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コラム

相続 7 抽象的相続分と具体的な相続分

2010年9月11日

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 相続 手続き


ここは凸凹総合法律事務所の会議室
井垣次郎の長男伸一が、大学の同級生であった森武弁護士に、「藁にもすがる思いで来た。」という。
森武は言う。

相続財産×抽象的相続分=相続人の取り分、ではない
「英美の申し入れてきた遺産分割協議には応じなければならない。ただ、遺産分割をするのに、注意しなければならないことがある。英美の法定相続分が2/3であること、邦枝の取り分が1/3であることは間違いないが、これは「抽象的な相続分」というものだ。
相続財産に抽象的な相続分を乗じたものが、直ちに、相続人の取り分になる、というものではない。

相続財産+生前贈与-寄与分=みなし相続財産
遺産分割では、相続財産の中からもらえる「具体的な相続分」を決めなければならない。具体的な相続分は、太郎の遺産の評価額に、各相続人が太郎より生前に贈与を受けたもの評価額を加え(これを「特別受益者の持ち戻し計算」という。)、太郎の財産形成に寄与した相続人がいる場合はその寄与分(寄与分は割合又は金額で認定されるが、いずれにせよ最終的には金額で確定させる)を差引く、という足し算引き算をし、その結果、いくらの金額になるかを算出するのだ。これが「みなし相続財産」と言われる金額で、具体的な相続分を算出するための計算根拠になる数字だ。

みなし相続財産×法定相続分=一応の取り分
みなし相続財産の金額が出ると、これに抽象的な相続分(この件では法定相続分)を乗じれば、各相続人の取り分が決まるが、この後にまだ作業が続くので、この取り分を「一応の取り分」ということにする。

一応の取り分-生前贈与+寄与分=具体的な相続分
生前贈与を受けておらず、また寄与分のない相続人は、この「一応の相続分」がそのまま「具体的な相続分」になるが、生前贈与を受けた相続人は、「一応の相続分」からすでにもらっている生前贈与額を引き、また、寄与分のある相続人は、寄与分を加え、これによって算出された金額が、「具体的な相続分」になる。

太郎の遺産についての計算
太郎の遺産について言えば、どうも英美、邦枝とも太郎から生前贈与を受けていないようなので、太郎の遺産の評価額の上に生前贈与分を加える持ち戻し計算の必要はない。でも、太郎の遺産、特に土地建物は、太郎の父万作が死亡したときの遺産分割で、邦枝の相続分を譲ってもらって取得できたと評価できそうなので、これが「寄与分」になるとすれば、それを控除する必要がある。今、邦枝の寄与分を土地建物の評価額の1/2だと仮定すると、英美と邦枝の具体的相続分の算出は、次の順序による。
1土地建物の評価額1億5000万円+預金1500万円-寄与分7500万円=と9000万円が「みなし相続財産」だ。
2これに、英美の抽象的相続分2/3を乗じれば、英美の一応の取り分は6000万円。一方、邦枝は、1/3を乗じた3000万円。これが2人の一応の取り分だ。
3    一応の取り分の上に、邦枝の場合寄与分7500万円があるので、合計1億500万円が「具体的な相続分」になる。英美は寄与分がないので6000万円がそのまま「具体的な相続分」だ。
3これにより、太郎の遺産額(土地建物1億5000万円+預金1500万円=1億6500万円)は、遺産分割で、英美が6000万円、邦枝が1億500万円になるように分割することになる。
4ところで、英美はすでに預金のうち1000万円は直接金融機関から支払を受けているようなので、そうすると土地建物から5000万円分を与えることになるだろう。その他は、邦枝が相続するものだ。

問題
以上は、邦枝に寄与分7500万円が認められることが前提になっている。問題は、邦枝に寄与分が認められるかどうかだ。
認められなければ、英美のいうとおりの分割案になる。
そこで、一度、君の祖母である邦枝に会って話を聞いてみたい。また、ボク自身、邦枝が自分の相続分を太郎に譲って太郎の資産形成に寄与したことが邦枝の「寄与分」と認められるかどうかについて調査をしておきたいよ。」

暗い思いで、友を訪ねた伸一であったが、凸凹総合法律事務所を出たときは、晴れやかな気持ちに変わっていた。

参照条文
(特別受益者の相続分)
民法903条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前3条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
(寄与分)
民法904条の2 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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