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使用者のための労働問題 賃金を過払いしたときは,次の賃金から控除できる

2014年8月31日 公開 / 2014年9月3日更新

テーマ:労働

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 労働問題

Q 当社は,誤って,従業員の給与を多めに支払ってしまいました。そこで,次の給与日に過払金を控除したいと思いますが,法律上問題はありませんか?

1,過払賃金は,不当利得返還請求権の対象になる
賃金が過払いされた場合には,使用者から過払いを受けた従業員に対する不当利得返還請求権が生じます(民法703条)。従業員が過払いを受けた事実を知らなかった(善意)場合には,過払い部分だけを返還させることができます(民法703条)が,従業員が過払いの事実を知った(悪意)以後は,過払い部分に利息を付けて返還させることができます(民法704条前段)。利息は年5%です(民法404条)。

2 賃金からの控除(相殺)は,原則として禁止される
 賃金は,全額払いが原則です(労働基準法24条1項本文)。これは,労働者の経済生活の安定を確保する目的からです。したがって,使用者は,労働者(従業員)に対する債権があっても,賃金と相殺することは許されないのです。

3,例外
 しかしながら,これには例外があります。
例外の1は,労使協定がある場合です(労働基準法24条1項ただし書)。
例外の2は,控除の「時期,方法,金額等」から見て「労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合」には,控除することができます(最判昭和44年12月18日)。具体的には,控除が「過払いのあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ,また,あらかじめ労働者にそのことが告知されるとか,その額が多額にわたらない」ような場合です(上記判例)。
例外の3は,本人の同意がある場合です。すなわち,最判平成2年11月26日は,使用者が過払いを受けた本人の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的理由が客観的に存在する場合には,相殺は全額払いの原則に反しないと判示しているのです。

ですから,貴社の場合,例外の2に従い,従業員に対し,「給与の過払い分は,来月の給与から控除するよ。」と事前通告しておけば,控除(相殺)は可能です。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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