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整理解雇で考えるべき事柄

2020年4月28日 公開 / 2020年5月28日更新

テーマ:コロナ禍と企業法務

コラムカテゴリ:法律関連

1 整理解雇の有効性の判断基準
 整理解雇が有効と認められるためには,
①「整理解雇の必要性」,
②「整理解雇の回避努力義務」,
③「人選基準及び人選の合理性」,
④「手続の妥当性」の4要件を満たす必要があります。

2 整理解雇が無効とされた場合のリスク一般について
 従業員を整理解雇したものの,当該従業員から当該整理解雇の有効性を争われ,裁判所の判決をもって当該整理解雇が無効となった場合、従業員は,会社に対して,解雇時から復職時までの未払賃金を請求することができます(民法536条2項)。加えて,未払賃金には遅延損害金が生じますし,その他の請求等もされる可能性があります。
 このように整理解雇が無効となった場合,会社はその間の賃金等を支払わなければならず,裁判所の判決が出るまでに時間を要すれば,貴社は相当高額な金銭を支払わなければならない可能性もあります。 したがいまして,整理解雇の準備は極めて慎重に進めなければなりません。

3 ①「整理解雇の必要性」について
 整理解雇は,経営の十分な必要性に基づいて実施されなければなりません。使用者側としては,貸借対照表・損益計算書やその根拠となる資料(前年同月売上比較表など)に基づき,経営上の具体的数値を示して,人員削減の必要性を具体的に説明する必要があります。

 コロナ禍を原因とする整理解雇は、売上の減少が理由になると思われますが、それだけでは十分ではありません。なぜならば,仮に当該売上減少が一時的な赤字である場合には整理解雇の必要性としては不十分だからです。

 そこで,会社は,次の観点から「整理解雇の必要性」について,具体的な事実(できる限り数字をもって)を踏まえ整理を行ってください。なお,当該整理に当たっては,下記4もご参照ください。
(a)経費削減の必要性
(b)人件費削減の必要性
(c)人員削減の必要性
(d)解雇の必要性

4 「②整理解雇の回避努力義務」について
 使用者は,整理解雇に先立ち極力,整理解雇を回避するための努力をしなければなりません。
 (a)経費削減に関する努力 → 取引先、賃貸人などとの交渉
 (b)人件費削減に関する努力
一時帰休・残業カット・賞与の減額等,それでも不十分場合には将来にわたる賃金引き下げ等を検討します。その他,政府等が提供している助成金等の受給も検討する必要があります。
 (c)人員削減に関する努力
それでもなお回避策に足りないときは人員削減策を検討することになります。
(d)希望退職者の募集
 ※退職して欲しい人物を選定した上で退職に応じた場合の金銭を提示することは,「退職勧奨」であって,解雇(を)回避(するための)努力ではない,と考えられています。ただ,もはや解雇しか選択肢が存在しない場合において,できる限り労働者への配慮を行うという観点から退職勧奨の上合意退職を目指すことは,手続の丁寧さに結びつくものと考えられます。

 (d)解雇
 (a)~(c)における対応が功を奏しない場合には,解雇を検討することになります。ただ,当該場合でも,まずは正社員と比べて企業との結びつきが相対的に弱いとされている「有期契約労働者の雇止め」が検討される必要があります。
もっとも,当該場合でも労働契約法19条の制限があります。
 加えて,雇止めではなく,「有期労働契約の期間途中の解雇」を検討する場合には,さらに留意しなければならない点があります。すなわち,有期労働契約の期間途中の解雇は「やむを得ない事由がある場合」に限り認められており(労働契約法17条),期間の定めのない労働者よりも解雇のハードルが引き上げられています。そのため,有期労働契約者について整理解雇を行う場合には,これまで説明してきた整理解雇の要件よりもさらに高いハードルが設定されると理解した方がよいといえます。
 
5 ④「手続の妥当性」について(概要のみ)
 整理解雇が使用者側に生じた事由を理由に労働者に不利益を課すものである以上,使用者は労働者側に対し,
A)人員削減の必要性があること
B)解雇回避努力を尽くしたこと
C)人選が合理的であることを
を説明し,協議をしなければなりません。当該説明・協議においては,使用者から具体的な書面資料を提供し,誠実交渉義務を果たしたといえる程度の説明・協議が必要となります。

6 留意点1
整理解雇がコロナ禍のみが原因なのか(一時的な要因)、構造的な者なのか?
一時的なものならば、労基違法26条による休業手当(平均賃金の6割支給)で対応できないか?など、経費節減の具体的方法を充分考えた上での結論である必要があります。

7 留意点2
希望退職者を募ると、辞めてほしくない従業員まで辞める恐れがあるという場合は、希望退職者が会社の予定した人数に達しないときは整理解雇をするのだという意思と、その整理解雇の対象になる者についての基準を明確にしておけば、辞めてほしくない従業員を辞めさせない結果になることが期待できます。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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