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相続 90 不動産の評価はどうやってするの?

菊池捷男

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1 専門家による鑑定が原則
⑴ 固定資産評価額で評価をするのは違法との決定例
ア 昭和の古い裁判例
札幌高裁昭和39.11.21決定は、固定資産評価額は不動産の時価と一致しないのがむしろ一般の事例であるから、不動産の分割に際してはその価格は鑑定等により評価すべきである、と判示し、固定資産評価額でした遺産分割の審判を取り消しました。

イ 平成時代の裁判例
 アの高裁決定例は昭和の時代。土地の価格は毎年上昇していく、いわゆる土地神話のあった時代ですので、この時代は、固定資産税価額は時価の7割程度との認識が一般的であり、固定資産評価額でなく不動産鑑定士による鑑定価格で評価すべしとの決定は理解できるのもですが、バブル経済の崩壊により土地神話がなくなったはずの平成9年段階でも、次のような高裁決定が見られます。すなわち、
福岡高裁平成9.9.9決定でも、「固定資産評価額は、時価よりかなり低額であるのが通例である、との理由で、それによってなされた審判を取り消しています。

⑵ 家裁の調査官の作成した不動産に関する調査書による評価も違法
大阪高裁昭和58.7.11決定は、当事者が不動産の鑑定を申し出ているにもかかわらず、家庭裁判所調査官が作成した、宅地価格調査一覧表、不動産取引広告、を主たる資料とした、土地建物価額評価に関する調査結果、で不動産の時価を評価した家裁の審判を違法だとして取り消しました。
この事件では、一部の相続人が不動産を取得し、その他の相続人には現金を支払うという代償分割の方法による審判をしていますので、不動産の評価が時価より安いと、不動産を取得する相続人には有利ですが、そうでない相続人には不利になりますので、この高裁決定は、「このような場合には相続人全員が明確に同意するなどの特別の事情がない限り、不動産価額の評価について右のような方法によることは妥当ではなく、不動産鑑定士等専門的知識を有する者による鑑定の方法を採用するのが相当である」と判示したのです。

⑶ 不動産鑑定士の資格を有する調停委員の簡易な評価意見でも違法
大阪高裁平成9.12.1決定は、遺産には不動産の外に金銭等もあり、不動産の取得者と金銭の取得者との間の実質的公平を図るためには、不動産の客観的価額を専門的知識に基づいて算出するのが望ましいとして、不動産鑑定士の資格を有する調停委員の簡易な評価意見のみで遺産の評価をした原審判を裁量権逸脱の違法があるとして取り消しました。
なお、この決定は、当事者全員の合意があれば、このような評価も許される旨判示しています。

2 例外
⑴ 全相続人の合意
鑑定をすれば結構費用がかかりますので、不動産鑑定士による鑑定をしないで、全相続人間で、固定資産評価額や路線価で土地を評価する合意を結ぶ場合がありますが、これは、当事者のいわば私的自治の問題として認めてもよいので、審判例や決定例は、これを容認しています。1の⑵と⑶の決定もそう判示しています。

⑵ 相続人間で不公平な結果にならない場合
大阪高裁昭和46.12.7決定は、不動産の評価は不動産鑑定士による鑑定でするのが理想であるが、そのためには多額な鑑定費用がかかるので、当事者がその費用負担を望んでいない場合で、相続人間の均衡を失わないものならば、不動産の課税台帳の評価によつても妨げない、と判示しました。
全相続人が、相続分の割合で、不動産の一部を分け合う場合は、相続人間で、共通の基準で土地を評価できれば良いのですから、固定資産評価額を基準にしてもよいということになります。

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菊池捷男(弁護士)

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