コラム
使用者のための労働問題 性同一性障害者に対する態度
2014年4月4日
1,性同一性障害者の性の取り扱い
性同一性障害者の性の取り扱いの特例に関する法律という法律があります。
同法3条に基づき,家庭裁判所で性の取扱の変更の審判を受けた者は,民法その他の法令の適用については,他の性に変わったものとみなされます(同法第4条)。簡単に言えば,男性であっても,法律的には女性として扱われることになるわけです。
2,更衣室やトイレの使用
男性が正当な理由がなく女性の更衣室やトイレをのぞき見すれば,軽犯罪法の規定により処罰されます(軽犯罪法1条23号)。また,民法上の不法行為責任も問われます。しかし,家庭裁判所によって,性の取扱の変更の審判を受け,性が女性に変更されていれば,女性の更衣室などを使用することに問題は生じません。ただし,事実上の問題として,他の従業員の理解を求める努力は必要になるでしょう。
3,雇用義務があるか?
企業には雇用するか否かの自由が認められます。すなわち,最判昭和48年12月12日によれば,企業は経済的自由の一環として,労働契約締結の自由をもっており,法律その他の制限のない限り,誰を採用するかについて制限を受けないとされています。その意味で,企業の採否の自由は広く認められるのですが,法律上の制限が設けられている場合もあります。例えば,男女雇用機会均等法において女性であることによる採用の差別が許されないことは,今日では,常識になっています(同法5条)。
性同一性障害者については直接的にそのような採用差別を禁止する法令等は存在していません(位置づけが難しいようです)。また,男女雇用機会均等法も「女性」であることを理由とする差別を禁止するものですので,「心と身体との不一致」に基づく差別とは観点が異なるものです(厚生労働省障害者雇用対策室のコメント)。
したがって,採用の自由を前面に押し出せば,応募の段階でお断りをすることはできるでしょう。ただ,公正採用選考といって,本人のもつ適性・能力以外のことを採用の条件にしないようにすべく啓発活動が行われていますので,性同一性障害であるという本人に帰責性のない事由で採用を拒否することが推奨できるものでないことはいうもでもありません。
4,裁判になった事例
東京地決平成14年6月20日は,仮処分の事例ですが,性同一性障害の労働者が女性の容姿をして出勤したことを服務規律違反であるとして懲戒解雇をした事件で,会社側が性同一性障害に関する事情を理解しその意向を反映しようとする姿勢が認められなかったことや,女性の容姿をした労働者を就業させることにより企業秩序に著しい支障をきたすと認めることはできないことなどを理由に解雇は無効とされています。
会社には,従業員が,性別変更の審判を受けたと否とにかかわらず,性同一性障害を理解するような対応が求められているのです。
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