コラム
先進各国のコーポレート・ガバナンスの今
2018年4月23日
1 わが国の場合
わが国では、バブル経済の崩壊後、一気に会社経営者の不祥事が表面化して、「ガバナンスに問題があった」とか、「ガバナンスが効いていなかった」という言葉が盛んにつかわれるようになった。学会でも、①機関相互間の権限分配の見直し、②株主総会制度のあり方、③取締役会制度のあり方、④監査制度のあり方、⑤株主代表訴訟のあり方、⑥開示制度(ディスクロージャー)等について、議論されるに至った(日本私法学会商法部会シンポジューム「コーポレート・ガバナンスー大会社の役割とその運営・管理機構を考える」商事法務1364号2頁)。その後、次に述べるような、世界の流れの中で、2015年(平成27年)6月1日、日本版コーポレートガバナンス・コードを誕生させた。
2016年5月には改定版が策定される見込みである。
2 OECD(経済開発協力機構)のコーポレートガバナンス原則
OECDとは、ヨーロッパ、北米等の国々によって、国際経済全般について協議する国際機関であるが、1999年に「コーポレート・ガバナンス原則」を公表した。
その内容は、経済的な効率性、持続可能な成長、金融の安定を目的として、各国に対し、以下6項目を明確にしたコーポレートガバナンス・コードを策定することを促すとともに、世界銀行が資金を提供する各国の企業のガバナンス状況を右原則に従って評価したものである。
この「コーポレートガバナンス原則」は、その後の各国のコーポレート・ガバナンス・コードに影響を与えている(OECD 「 G20/OECDコーポレート・ガバナンス原則」参照)が、それにとどまらず、以後、各国の上場企業は、この原則に従って企業経営をしないと、国際的信用を得られなくなるほどの効果のあるものになっている。
なお、「コーポレート・ガバナンス原則」は、2015年に改正されたが、同年6月1日には、わが国が日本版コーポレートガバナンス・コードを策定したこと前述のとおりである。
Ⅰ)有効なコー ポレート・ガバナンスの枠組みの基礎の確保
Ⅱ)株主の権利と公平な 取扱い及び主要な持分機能
Ⅲ)機関投資家、株式市場その他の仲介者
Ⅳ)ステークホルダーの役割
Ⅴ)開示及び透明性
Ⅵ)取締役会の責任
3 アメリカにおけるコーポレート・ガバナンス
前述のOECDのコーポレート・ガバナンス原則によって、一応コーポレート・ガバナンスの国際基準が示されたが、これをどのように実現するか、またどのような仕組みが最も優れているかを評価することは、各国の判断に任されている。
アメリカでは、会社法は各州で制定され、その中身は同じでない。しかし、コーポレート・ガバナンスについては、すでにアメリカ法律協会(ALI; American Law Institute)が、取締役の義務と責任を中心にアメリカ各州の会社法およびその判例を集約し、あるべき姿を「コーポレート・ガバナンスに関する分析と勧告」としてまとめて公表したので、国内的にはほぼ統一されたものになっている。コーポレートガバナンスの要になる、経営者の監督については、経営者から独立した社外取締役を中心に構成される取締役会によって行われるべきことが提唱されている。
4 ドイツにおけるコーポレートガバナンスの改革
ドイツでは、ユニバーサル・バンク制度(銀行と証券の兼営制度)がとられている関係上、従来、銀行の産業支配力が強く、資本市場はあまり発展しなかったが、「企業領域における統制および透明化のための法律」、「株式法・会計法の透明性および公開に関する改革法」が制定され、コーポレートガバナンスが強く意識されるようになった。
なお、ドイツでは、業務執行を担当する取締役は、株主総会ではなく監査役会で選任され、監査役会の監督を受ける。監査役と取締役は、兼務することができず、監査役会には労働者の代表が参加する。
一定以上の規模の大会社では、出資者代表と労働者代表が対等の割合で参加する(共同決定法Mitbestimmungsrecht)など、わが国とは(わが国はドイツから会社法を導入したものではあるが)、相当に違いがある。
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