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遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①

2019年7月1日 公開 / 2020年7月2日更新

テーマ:令和時代の相続法

コラムカテゴリ:法律関連

本日、すなわち令和元年7月1日、改正相続法が施行された。
そこで、これまでは触れなかった遺言執行者観の改正部分、すなわち民法1015条の改正について、解説をしたい。


はじめに

 まことに信じがたいことだが、遺言執行者を相続人、しかも遺言に不満をもつ相続人の代理人だという、誤謬の説が生まれた。
この謬説は、こともあろうに、日弁連の中から生まれた。
そのため、遺言執行者実務は乱れた。
 乱れたという以上に、遺言者の意思の実現が阻止される事態まで生じた。

その乱れやそのため遺言者の意思が実現されない不正義・不条理を、天が正そうとしたのか、法が改正され、乱れの根を絶った。

それが平成30年に制定され令和元年7月1日つまりは今日から施行された相続法の改正である。

また、乱れの根とは、旧民法1015条のことである。
すなわち、改正前の民法1015条は、「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」と規定していたのであるが、それが遺言執行者を相続人の代理人だとする謬説の根拠にされたのである。

1 21世紀の天動説(謬説)生まれる

 日弁連・懲戒委員会は、平成13年8月24日、
ア 遺言者が「全遺産を相続人Aに相続させる。遺言執行者を甲弁護士に指定する。」と書いた遺言書を残して亡くなった。
イ 甲弁護士は、この遺言書の遺言執行者になった。
ウ 相続人Bは、相続人Aに対し、遺留分減殺請求調停の申立てをした。
エ 甲弁護士は、その調停事件で、相続人Aの代理人になった。
オ 相続人Bは甲弁護士に対し、相続財産(遺産)目録を作成して相続人Bに交付することを求めたが、甲弁護士はこれに応じなかった。

という事件で、①甲弁護士がイで遺言執行者になり、エで相続人Aの代理人になって、相続人と遺言執行者の地位を兼任したことは、弁護士に禁止された日弁連倫理(当時の日弁連規則)26条2号の「受任している事件と利害相反する事件」につき職務を行ったことになるとして、また、②甲弁護士がオで相続人Bに対し遺産目録を交付しなかったことは、遺言執行者の義務に違反したとして、懲戒処分(戒告)にすべきであると議決(以下「13年議決」という。)した。
 同日、日弁連は、その議決に従い、甲弁護士を懲戒処分(戒告)にした。

 この13年議決がつくった論点は、次の3点であった。
13年議決がつくった論点
① 遺言執行者は、相続人の代理人である。それは、民法1015条が「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」と規定しているからである。
② 弁護士が、遺言執行者と受遺相続人(遺言者が遺言書で遺産を取得させた相続人)の代理人を兼任することは、「受任している事件と利害相反する事件」につき職務を行ったことになるので許されない。
③ 相続人には、遺言執行者に対し、相続財産目録をつくって交付すること求める権利がある(民法1011条)のに、甲弁護士が相続人Bに相続財産目録を交付しなかったのは、遺言執行者の義務に違反する。

以上の次第で、遺言執行者は相続人の代理人だという謬説は、日弁連会長名の下で生まれたのである。

その根拠は、民法1015条の「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」という規定である。

この謬説は、中世にあって、あたかも太陽が東から登り、西に沈む様を見て、太陽が地球を回っていると信じた多くの人たちの考えた天動説と同じ発想である。

すなわち、遺言執行者を相続人の代理人だという考えは、21世紀の天動説をいうべきものであったのだ。

では、弁護士も、皆、遺言執行者を相続人の代理人と考えたかというと、そうではない。
以下は、次号で・・・

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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