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相続税対策と株式の売却

2016年10月5日 公開 / 2018年8月9日更新

テーマ:相続(相続税篇)

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 相続 手続き相続税

Q 相続税対策として,会社の代表取締役が,生前に,自己所有の会社の株式を売買する方法が良い,と聞いたことがありますが,どういうことですか?
A 
1 課税遺産額の減少効果(メリット)
(1)株式を時価より安く売却すれば,その差額分に相当する金額が,課税遺産額の減額になること
 被相続人が保有する株式を,時価の1/2以上の額で,発行会社へ売却すると,原則として,低廉譲渡の問題は生じません(*①参照)。。
 この方法で株式を会社に譲渡しますと,時価との差額分は,課税遺産額を低くできます。
 例えば,時価1億円の株式を5000万円で会社に売却すると,課税遺産額は5000万円少なくなります。

(2)得た代金を暦年贈与で減少させれば,その分,課税遺産額は少なくなること
被相続人が株式を発行会社に売却して得た代金を,暦年贈与を繰り返すことで,相続人やその家族に贈与していけば,手持ちの現金が少なくなり,その分,課税遺産額は少なくなります。

2 課税問題(デメリット)
(1)譲渡所得課税
 株式を譲渡したときに譲渡所得課税(譲渡益の20%の分離課税)が生じます。
なお,株式を,時価の1/2未満の対価にしますと,譲渡した人には時価で譲渡したものとみなされ譲渡所得課税がなされ,譲渡を受けた会社は時価との差額を寄付されたものとして益金課税がなされますので注意が必要です(*①参照)。

(2)みなし配当課税
  株式を発行会社に譲渡した場合には,その譲渡対価のうち資本金等の額を上回る部分については,株主に対する配当とみなされますので(*➁参照)180頁),その分,被相続人は配当所得として課税されることになります。

(3)他の同族株主へ贈与税課税
 会社が自社株を時価より安く買い受けると,他の株主の所有する株式の価値が増加する効果が生じます。なぜなら,株式の譲渡対価が低いということは,会社から対価となる現金の流出が少ないということになりますので,一株あたりの純資産額が相対的に高くなってしまうからです(*③参照267頁)。その結果,同族株主は,株価が高くなる分について,贈与を受けたものとみなされ,贈与税が課税されるとされています(以上につき,*➁188~190頁)。

(参考):相続開始後株式の売買は,みなし配当をされない(要件に注意
 これは事前の相続税対策ではありませんが,相続開始後に株式を発行会社に譲渡する場合,株式の譲渡対価を利用して,相続税の納税資金とすることができます。税務上は,相続税の課税の対象となった株式を,相続税の申告期限後3年以内に譲渡した場合には,上記(1)のみなし配当の計算をしないとされています。これにより,相続人は,みなし配当の課税を避けつつ(相続開始前の譲渡よりも小さな税負担で),納税資金を確保することができるのです。

参考:
*①・・・所得税法59条1項2号は,「著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)」をした場合は,時価で譲渡したものとみなすという規定ですが,ここでいう「政令で定めた額」は,所得税法施行令69条で「資産の譲渡の時における価額の二分の一に満たない金額」とされています。
*➁ 笹島修平著「Q&Aと図解でわかる 事業承継のすすめ」大蔵財務協会,平成26年発行
*③ 牧口晴一・斎藤孝一著「事業承継に活かす従業員持株会の法務」中央経済社,2012年発行
他に,税理士法人山田&パートナーズ編「非上場株式の評価・税務Q&A」清文社2014年を参照

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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