遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 遺産分割方法の指定と遺言の執行
遺産分割の方法の指定とは、遺言者が、遺言で、遺産を具体的に特定して、特定の相続人に相続させることをいいますが、この遺言事項は、遺言の効力が生じたときに当然に効力が生じますので、遺言の実現のための遺言執行者の行為は必要ありません。また、その相続人が単独で所有権移転登記手続をすることができます。
その点、被相続人の財産が遺言によって指定された者に与えられる点で同じ効果がありながら、本連載コラム「相続 135」で解説しました特定遺贈の場合とは異なります。
2 相続財産に対して権利を有する者は、相続人を相手にするべきか、遺言執行者を相手にするべきか?
相続財産である不動産に賃借権があると主張する者が賃借権確認訴訟を起こした事案で、判例(最高裁平成10.2.27判決)は、遺言執行者ではなく、当該相続人を被告にすることになると判示しました。
3 遺言執行者の義務
ですから、遺言執行者には、遺産分割方法の指定による所有権等の移転登記手続をする義務はありません(最高裁平成7.1.24判決)。
3 遺言執行者の権限
しかしながら、相続人への所有権等の権利の移転登記手続は重要なものになりますので、遺言執行者は、相続人への登記手続をする権限は有しています(最高裁平成11.12.16判決)。ただし、その詳細な内容については、「相続 139 「相続させる」旨の遺言と遺言執行者の権限」を参照して下さい。
判例は、遺産分割方法の指定により不動産を相続した者への所有権移転登記手続に関しては、権利と義務の範囲を異にしているのです。