コラム
相続相談 自社株式の価格④ インカム・アプローチ(収益方式)の弱点
2013年10月15日
この方式には、
⑴ 収益還元法(会社が半永久的に存続することを前提にしたもの)
⑵ DCF(Discounted Cash Flow)法(会社の収益期間を限定した上で、その 期間の収益と期間末での財産の処分による収益を基礎に株価を算出する方法で、この方式にも、①フリーキャッシュフロー=FCF法、②残余利益法、③調整現在価値法=APV法がある)
がありますが、
福岡高裁平成21.5.15決定事件の鑑定書3通は、同じDCF法によりながら、1通は、1株当たりの価格が161万7590円、2通目の同じ鑑定人による修正資料に基づく再鑑定では247万3000円になっている一方、裁判所が嘱託した鑑定士の鑑定書では22万6485円になるなど、数値が極端に異なっています。
同決定は、これは「介護事業という特殊性及び相手方の完全子会社という属性を有する対象会社について、事業収支計画の予測や投資利益率の決定の困難さが現実に露呈した結果」であるとしていることからも分かるように、株価算定の基礎データのとりかたで、金額が大きく変わるという弱点のあることが分かります。
それでも同高裁決定は「DCF法は、継続企業価値の把握という面では正しいものを含んでいることは明らかであって、本件株価の算定にあたって、これを全面的に無視することは許されないといわなければならない。」と言い、この事件では、DCF法価格を、3つの鑑定意見のうち純資産価額法との乖離が最も少ない22万6485円を採用しています。
同決定は、さらにこのDCF法価格を3の割合、純資産価格を7の割合で併用し、1株当たりの価格を10万3261円に決定しましたが、DCF法価格の決め方、純資産価格との比率が論理的であるかどうかは不明です。
ちなみに、この事件の一審の福岡地裁平成20.4.8決定は、対象会社の平成17年決算と同18年決算に基づく純資産価額法による1株あたりの価格の中間値をとって1株あたりの売買価格を7万5000円と定めています。
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