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コラム

使用者のための労働問題 普通解雇と懲戒解雇の違い

2014年8月25日

テーマ:労働

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 解雇 条件労働問題

Q 従業員Aが,職場で,他の従業員Bに暴力を振るいました。上司が注意をすると,Aは無断で欠勤してしまいそれが30日にも及びました。Aの働いている職場の全従業員から,Aがいると怖くて仕事にならないので解雇してくれと言ってきました。Aを懲戒解雇にできますか?懲戒解雇ができない場合は,普通解雇はできますか?
なお,当社の就業規則には,
懲戒解雇事由の要件として,
①職務を怠った場合又は職務上の命令に違反した場合
➁不正,不法な行為により,他の従業員に重大な損害又は影響を与えた場合
等があります。
また,
普通解雇の要件として,
①勤務実績が良くない場合
➁職務の遂行に必要な適格性を欠く場合
等があります。


1,懲戒解雇と普通解雇の違い
懲戒解雇は,制裁としての解雇です。普通解雇は,労働契約が履行できないことを理由に労働契約を解除することです。言葉を代えて言えば,懲戒解雇は,「仕事をする能力はあるが悪いことをした制裁として解雇する」というもので,普通解雇は,「悪いことをしたわけではないが仕事をする資質・能力がないために解雇する」というものです。
就業規則の解雇事由を見ても,その違いが分かるはずです。

2,懲戒解雇事由を普通解雇事由にすることは可能
懲戒解雇ができる事案で,普通解雇にすることは許されます(大阪地判平成10.7.17)。
不名誉となる懲戒解雇を選択しないで,普通解雇にすることは,労働者にとって不利益にはならないからです。

3,本件で,懲戒解雇は可能か?
(1)就業規則等に根拠があること
 懲戒解雇が有効とされるためには,労働者の行為が,予め就業規則等に定められている懲戒解雇事由に該当する必要があります(最高裁昭和54年10月30日判決)。
ご質問の内容では,Aの行為は,懲戒解雇事由の①のも➁にも該当するでしょう。
(2)相当性
 通常,懲戒処分をするには,懲戒解雇を最上位に置いて,戒告,減給,出勤停止等も懲戒処分にしていると思えます。その中で,懲戒解雇をするには,それに相当する非違行為でなければなりません。懲戒事由があっても,懲戒権の行使が権利の濫用と判断される場合には懲戒処分は無効とされます(労働契約法15条)。
 通常は,初めての非違行為の場合は,戒告,減給,出勤停止のいずれかにして,今後の勤務態度を見るべきとされることが多く,懲戒解雇は無効とされることが多いのですが,ただ,ご質問の場合は,従業員Aは暴力を振るっており(もっともA自身は否定しているようですが),その程度,内容によっては,懲戒解雇の理由になると思われます。

(3)適正手続を履践すること
就業規則などに懲戒委員会による手続や弁明の機会の付与などの手続が定められている場合には,その手続に従わなければなりません。そのような手続が定められていなくても,労働者に対して懲戒事由を事前に告知して弁明の機会を与えることが要求されています。これらの手続を踏まないで,懲戒処分をすれば,それだけで無効とされます。

(4)懲戒解雇事由を普通解雇事由にする場合も,懲戒解雇と同様に考えてすること
解雇は,「やむを得ない事由」がなければ無効になります(労働契約法17条)。
(5)客観的に判断されるべきこと
従業員Aの行為の評価は,客観的にされなければ無効とされます。
たんに,全従業員が,Aがいると怖いとか,一緒に仕事が出来ないという訴えだけを根拠にして解雇すると無効とされてしまいます。
懲戒解雇の場合の手続を踏んで,懲戒委員会が,解雇をやむを得ないと判断した後でないと解雇すべきではありません。

3,本件ですべきこと
本件で,Aを解雇するには,普通解雇であっても,懲戒処分としての要件と手続が必要です。具体的には,懲戒委員会があればそれを開き,なければ複数の幹部従業員がより客観的な視点に立って合議により,相手方となる従業員Aに対し弁明の機会を与え,かつ,関係者の言い分を聴き,あるいは現場現場で事情を調査し,懲戒解雇事由があるかどうかを慎重に判断し,懲戒解雇事由があると結論したときに,すべきことになります。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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