コラム
事業の承継2 最悪の後継者 ー リア王の轍を踏むなかれ
2016年5月24日 公開 / 2016年5月27日更新
シェークスピアの四大悲劇の一つ「リア王」は、ブリテン王国を三つに分割して、三人の娘に後を継がせようとし、三人それぞれの考えを尋ねます。
長女のグルネリと次女のリーガンは、口に蜜、肚に剣をもって、リア王を絶賛し、この上もない良い後継者を演じます。
三女のコーディリアは、真心はあるものの、心にもない美辞麗句を並べることはしません。
そのため、リア王は、ブリテン国を二分割して長女と次女に与えます。
コーディリアは勘当されますが,フランス王が,コーディリアこそ王妃にふさわしい人と考え,フランス王の妃に迎え入れます。
さて、リア王のその後は,といいますと,周知の如く,長女と次女に冷遇され,王の尊厳はいうもおろか,人としての尊厳すら踏みにじられ、嵐の荒野に追放されるのです。
やがて,コーディリアがフランス軍を連れて救出にきてくれるのですが,英仏軍の戦いの果て,虜囚の身に陥り,殺され,リア王は、コーディリアの遺体を抱き、絶叫して世を去るという図になるのです。
我が事務所にも,リア王の気持ちをもって,相談に来られる,経営者が,毎年,確実に複数,おられます。
親は,苦心惨憺の前半生を有しているだけに,人情の機微を知り尽くし,顧客大事,従業員大事を第一義として,経営に心血を注いできており,経営の安定期に入っても,なお,同じ緊張感の中で,経営に腐心しますが,親の苦闘する姿を知らない息子は,親の心子知らずの喩えどおり,食べられなくなるという恐怖や緊張感はありません。
人生における,この経験の差。
この差は,経営における大きな差になり,親子の断裂につながることがあるのです。
経営者は,自らの苦闘の経験から学び得た哲学を,分かりやすい言葉で,後継者たる子に,伝え続ける必要があるのでしょうが,しかし,観念の中に入る言葉には,力がありません。諺にも,可愛い子には旅をさせよ,とか,苦労は買ってでもせよとか,いわれているのですから,子を優れた後継者にするには,優れた経営者になりうる経験もさせねばならないのでしょう。
しかしながら,これも,言うは易く行うは難しという譬えのとおり,これ以上は,私にも,ここで書く智恵はありません。
ただ間違いなくいえることは,現在という時代にあっては,親が子を代表取締役にしたことで,その親が,その子から,株主総会決議不存在を理由に,退職慰労金を返還せよ,という訴訟が起こされる現実があるということです。
この現実を,世知辛い世と思えば,会社経営者は,死ぬ直前まで,会社の支配権(普通株式なら過半数の株式を保有するか,あるいは株主の属人的扱いとして,あるいは種類株式を利用して,会社の取締役を選任する権限)は握っておく備えをしておくべきでしょう。
関連するコラム
- 事業の承継9 経営の才は、経綸の才に通ず 2016-06-03
- 賢い事業承継の手順 10 相続時精算課税贈与は,相続税の節税効果が薄い 2016-07-27
- 事業の承継7 もう一人の娘婿 2016-06-01
- 人も,後継者も,いつまでも,呉下の阿蒙にあらざるなり 2016-06-14
- 女性経営者 広岡浅子 2016-06-30
コラムのテーマ一覧
- 時々のメモ
- コーポレートガバナンス改革
- 企業法務の勘所
- 宅建業法
- 法令満作
- コラム50選
- コロナ禍と企業法務
- 菊池捷男のガバナー日記
- 令和時代の相続法
- 改正相続法の解説
- 相続(その他篇)
- 相続(遺言篇)
- 相続(相続税篇)
- 相続(相続放棄篇)
- 相続(遺産分割篇)
- 相続(遺留分篇)
- 会社法講義
- イラストによる相続法
- 菊池と後藤の会社法
- 会社関係法
- 相続判例法理
- 事業の承継
- 不動産法(売買編まとめ)
- 不動産法(賃貸借編)
- マンション
- 債権法改正と契約実務
- 諺にして学ぶ法
- その他
- 遺言執行者の権限の明確化
- 公用文用語
- 法令用語
- 危機管理
- 大切にしたいもの
- 歴史と偉人と言葉
- 契約書
- 民法雑学
- 民法と税法
- 商取引
- 地方行政
- 建築
- 労働
- 離婚
- 著作権
- 不動産
- 交通事故
- 相続相談
カテゴリから記事を探す
菊池捷男プロへの
お問い合わせ
マイベストプロを見た
と言うとスムーズです
勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。