや,政治の世界では,もともと考えの違いは,お互い許し合った世界なのですから,白と黒の間にあるものは,容易に得させることができるのだと思います。
否,現代では,政治こそ,妥協だと理解しているのが,一般人の常識だろうと思われます。
そういう意味で,室町幕府の時代よりは,現在の方が,はるかに,人智は進んでいるといえるでしょう。
我が国では,平成16年に,ADR法(正しくは,裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)が制定されました。この法律でいう「裁判外紛争解決手続」とは,「訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする紛争の当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続」(同法1条)をいいます。
この法律が制定されたのは,「内外の社会経済情勢の変化に伴い・・・第三者の専門的な知見を反映して紛争の実情に即した迅速な解決を図る手続として重要なものとなっている」(同法1条)からです。
時代は,常に,闘争の中で,黒白をつける解決ではなく,将軍義正の祈りであった,白と黒とに別れて争っている,その間にあるものを,欲していると言えるのでしょう。
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