コラム
弁護士と格言 蟹は甲羅に似せて穴を掘る
2014年3月14日 公開 / 2015年9月19日更新
1,誤解された意味と真の意味
「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」という言葉があります。この言葉を「人は分相応の考えや行いをするものだ」 という意味に解している人がいるようですが,この言葉を用いた吉川英治は,そのような意味で使ったのではありません。
この言葉は,蟹という小動物を主語にしているところに注意をする必要があります。
この言葉は,小人物の行いや思考は,蟹とは同じく,身の丈に合ったことしかできないが,志を持つ者は違う,という人の誇りが込められた言葉なのです。つまり,この言葉は,反語の意味を持たせた言葉なのです。
ですから,もし,あなたが,誰かから,この言葉を投げかけられたときは,スケールの小さい人間は,その程度の考えしかできないのかという,嘲弄や嘲蔑の言葉と受け取らねばなりません。
2,会話の例
その1
「君!君のいうことは大きすぎるよ。蟹は甲羅に似せて穴を掘る,というだろう。身の丈に合ったことをした方が良いよ。」と,言ったとき,
「そう。君の言うとおりだ。ボクが蟹であればね。しかし,ボクは人間だ。ボクはこの世界に生きて,こういう抱負経綸をもっているのだ。」 という返事が返ってくるかもしれません。
その2
「なるほど,蟹は甲羅に似せて穴を掘るとは,よく言ったものだ。それは,君たちにはふさわしい考えだ。しかし,ボクは蟹じゃない。」
3,蟹も雑魚も,小人物のこと
蟹は甲羅に似せて穴を掘るという言葉を,小説「宮本武蔵」の中で使った吉川英治は,同じ「宮本武蔵」の中で,巻末,この小説を締めくくるところで,「波騒(なみざい)は世の常である。波にまかせて,泳ぎ上手に,雑魚は歌い雑魚は踊る。けれど,誰か知ろう,百尺下の水の心を。水の深さを。」という文章を残しています。むろん,ここでいう雑魚も,蟹と同じく,大志,大望を持たない人を意味しているのです。
4,山岡荘八の「徳川家康」の中にも,同じ意味で使われている
蟹は甲羅に似せて穴を掘るという言葉は,山岡荘八も,小説「徳川家康」の中で使っていますが,その使い方は,吉川英治の使い方と同じです。先を見る明のない者が失敗をする姿を,この言葉で表しているのです。
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