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16 売主の責任の1 瑕疵担保責任

2015年11月5日 公開 / 2015年12月7日更新

テーマ:不動産法(売買編まとめ)

コラムカテゴリ:法律関連

ア 隠れた瑕疵について生ずる責任
 不動産を売買した場合,不動産に「隠れた瑕疵」があるときは,売主に瑕疵担保責任が発生します(民法570条,566条2項)。
 「瑕疵」とは欠陥のことで,①法令によって建物が建てられない法令上の瑕疵,➁雨漏りなど物理的な欠陥があるため建物としての安全が確保されない物理的瑕疵,③以前自殺者が出たなど,通常の人なら嫌悪するような心理的瑕疵,④隣近所に難しい人物や怖い人物がいて平穏な生活が営めない環境上の瑕疵など,広範囲にわたります。
 また,「隠れた瑕疵」とは,通常の注意では発見できない欠陥のことです。

イ 隠れていない瑕疵には責任なし
 東京地裁平成18.9.15判決は,土地が宅地造成工事規制地域にあるため、施行令6条1項1号で定める擁壁を設置しなければならないのに、その崖面に擁壁が設置されていないことは,宅地の瑕疵になるが,①買主が過去に収益目的で不動産を購入していること、現地を視察していること、売買契約書には税金対策を考えて虚偽の代金額を記載させたこと等から、買主は不動産取引について素人とはいえないこと、②重要事項説明書には本件土地が宅地造成工事規制地域にある旨の記載があることを理由に「隠れた瑕疵」には当たらないとして,買主からの損害賠償請求を棄却しております。


ウ 買主の権利
 買受けた不動産に隠れた瑕疵がある場合で,買主がその瑕疵のために売買目的が達成できないときは,買主は売買契約を解除することができ,また,損害賠償請求もできます。 売買目的が達成できないという程ではないときは,損害賠償請求のみすることができます。

エ 損害賠償請求できる範囲
 売主の瑕疵担保責任は,売主に過失がなくとも認められる責任ですので,その損害賠償請求というのは,買主が現実に蒙った損害額(これを「信頼利益」といいます。)しか認められません。つまりは,その不動産を,転売して利益を得ようと考えて買ったとしても,転売差益(これを「履行利益」といいます。)までの賠償を請求することはできないのです。また,慰謝料の請求もできません。

 瑕疵が物理的な瑕疵なら,修理代,修理期間中の転居に伴う引越費用や転居先に支払った家賃などが請求でき,心理的な瑕疵や環境上の瑕疵の場合は,その瑕疵によって減価した不動産の減価割合分(自殺者がいたということで25%の減価が認められた裁判例もあります。)が請求できます。
 慰謝料や転売利益まで請求したい場合は,瑕疵担保責任の追及ではなく,債務不履行や不法行為責任を追及すること(これができる要件)が必要になります。

オ 過失がない場合でも責任ありの例
 例えば,Aが建物を取り壊し,そこから生じた廃材やコンクリートガラを土中に埋め,その上に真砂土を入れて整地をすれば立派な宅地に見えますが,土中に産業廃棄物を埋めた宅地が瑕疵ある宅地であることは明らかでしょう。その土地をAが事情を知らないBに売った後,BがこれをCに転売した場合を考えますと,Bには過失があったとはいえません。
 しかしながら,その場合でも,BにはCに対して瑕疵担保責任はあるのです。売主の瑕疵担保責任は,売主の認識のいかんを問わず,売買物に隠れた瑕疵がある場合に,無条件で発生するのが,その特徴なのです。

カ 瑕疵担保期間
⑴ 原則
 瑕疵担保責任は,民法では,買主が瑕疵ある事実を知った時から1年です(民法570条,566条)が,瑕疵の存在を知らないまま,債権の消滅時効期間が経過すると時効で消滅します(最高裁平成13年11月27日判決)。
 ただ,瑕疵がマンションの構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるものであるときは、マンション引き渡しの時からから10年間は売主が瑕疵担保責任を負い、これに反する特約で買主に不利なものは無効とされます(住宅の品質確保の促進等に関する法律95条)。
 その政令とは、住宅の品質確保の促進等に関する法律施行令をいい、その第5条で、構造耐力上主要な部分とは、「住宅の基礎、基礎ぐい、壁、柱、小屋組、土台、斜材(筋かい、方づえ、火打材その他これらに類するものをいう。)、床版、屋根版又は横架材(はり、けたその他これらに類するものをいう。)で、当該住宅の自重若しくは積載荷重、積雪、風圧、土圧若しくは水圧又は地震その他の震動若しくは衝撃を支えるもの」とされ、また、雨水の浸入を防止する部分としは、「①住宅の屋根若しくは外壁又はこれらの開口部に設ける戸、わくその他の建具、②雨水を排除するため住宅に設ける排水管のうち、当該住宅の屋根若しくは外壁の内部又は屋内にある部分」とされています。

⑵ 合意により期間を短縮又は伸長することができる
 この担保責任期間は,当事者間の合意により短縮することも伸長することもできますが, 売主が宅地建物取引業者である場合は、瑕疵担保責任の期間について引渡後2年以上とする特約をする場合を除いて、買主に不利な特約はできないことになっており(宅地建物取引業法40条),実際にも,宅建業者から不動産を買う場合は,瑕疵担保期間が不動産の引渡後2年と定められているのが実状です。
 ただ,瑕疵がマンションの構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるものであるときは、マンション引き渡しの時からから10年間は売主が瑕疵担保責任を負いますが,この期間は20年以内であれば、特約で伸長することができます(住宅の品質確保の促進等に関する法律 条)。

⑶ 瑕疵担保期間は時効期間ではなく除斥期間である
 瑕疵担保期間とは,瑕疵担保請求のできる期間をいいます。この権利の行使は,具体的には,瑕疵を理由にした売買契約解除の意思表示又は損害賠償請求ですが,この権利を行使した時に生ずる権利,すなわち,解除の場合は買主の売主に対する売買代金返還請求権,損害賠償請求の場合は損害賠償請求権が生じますが,これらの権利はその発生した日(瑕疵担保責請求の日)から消滅時効が進行することになります。
 このように,瑕疵担保責任の請求ができる期間と,その権利の行使の結果発生する債権の消滅時効期間は別のものです。前者の期間を,権利行使ができる「除斥期間」といい,後者の期間を「消滅時効期間」といいます。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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