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相続 78 遺産分割協議に錯誤があった場合、遺産分割は無効になるか?

2010年12月24日

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 相続 手続き


1 無効になる
広島高裁松江支部平成2.9.25決定は、「被相続人の遺産である預金の額が真実は約2434万円(元利合計)であるにもかかわらず、相続人Aの虚偽の説明によつて約1900万円であると誤信したうえ、本件相続権の行使につき、相続人Bは550万円、相続人Cは300万円を各取得し、その余の請求はしない旨の各意思表示に及んだことが明らかである。
 遺産分割においては、その分割の対象となる遺産の範囲が重要な意義をもつことに鑑みれば、相続権の行使における意思表示においても、その前提となる遺産の範囲が重要な意義をもち、この点に関する錯誤は、特段の事情がない限り、要素の錯誤にあたるものというべきである。」として、この遺産分割の協議の結果を無効であると判示しました。

2 無効になる要件
民法95条は、「意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。」と規定していなすので、遺産分割協議の要素に錯誤があれば、その錯誤が重大な過失によらない限り、遺産分割は無効になります。
上記裁判例では、1900万円と思っていた遺産が実は2434万円もあった。したがって、1900万円の遺産を前提に自己の取り分を決めた遺産分割協議の結果は無効になる、というものです。
遺産総額の認識の食い違いが、遺産分割の無効をもたらすのです。

3 錯誤をした相続人に重大な過失があれば、遺産分割協議の無効を主張できない
東京高裁昭和59.9.19判決は、時価2500万円の遺産を時価1293~1559万円程度であると誤信して、自分の取り分を決めた遺産分割協議について、錯誤はあるが、遺産分割協議をまとめるまでの間、弁護士を代理人にして何度も交渉をしているのであるから、遺産の評価額についての錯誤は重大な過失によるものであるから、無効を主張することはできないと判示しました。

4 動機の錯誤は、動機が表示されている場合、遺産分割協議が無効になる。
東京地裁平成11.1.22判決は、相続人Aが相続人Bに対し、Aが提示する分割案は遺言に従った分割よりもBに有利であり、Bが法的にその案を上回る額の遺産を取得することは不可能であると説明したことにより、BはAの言葉を信じ、遺産分割協議が成立した事案で、Bには錯誤がある。その錯誤は動機の錯誤ではあるがAに表示されているので、その錯誤は法律行為の要素の錯誤であるから、遺産分割協議は無効である判示しました。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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