コラム
相続 83 裁判所が遺産分割を禁止する場合がある
2010年12月29日
1 裁判所の役割
遺産分割は、共同相続人間の協議でする、いわゆる遺産分割協議が一般的な方法ですが、「遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないとき」も多く、この場合は「各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。」(民法907条2項)ことになっております。
それを受けて、家庭裁判所は、家事審判法により遺産分割をするのですが、「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」(民法906条)ことになります。
最高裁大法廷昭和41.3.2判決は、家庭裁判所がする「遺産の分割に関する処分の審判は、民法907条2、3項を承けて、各共同相続人の請求により、家庭裁判所が民法906条に則り、遺産に属する物または権利の種類および性質、各相続人の職業その他一切の事情を考慮して、当事者の意思に拘束されることなく、後見的立場から合目的的に裁量権を行使して具体的に分割を形成決定し、その結果必要な金銭の支払、物の引渡、登記義務の履行その他の給付を付随的に命じ、あるいは、一定期間遺産の全部または一部の分割を禁止する等の処分をなす裁判であつて、その性質は本質的に非訟事件である」と判示しています。
2 遺産分割の禁止もできる
民法907条3項は「・・特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。」と定めています。
3 特別の事由とは?
名古屋高裁平成15.3.17決定は、
「上記「特別の事由」とは以下のような事情がある場合であると解するを相当とする。
ア 事件全体からみて重要な前提事項に争いがあり,その前提問題に非訟手続にはなじまないような紛争性が認められること
イ 前提問題の訴訟が相当程度長期化することが予想されること
ウ 前提問題の訴訟がその判決の確定など一定の段階に達した後に,遺産分割について解決を図ることが当事者の共通の利益となること
エ 一部分割を行うことが相当である場合に当たらないこと」
という基準を打ち出し、
遺産の範囲と遺言の有効性が深刻に争われているその事件では,この基準に該当すると判示し、遺産分割を禁止しました。
4 前提事実に争いがある場合
共同相続人間で、遺産の範囲や相続人の範囲など、遺産分割の前提となる事実について争いがある場合でも、家庭裁判所は、遺産分割の審判ができるかについて、前記最高裁判決は、「ところで、右遺産分割の請求、したがつて、これに関する審判は、相続権、相続財産等の存在を前提としてなされるものであり、それらはいずれも実体法上の権利関係であるから、その存否を終局的に確定するには、訴訟事項として対審公開の判決手続によらなければならない。しかし、それであるからといつて、家庭裁判所は、かかる前提たる法律関係につき当事者間に争があるときは、常に民事訴訟による判決の確定をまつてはじめて遺産分割の審判をなすべきものであるというのではなく、審判手続において右前提事項の存否を審理判断したうえで分割の処分を行うことは少しも差支えないというべきである」と判示していますので、「単に相続財産の範囲について相続人間で争いがあり、その一部の財産について民事訴訟が係属しているというのみでは未だ右「特別の事由」があるとはいい難い」(東京高裁昭和60.6.13決定)のです。
そこで、前記名古屋高裁決定のような条件が設けられたのです。
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