コラム
自治体の契約能力を疑わせる,最高裁判決事件④ ー 憾み節をいう前にすべきこと
2016年2月18日
1 H県の憾み節と最高裁判決の補足意見
結果において,H県の試みた,信託事業は失敗に終わり,80億円もの費用を支払うことになりましたが,信託銀行側がその費用を1円も負担しない結果になったことにつき,H県は,上告理由書に,「信託契約においては,委託者であるH県が,受託者である信託銀行2行を信頼し,本件信託土地の所有権を移転して,全面的に運用を任せたのであり,運用の失敗の結果生じた損失を一切信託銀行2行が負担しないというのは不合理である。」と主張しました。
これに対し,最高裁判決補足意見は,「しかしながら,本件信託契約においては,信託銀行2行に,信託財産の現況及び運営状況その他必要と認める事項について報告義務が課せられているほか,信託施設の設計・監理,工事請負契約の内容及び大幅な修繕等から信託施設の運営主体及び賃貸条件の設定に関する事柄まで,H県との協議義務が課せられており,他方,H県は,調査及び監査権限並びに是正等の指示権限,さらには信託契約の終了権限を有するのである。このように,H県には通常の土地信託と比較して強い介入権限があり,実際にもそれらは行使されていることが認められる。所論は,失当というほかない。」といっております。
2 H県のすべきだったこと
一つは,契約意思を明確に定め,それを明確な言葉でもって文章にする(契約書に書く)ことでした。
それと,はやり,自治体が,民間企業がするような事業を行うことのの能力や是非や可否を十分検討したうえで,するべき方法を考えることだったのではないかと思います。
その場合,事業が破綻したときの費用を,自治体が負担するという信託方式は,危険性が高く,そうかといって,自治体から公益性を満たすように注文を付けられながら,費用を受託者が負担するという信託方式では,受託者側が受けることはないと思われますので,いずれの側からも,信託方式の事業は難しいと思われます。
それよりも,破綻のときの費用を,自治体が負担しない,定期借地権設定方式がよいように思えます。
その方式を採用しながら,借地人に,ある程度の公益性を満たす具体的な施設・設備を設置してもらい,その部分については,自治体も設置費用や維持費を負担し,かつ,その面積分の借地料を免除するなどの方法が,考えられます。例えば,公営住宅に代わる定期借地人が経営する賃貸マンション(場合によってはこれに商業施設を付設)に,公費にかかる遊園地や緑地や公共空間などです。
愚見,管見は百も承知で,今回の最高裁判決事件を見,思うところを,述べさせていただきました。
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