コラム
遺留分法理③ 遺贈(ここでは相続分の指定)+贈与により侵害された遺留分額の計算法理
2017年3月6日 公開 / 2017年3月7日更新
被相続人が、特定の相続人に生前贈与をし、かつ、一部の相続人に相続分の指定遺言をしていたことによって、遺留分が侵害された場合の計算方法に関する判例法理を紹介いたします。
この計算は、二段階に分けてなされます。
一段目は、相続分の指定の修正です。
しかしながら、生前贈与がある場合は(贈与が遺留分算定の基礎財産に含まれるので)、指定相続分を修正しただけでは、遺留分は回復しません。
そこで、二段目に、贈与を含めた計算がなされます。
次の最高裁決定の中の「次いで、」以下の文が二段目を指しています。
事実関係
①相続が開始した時の相続人は、先妻の子、妻D、後妻の子2EF6人
② 被相続人は、後妻の子のうちEに対し、生計の資本を贈与し、持戻しを免除していた。
③ 被相続人は、遺言書を書き、妻D1/2の、後妻の子DEに各1/4の相続分を指定し、先妻の子3人は、相続分がゼロであった。
④ そのため、3人は、妻Dと、後妻の子EF2人に、遺留分減殺請求をした。
決定文は、以下のとおりです。
最高裁平成24年1月26日決定
・・・遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合には,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が,その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正されるものと解するのが相当である(最高裁平成10年2月26日判決を引用)。
・・・被相続人が,特別受益に当たる贈与につき,当該贈与に係る財産の価額を相続財産に算入することを要しない旨の意思表示(以下「持戻し免除の意思表示」という。)をしていた場合であっても,上記価額は遺留分算定の基礎となる財産額に算入されるものと解される。・・・
本件遺留分減殺請求は,・・・被相続人の遺産分割においてABCの遺留分を確保するのに必要な限度で相手方らに対する被相続人の生前の財産処分行為(筆者注:贈与のこと)を減殺することを,その趣旨とするものと解される。
・・・遺留分減殺請求により特別受益に当たる贈与についてされた持戻し免除の意思表示が減殺された場合,持戻し免除の意思表示は,遺留分を侵害する限度で失効し,当該贈与に係る財産の価額は,上記の限度で,遺留分権利者である相続人の相続分に加算され,当該贈与を受けた相続人の相続分から控除されるものと解するのが相当である。
・・・これを本件についてみるに,本件遺留分減殺請求により本件遺言による相続分の指定が減殺され,相手方らの指定相続分がそれぞれの遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正される結果,相手方Dの指定相続分が52分の23,DEの指定相続分が各260分の53,ABCの指定相続分が各20分の1となり,本件遺産の価額に上記の修正された指定相続分の割合を乗じたものがそれぞれの相続分となる。
次いで,本件遺留分減殺請求により本件持戻し免除の意思表示が抗告人らの遺留分を侵害する限度で失効し,本件贈与に係る財産の価額を,上記の限度で,遺留分権利者である抗告人らの上記相続分に加算する一方,本件贈与を受けた相手方Y2の上記相続分から控除して,それぞれの具体的相続分を算定することになる。
まとめ
最高裁判所平成24年1月26日決定の判示部分をまとめますと,
①相続分の指定によって,遺留分が侵害された場合は,遺留分減殺請求により,相続分の指定が減殺されることになる。
②相続分の指定が減殺された場合には,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が,その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正される。
③(生前贈与があるために)相続分の指定の減殺だけでは,遺留分の額が確保できない場合は,その限度で,相続人が被相続人から受けた生前贈与が減殺される。
④その場合は,遺留分権利者の遺留分の額を確保する限度で,生前贈与に係る財産の価額が,遺留分権利者である相続人の相続分に加算され,当該贈与を受けた相続人の相続分から控除される。
⑤当該生前贈与につきなされた持戻し免除の意思表示は,遺留分を侵害する限度で失効する。
ということになります。
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