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コラム

使用者のための労働問題 掲示板の設置・組合事務所の無償提供

2014年4月23日

テーマ:労働

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 労働問題

Q 今般,当社は,従業員が加入したという労働組合から,労働組合設立の案内と同時に,同労働組合及びその上部労働組合の連名による団体交渉の申し入れを受けましたが,その中で,①労働組合の掲示板の設置を認めること,➁組合事務所を提供することの要求がありましたが,応じなければなりませんか?

A 
応じる義務はありません。
使用者は,労働者や労働組合に対し,してはならない行為(不当労働行為)があります(労働組合法7条)。
その1は,労働者が組合員であることを理由に,解雇その他の「不利益取扱」をすること,
その2は,組合との団体交渉を拒否すること(「団交拒否」),
その3は,労働組合に「支配介入」すること
その4は,労働者が労働委員会に対し使用者の違反行為の申立てをしたことを理由として、解雇その他の「不利益取扱」をすることです。
なお,使用者が,労働組合の運営のための経済的な援助をすることは,組合には有利なことになるように見えますが,これは「支配介入」になりますので,それもしてはなりません。

してはならないことは以上ですが,逆にしなければならないサービスというものはありません。したがって,掲示板の設置許諾や組合事務所の提供の義務はありません。

2,組合の要求の1-掲示板の設置許諾
使用者には,労働組合から,使用者の土地や建物内に掲示板の設置の許諾を求められても,それに応じる義務はありません。ただし,複数の組合がある場合の,差別的扱いは許されません。これは4で解説します。

なお,労働組合が求める掲示板設置許諾は,組合と組合員間又は組合員相互間の情報伝達のためと思われますが,現在は,ホームページ上に掲示板を作成することや,携帯電話のメーリングリストなどで情報の受発信は十分可能なので,掲示板の設置の必要性は相当程度減っていると思われますが,それでも組合には必要がある場合があるのでしょうが,そうであっても,使用者には,それに応ずる義務はないのです。

3,組合の要求の2-組合事務所無償貸与
これを拒んでも,不当労働行為にはあたりません。
国鉄札幌運転区事件で,最判昭和54年10月30日判決は,労働組合には,使用者に対し,組合事務所の貸与請求権のないことを明らかにしていますが,オリエンタルモーター事件でも最判平成7年9月8日判決も,
「…使用者が組合集会等のための企業施設の利用を労働組合又はその組合員に許諾するかどうかは、原則として使用者の自由な判断に委ねられており,使用者がその利用を受忍しなければならない義務を負うものではないから,右の権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては,使用者が利用を許諾しないからといって直ちに団結権を侵害し,不当労働行為を構成するということはできない」と判示しているのです。

4,例外
複数の労働組合があって,その1つには掲示板の設置や組合事務所の無償使用を認め,他の組合には認めないというような,差別的な扱いをすると,差別された組合の弱体化に手を貸すことになりますので,「支配介入」とされる可能性はあります(最判昭和62年5月8日,最判昭和60年5月23日,新裁判実務体系17・労働関係訴訟法Ⅱ,128頁)。それ以外は,支配介入にはなりません。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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