コラム
吝嗇家には、大事を任すべからず(教訓法)
2022年6月11日 公開 / 2022年6月22日更新
吝嗇家には、大事を任すべからず(教訓法)
天勾践を空しゅうするなかれ、時に范蠡なきにしもあらず
これは児島高徳が、勾践を後醍醐天皇に、范蠡を児島高徳に擬して、桜の幹を削って書いた歌である。
ここで謳われた范蠡とは、勾践を春秋五覇の一人にした越の功臣である。
ところで、范蠡は、勾践を春秋五覇の一人にした直後、越の国を出奔し、陶の国で朱公と名乗って貨殖の道を歩き、やがては素封の者になった。
素封の者(日本語の「素封家」はここからきた言葉)というのは、要は、大金持ちのことだ。
以下で書く逸話は、司馬遷の「史記」の「貨殖列伝」が伝える、陶の朱公の長男の話だ。
ある年、朱公の次男が隣国で罪を犯し、死刑判決を受けた。
すると、朱公は、その国の実力者Aに大金を渡して次男の命を救ってもらおうと考えた。
そして、三男をその使者にしようとした。
三男は、朱公が素封の者になった後で生まれたので、金銭を惜しむ気持ちさらに無く、彼なら、使者にふさわしいと考えたからである。
しかし、そのことを知った長男とその母親は、朱公に、その使者には長男を行かせてほしいと懇願した。
ここで、朱公は迷ったが、長男を使者にすることにした。
そのとき、朱公、長男に、この大金を惜しむな。この大金を隣国のAに渡した瞬間からその事実を忘れよ。結果がどうなろうが、この大金はAのものになるのだ。と懇々と言って聞かせたのであった。
長男は、むろんのこと、それを承知して、隣国へ行った。
隣国で、長男は、大金をAに渡す。Aは依頼のおもむきのことは承知した。長男はただちに郷里に帰り、吉左右(きっそう。良き知らせ)を待て。と応えて、直ちに行動を起こし、その国の王に拝謁を求め、いわく。
私が、占うところ、この国に不幸が生ずる兆しあり。王は直ちに善行採るべし。大赦令を出されるべし、と。
これにより、Aを信頼すること極めて厚い王は、それを承知して、朱公の長男を含む死刑囚を大赦することにし、大赦令発布の手続にとるよう係官に命じた。
このことは燎原の火のごとき速さで、国内に広がるや、朱公の長男の耳に達した。
長男に吝嗇の心なければ、次男に対する大赦は、Aの努力によるものと解るはずだが、惜しいかな、長男には、吝嗇家の悲しさ、それが解らない。解らないから、次男は、Aに渡した大金が惜しくなった。
以後のストーリーは、ここでは書かない。
朱公の次男の悲劇は書きたくないからだ。
吝嗇家に大事を任すべからず。
このことは、現代人にも必要な、教訓法の一つではないかと思う。
人は奢侈の漸(しゃしのぜん、贅沢は知らぬうちに大きくなっていくという意味の言葉)には警戒しなければならないが、そのことと吝嗇家になることとは違う。
吝嗇家は、お金だけでなく、愛情にも、ケチになる。
朱公の長男の挿話は、警戒すべき教えと言えるだろう。
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