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賢い事業承継の手順 6 生前贈与につき,遺留分に関する除外合意などを結ぶようにする

2016年7月15日 公開 / 2016年7月19日更新

テーマ:事業の承継

コラムカテゴリ:法律関連

 中小企業経営承継円滑化法は,「中小企業(の)経営の承継(に際して)遺留分に関し民法の特例を定める」(第1条)ことができる法律ですが,この法律第2条でいう「中小企業者」の株式が生前贈与の対象にされるときは,次に定める特例の適用を受けることができることになっております。
 そこで,本コラムでは,民法上の遺留分制度を解説した上で,特例の内容を解説します。

1 民法上の遺留分制度
 遺留分とは,法律で保証された最低限の相続分のことです。
 子が相続人の場合は,法定相続分の1/2が遺留分になります(民法1028条)。
 遺留分は,生前贈与と遺言による相続によって侵害されることがあり,その場合は,遺留分権利者は,贈与などを受けた者に対し,遺留分減殺請求ができます(民法1029条1項)。減殺請求とは,侵害された遺留分の取戻しのことです。
 ですから,経営者が後継者に,多くの自社株の贈与をしたり相続をさせた場合,他の子(遺留分権利者)から,遺留分減殺請求がなされることがあるのです。
 そうなったとき,後継者は,遺留分権利者に対し,自社株やそれに代わる現金を交付しなければならなくなり,事業承継に支障が生ずる場合が出てきます。
これが,事業承継には大きなネックになるのです。
参照:
民法1029条1項 遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。

2 遺留分の放棄
 被相続人が生きている間に,被相続人から,遺留分権利者に対し,遺留分を放棄するよう要請があった場合,遺留分権利者は,心ならずも,それを断り切れず,遺留分を放棄するというることもありうるところですが,民法1043条は,「相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。」と規定し,そのような場合において,遺留分権利者が遺留分を放棄する約束をしても,無効にしています。
 家庭裁判所が,遺留分権利者からの遺留分の放棄の許可申請があった場合に,許可をするのは,遺留分権利者が遺留分を放棄する一方で,何らかの代償を得るなどして,権利が一定程度確保されている場合に限られます。
 要は,遺留分権利者の遺留分は,法によって,守られているということなのです。
 
3 遺留分に関する民法の特例
 民法で定める遺留分をそのまま認めると,事業承継に支障が出てくるため,中小企業経営承継円滑化法は,中小企業の円滑な承継を目的に,一定の要件を満たす中小企業(第2条でいう中小企業者)にあっては,遺留分に関する,次の2つの特例を定めています。

(1)除外合意(事業承継円滑化法4条1項1号)
これは,一定の要件を満たす後継者が,遺留分権利者全員と合意書を交わし,経済産業大臣の確認及び家庭裁判所の許可を得ることで,生前贈与を受けた自社株を遺留分算定基礎財産から除外できる制度です。
メリット:
このメリットはいうまでもなく,贈与された自社株については,遺留分算定の基礎財産にならないため,経営者は遺留分減殺請求を気にしないで,自社株を後継者へ生前贈与することが可能になることです。

(2)固定合意(事業承継円滑化法4条1項2号)
これは,一定の要件を満たす後継者が,遺留分権利者全員と合意書を交わし,経済産業大臣の確認及び家庭裁判所の許可を得ることで,生前贈与を受けた自社株の評価額を,合意書を交わした時点の評価額で,固定できる制度です。
メリット:
 このメリットは,贈与時における自社株の株価については,遺留分算定の基礎財産になるので,遺留分権利者に損害を与えることはないこと,後継者は,自社株の贈与を受けた後の経営努力で株価が高くなった利益を独占できることにあります。

4 除外合意と固定合意の併用可能
 贈与した自社株のうちの一部につき遺留分算定の基礎財産に含めない合意を結び,一部につき自社株の価額を合意の時の時価に固定する合意を結ぶことは可能です。なお,時価については弁護士,公認会計士,税理士などの証明書が必要になっています。

5 拡充
平成28年4月1日,改正承継円滑化法が成立しました。これにより受贈者が推定相続人(経営者が亡くなると相続人になる者)でない場合でも,遺留分の除外合意,固定合意ができることになりました。
これは,事業の承継が,親から推定相続人(子や孫)へという場合に限らず,親族関係のない者の間でも,見られるようになったことによります。

6 その他の要件
① 贈与前,受贈者が保有する自社株が50/100を超えていないこと(法4条1項ただし書)
➁ 逆に,受贈者は贈与を受けることにより自社株の過半数を保有することになること
③ 経営者は,過去又は合意時点において会社の代表者であること
④ 後継者は,合意時点において会社の代表者であること
⑤ 会社は3年以上継続して事業を行っていること

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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