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労基法上残業代を支払わないですむ「管理監督者」の要件

2016年3月7日

テーマ:労働

コラムカテゴリ:法律関連

1 行政解釈(昭和22年9月13日基発17号)
労働基準法上の管理監督者(労基法41条2号)とは,「一般的には局長,部長,工場長等労働条件の決定,その他労務管理について経営者と一体的な立場に在る者の意であるが,名称にとらわれず出社退社等について厳格な制限を受けない者について実体的に判別すべきものである」というのが行政解釈です。(昭和22年9月13日基発17号),裁判実務も概ね同じ考えに立っています(東京地裁平成20年1月28日判決/日本マクドナルド事件)。

⑵ 判断基準
労働基準法上の管理監督者に該当するか否かについて,上記裁判例では,以下の3点を具体的な判断基準として例示しています。
①職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか
②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるかいなか
③給与(基本給,役付手当等)及び一時金において,管理監督者にふさわしい待遇がされているか否か

⑶ 各判断基準において考慮する要素
ア 要件①について
要件①を検討する際は,以下の要素を考慮しています。
A 企業全体の経営方針への関与の程度
企業全体の経営方針等の決定に関与していないか,関与の程度が低い場合は管理監督者該当性を否定する方向の要素となりえます。
形式的に会議等に参加していても,実態として企業全体の経営方針等の決定に関与していなければ,管理監督者該当性を肯定する要素にはなりにくいようです(上記裁判例)。
B 就業場所の規模等職務の範囲
職務内容や権限の範囲が企業の事業全体から限られている場合には,管理監督者該当性を否定する方向の要素となりえます。
例えば,就業場所が支店等,企業全体の規模と比較して小規模な場所であって,その範囲に職務内容や権限の範囲が限られている場合,管理監督者該当性を否定する方向の要素となりえます(上記裁判例)。
C 上司に対する従属の程度
経営者又は上司の決定した事業経営の方針等に従わなければならない立場にあり,自己の裁量で業務を行うことができないような場合は,管理監督者該当性を否定する方向の要素となりえます(上記裁判例)。
D 部下に対する指揮監督の程度
直属の部下等がいない場合,部下等に対する指揮監督の程度が強くない場合は,管理監督者該当性を否定する方向の要素となりえます。
E 職務内容の他の従業員との相違
職務内容が他の従業員と同様の内容である場合は,管理監督者該当性を否定する方向の事情と考慮される可能性があります。
F 部下等に対する労務管理
従業員の採用や部下等の人事評価に関与していない場合,又は関与していても意見を述べるだけである場合,さらに上位の管理職等による評価等が行われるなど実体的な権限が弱い場合は,管理監督者が伊藤整を否定する方向の要素として考慮される可能性があります(上記裁判例)。
イ 要件②について
要件②を検討する際は,以下の要素を考慮しています。
A 労働時間管理
労働時間が所定労働時間にどの程度拘束されているか,出勤・退勤時間,休憩時間が定められているか,タイムカードによる労働時間管理が行われているか,及び他の方法による労働時間管理が行われているかどうかを考慮し,労働時間に対する自由裁量の有無が判断されます。
B 実態上の時間外労働の必要性
形式的には労働時間に裁量性が認められていたとしても,業務体制上の必要等から実態上長時間の時間外労働を余儀なくされている場合は,労働時間に対する自由裁量性は否定される傾向にあります(上記裁判例でも否定されています。)。
C 欠勤,遅刻,休日勤務等の扱い
欠勤,遅刻,早退等に関して上司等の承諾が必要とされ,又は査定等の対象とされる場合,休日勤務と代休の対応関係について企業で管理され賃金精算の対象となっている場合には,労働時間に対する自由裁量性が否定される可能性があります。
D 労働時間等の規制を超えて労働する企業の経営上の必要性
労働時間管理が緩やかであったとしても,労働時間等に対する規制を超えて勤務しなければならない企業の経営上の必要性が認められない場合は,管理監督者該当性が否定される可能性があります。
ウ 要件③について
要件③を検討する際は,以下の要素を考慮しています。
A 役職手当等について
役職手当等が支給されていても,割増賃金が支給された場合における割増賃金額と比べて多くない場合等,役職手当等が十分な金額とはいえない場合には,管理監督者該当性が否定される可能性があります(上記裁判例)。
B 他の従業員の待遇との比較
給与等が他の従業員と比較して相応の差異が認められない場合には,管理監督者にふさわしい待遇がなされているとはいえないとして,管理監督者該当性を否定する方向の要素として考慮されます(上記裁判例)。
C 給与等が高額である理由
給与等が高額であっても,その理由が役職にふさわしい待遇をするためではなく他の理由によるものと認められる場合には,管理監督者該当性を否定する方向の要素として考慮される可能性があります。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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