コラム
遺言執行を要する法定遺言事項① 特定遺贈
2017年1月30日
1 特定遺贈は遺言執行が必要
特定遺贈とは、特定の財産を、相続人又は第三者に遺贈することで、遺贈を受ける者は「受遺者」と呼ばれます。
例えば、次のような遺言です。
私は、姪の凹川鮎子に、○○銀行○○支店にある普通預金の全部を遺贈する。
特定遺贈は、被相続人の死亡と同時に効力が生じ、特定遺贈の目的とされた特定の財産は何らの行為を要せずして直ちに受遺者に帰属します(最高裁平成8年1月26日判決)ので、相続人に対する遺産分割方法の指定に似ていますが、相続人に対する遺産分割方法の指定と違って、遺言執行が必要です。
遺言執行は、遺言執行者がいる場合は遺言執行者がし、遺言執行者がいない場合は相続人全員ですることになります。
2 遺言執行者の権利と義務
特定遺贈の場合は、下記の民法の条文のすべてが適用になります。
・・・・・条文の紹介・・・・・
(相続財産の目録の作成)
第1011条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
(遺言執行者の権利義務)
第1012条 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
(特定財産に関する遺言の執行)
第1014条 前3条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
(遺言執行者の地位)
第1015条 遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。
・・・・・・・・・・
すなわち、遺言執行者は、受遺者に遺贈する財産(これが「民法1014条にいう「特定の財産」のことです。)についてのみ、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければなりません(民法1011条)。相続人に相続財産目録を交付するのは、遺言執行の妨害をさせないため(民法1013条を守らせるため)遺言執行の対象となる財産を知らせのです。そして、それについて遺言執行するのです(民法1012条)。その場合、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができません(民法1013条)。無論、それ以外の遺産については、相続人は、遺産分割その他の方法で遺産の処分はできます(民法1014条)。
3 遺言執行の効果
遺言執行者がした遺言執行の効果は、相続人に及びます。民法1015条の「遺言執行者は、相続人の代理権とみなす。」との規定は、この趣旨の規定です。
遺言執行者は、親権者や後見人のような法定代理権はなく、また、全相続人との間で委任契約を結んで任意代理人になることが義務づけられているものでもありません。
民法1015条は、遺言執行者のした遺言執行の効果が、相続人に帰属することを説明するための「法の擬制」といわれています。
4 不動産についての遺言執行
特定遺贈の対象が不動産の場合、受遺者への所有権移転登記手続と不動産の引渡しは、遺言執行としてなされます。
遺言執行としての所有権移転登記手続は、遺言執行者又がいれば遺言執行者が、遺言執行者がいなければ相続人全員が、受遺者との共同申請でなされます。
遺言執行者がいる場合、遺言執行者は、遺贈の対象になった財産を、受遺者に引き渡す義務がありますので、相続人がそれを占有しているときは、相続人に対しその引渡しを請求できます(東京地裁昭和51.5.28判決)。
5 遺言執行者が不動産について遺言執行をしない場合、受遺者が所有権移転登記手続を請求できる相手方は、遺言執行者になります。
参照:最高裁昭和43年5月31日判決
「特定不動産の遺贈を受けた者がその遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記を求める訴において、被告としての適格を有する者は遺言執行者に限られるのであつて、相続人はその適格を有しないものと解するのが相当である (大審院昭和15年2月13日判決参照)。」
なお、遺言書に遺言執行者の指定がなされていない場合は、受遺者は、家庭裁判所に対し、遺言執行者の選任を求めることができます(民法1010条)。
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