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「相続させる」遺言法理④ 「相続させる」遺言の執行者には、遺産目録調整義務はない

2017年1月26日

テーマ:相続判例法理

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 相続 手続き

民法第1011条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
民法第1012条 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
民法第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
民法第1014条 前3条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。

民法1011条は、「遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。」と規定していますが、この規定は、遺言執行者の「遺産録調製義務」といわれます。
この規定だけでなく、これに続く民法1012条「遺言執行者の権利・義務」や、民法1013条の「相続人の遺言執行妨害禁止義務」は、いうまでもなく、遺言執行者に遺言執行のある場合を予定した規定です。

ですから、遺言執行者が、遺言執行をすることがない場合は、これらの規定の適用を受けることはありません。
民法1014条の「前3条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。」という規定は、その意味なのです。
ですから、「相続させる」遺言の場合、遺言執行者は遺言執行をしないため、民法1014条でいう「特定の財産」はなく、したがって、相続財産調整義務はありません。
この点、誤解をする人が多いようですが、「相続させる」遺言における遺言執行者には、民法1014条により、遺産目録調整義務のないことは、教科書(例:有斐閣「新版注釈民法28」)にも書かれているところです。

下記審判も、その理を判示しております。

平成7年10月3日名古屋家庭裁判所審判(家月48.11.78)
 遺言執行者とは,遺言が効力を生じた後にその内容を実現するのに必要な事務を執行すべき者であるが,本件遺言の内容は,もともといわゆる「相続させる」旨の遺言であって,不動産の移転登記については相続人が単独で申請できるものであり,特に遺言執行者の就職を待つまでもなく,これを行うことができるものであった・・・
 申立人は,相続人として,遺留分減殺の請求をするために相続財産の目録の交付を受け,さらに相続財産の管理の状況を知る必要がある旨主張する。なるほど,民法1011条1項は遺言執行者が相続財産の目録を調製して,これを相続人に交付しなければならない旨規定し,同法1012条2項は,遺言執行者に同法645条(受任者の報告義務)を準用している。しかし,これらの規定はもともとすべて遺言の内容の実現を資するためのものであると認められるところ,本件の場合,本件遺言の内容から明らかなように,申立人のために本件遺言の執行をなすべきものは何もなく,・・・遺言執行者に就職していたとしても,本件の場合,相続財産の目録を調製したり,管理状況を報告させても,遺言の内容の実現には何の意味もなさないものである。遺留分権利者である相続人が遺留分減殺をするために相続財産の全容を知る必要のあることは理解できるが,それは困難な作業であるにしても,遺留分減殺請求権を行使する相続人自身が調査して,立証すべきものである。本件遺言の趣旨と逆の立場にある申立人が,遺言の執行と関係のないことを遺言執行者に求め,これをしないからといって任務違背とすることはできないものである。

ここまでの「相続させる」遺言法理の下では、遺言執行者には、なんらの権利も義務もがないように見えます。
しかしながら、それは平時においてのことであり、乱時には、遺言執行者に、出番がやって来るのです。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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