コラム
相続相談 51 相続財産と遺産
2012年11月15日
Q 相続財産と遺産はどう違うのですか?
A
民法の相続法(民法第五編相続)には、被相続人が死亡時に遺した財産については「被相続人が相続開始の時において有した財産」と「相続財産」と「遺産」という言葉が使われています。
1被相続人が相続開始の時において有した財産
被相続人が相続開始の時において有した財産という言葉は、民法903条1項に見られますが、この言葉は、文字通りの意味ですので、特別の法的な評価がされていない言葉と言ってよいでしょう。要は、被相続人が死亡する寸前まで有していた財産のことですから、その中には、遺言によって取得者を決めている財産と、そうでない財産(相続人が複数いる場合の遺産分割の対象になる財産)も当然含まれます。
2相続財産
相続財産という言葉は、相続法では、44もの数の条文の中に見られる言葉ですが、明確に定義づけた条文はありません。しかし、民法898条は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。」という規定がありますので、相続財産は、共同相続人の間で共有の財産ということになり、遺言で取得者が決められている財産(特定遺贈・遺産分割方法の指定の対象財産)は、相続財産には含まれないものと考えられます。
ですから、相続財産とは、被相続人が相続開始の時において有した財産から、遺言又が死因贈与契約によって特定の相続人及び特定の受遺者や受贈者に帰属することになった財産を除く、共同相続人の共有の財産ということになると考えられます。
3遺産
遺産という言葉は、相続法では、8つの数の条文に見られる言葉ですが、これらの条文でも遺産の定義をしたものはありません。ただ、条文上は「遺産」という言葉は、「遺産の管理」と「遺産の分割」という他の言葉で使われているだけです。
判例でも、遺産を明確に定義したものはありませんが、最高裁判所平成元年3月28日判決は、「遺産確認の訴えは、当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴え」であると判示していますので、この判例によれば、「遺産」とは「遺産分割前の共同相続人が共有している相続財産」の意味になります。
しかしながら、最高裁判所平成3年4月19日判決は、「特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言」についての法律解釈をした判例ですが、ここでは、「特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言」すなわち、遺産の分割の方法を定めた遺言によって特定の相続人に取得させた財産をも「遺産」と表示していますので、この判例に拠れば、「遺産」は、相続財産よりも広い範囲の言葉になっています。
以上の次第で、「遺産」という言葉は、狭義では「遺産分割前の共同相続人が共有している相続財産」の意味になり、広義では「「被相続人が相続開始の時において有した財産」になります。
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