コラム
相続 18 生命保険金1
2010年9月22日 公開 / 2010年9月23日更新
閑話休題
しばらく本論から離れていましたので、元に戻ります。元とは、法律問題です。
【言葉の説明】
保険料 保険をかけた人(保険契約者)が支払う掛け金のこと
保険金 保険会社が支払ってくれるお金のこと
保険者 保険会社のこと
保険契約者 保険会社と保険契約を結び、保険料を支払う人のこと
被保険者 保険がかけられた人、つまり、その人が亡くなると生命保険金請求権が発生する関係になる人のこと
保険金受取人 被保険者が死亡すると保険金請求権を取得する人のこと
1 死亡保険金は保険金受取人固有の財産
相続が開始しますと、被相続人を被保険者とする生命保険契約の効果により、生命保険金が支払われます。多くの場合、生命保険契約で死亡保険金受取人と定められている者が、保険金を受領します。
この生命保険金は、相続財産ではなく、受取人の固有の財産になります(最高裁昭和40.2.2判決・最高裁平成14.11.5判決)。
相続財産とは、被相続人が生前に有していた財産ですが、生命保険金は、被相続人が死亡したことが原因で発生する債権ですから、理論上も、相続財産にはならないのです。
2 受取人を無視して、保険金を遺贈する遺言は無効
以 上の次第で、生命保険金は、受取人固有の財産ですので、保険契約者であり、被保険者である遺言者が、保険金の一部を第三者に遺贈する旨の遺言をしても、無効です(大審院昭和6.2.20判決)。
3 遺言で受取人を変更することは可能
しかながら、遺言者は、自らが保険契約者になっている生命保険契約では、保険金受取人を自由に指定・変更ができますので、遺言で、指定・変更することが認められます(東京高裁平成10.3.25判決)。この判決は、「保険契約者以外の者を保険金受取人とする指定がある場合には、保険金請求権は保険契約者に帰属するものではなく、これを保険契約者が保険金受取人の変更以外の方法で処分することはできない」と判示しています。
ですから、自分の死後支払われる生命保険金を、複数の者に分け与えたいと思うときは、遺言で、複数の者を受取人にするしか方法はありません。
4 相続放棄をしても保険金は受け取れる
生命保険金は、相続財産でなく、受取人として指定された者の固有の権利ですから、その者が相続放棄をしても、保険金請求を失うことはありません。
ですから、生命保険金が入っても、親の借金を支払いたくないと考えれば、相続放棄をすれば可能です。
5 受取人を「相続人」と定めたときの「相続人」の意味
なお、生命保険契約で、受取人を、特定の人ではなく「相続人」と定めた場合で、相続順位1位の相続人が相続放棄をしたとき、生命保険金を受け取る人は誰でしょうか?
東京地裁昭和60.10.25判決は、相続順位1番の相続人が、保険金の受取人になる、と判示しております。
妻や子を保険金受取人とする意思で「相続人」と書いた契約者が、死亡したとき、その者に多額の負債があったので、相続人である妻や子が相続放棄をしたからと言って、保険金が、甥や姪のものになる(相続の順位2位の直径尊属などがない場合)ということは、契約者は考えていないでしょう。やはり、相続放棄をしても、妻や子に、つまりは契約者が考えていた「相続人」に受け取らせたいでしょう。
このように、保険契約者の意思を考えると、「相続人」とは「被保険者死亡時の相続人」であるはずですから、その者が相続放棄をしたからと言って、その者を保険金受取人から除外する理由はなく、上記の判決は、当然と言える判断です。
6 このとき相続人が複数いる場合の保険金の割合
同判決は、保険金受取人として指定された相続人が複数いる場合は、各相続人はそれぞれ法定相続分の割合で保険金請求権を取得すると判示しております。
これも被相続人である保険契約者の意思を忖度すると、そうなるものと思われます。
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