腰痛でお困りの方、必見。マッサージだけの治療では「多裂筋」が萎縮します。
こんにちは、GENRYUです(^^)
この記事の要点
・前回見つけた「楽になる方向」の運動を、毎日の生活に無理なく取り入れる5つのコツを紹介します。前回をお読みでない方も、今日3分でできる方法から始められます。
・新しい行動が自然にできるようになるまでには、平均で約66日かかったという研究があります。続かないと感じるのは、意志が弱いからではなく「まだ途中」だからかもしれません。
・あわせて、歩く・ストレッチ・マッサージ・温めるの4つのセルフケアを、研究で分かっていることと限界を添えて紹介します。
・痛みへの「怖さ」と脳の関係をふまえ、怖くて避けている動きを一段ずつ取り戻す「怖い動きの階段エクササイズ」も紹介します。
・どれも「一度に一つだけ」ためし、1〜2週間ごとに前回のチェックで見直すのがポイントです。
・脚のしびれや痛みが足先の方へ広がる場合は、すぐにやめましょう。
前回のコラムでは、
前かがみで痛いのか、反らすと痛いのか
を、3つのチェックで確かめる方法をお伝えしました。
そして、痛みが楽になる方向が見つかった方には、その方向の動きを一つだけためしてみましょう、とお伝えしました。
前回の3つのチェックを、簡単におさらいしておきます。
- チェック1:困る場面を、前かがみ系・反らす系・横系に分ける
- チェック2:前かがみ・反らす・横の3方向に1回ずつ動き、痛みの変化を比べる
- チェック3:楽そうな方向を5〜10回くり返し、もう一度チェック2で比べる
今回は、チェック3で見つかった「楽になる方向」を、毎日の生活につなげていきます。
ただ、実際にやってみると、こんな声も聞こえてきそうです。
「1日に何回もやるのを、つい忘れてしまう」
「ほかにも、ストレッチやマッサージはしてもいいの?」
今回は、その2つにお答えします。
前回のコラムをまだお読みでない方は、こちらからどうぞ。
→前回「前かがみで痛い?反らすと痛い?|腰痛を自分で確かめる3つのチェック」を読む
始める前に:こんなときは医療機関へ
次のような場合は、セルフケアより先に医療機関を受診してください。
- 尿が出にくい・漏れる、便の感覚がおかしい、股のまわりがしびれる(その日のうちに受診を)
- 脚に力が入らない、つまずきやすいなど、脚の動きが急に悪くなってきた
- 転倒や事故のあとから痛い
- 発熱がある、原因のわからない体重減少がある、がんの治療を受けたことがある
- 安静にしていても、夜も、強い痛みが続く
排尿・排便の変化や、股のまわりのしびれについては、こちらで詳しく解説しています。
→「馬尾症候群」ってなに?を読む
今回も4つのルールで
- 「感じたこと」と「原因」を分けて書く
- 条件も一緒に書く(朝か夜か、何をした後か)
- 変えるなら一つだけ
- 結果は「楽になった・同じ・悪くなった・分からない」のどれかで残す
そして、腰痛ならではのルールも引き続き大切です。
脚のしびれや痛みが、足先の方へ広がる動きは、すぐにやめる
まずは今日、3分だけ
前回をお読みでない方も、これだけで始められます。
1. 壁や机のそばに立ち、前かがみ・反らす・横に倒す、の3つの方向に1回ずつゆっくり動き、それぞれの腰の痛みを0〜10でメモします(0=痛みなし、10=想像できる最大の痛み)
2. いちばん痛みが小さかった方向の動きを、痛みが出る手前までの範囲で、ゆっくり5回くり返します
3. もう一度3つの方向に1回ずつ動き、0〜10でメモします
→ ほかの方向が楽になっていれば、それが「楽になる方向」の候補です。変わらなくても、それも大切な記録です。
第1部 「楽になる方向」の運動を、毎日に取り入れる5つのコツ
前回、「楽になる方向」の動きを、1日に数回、1回5〜10回を目安に続けましょう、とお伝えしました。
でも、新しいことを毎日続けるのは、誰にとっても簡単ではありませんよね。
ここでは、続けやすくするための5つのコツを紹介します。
コツ1 「いつもしていること」に結びつける
新しい行動を習慣にする研究では、参加者が「毎日の決まったきっかけ」に新しい行動を結びつけて、84日間続けました。
例えば、「朝のコーヒーの後に腹筋をする」といった形です。
その結果、行動が自然にできるようになるまでの日数は平均で約66日でした(Lally 2010)。
ただし、人によって18日から、200日を超える予測まで、大きな幅がありました。
ここから言えるのは、
- 習慣になるまでには、2か月ほどかかることが多い
- 早い人も遅い人もいるので、他の人と比べなくていい
ということです。
腰痛の運動なら、例えばこんな結びつけ方があります。
- 朝、顔を洗う前に → 楽になる方向の動きを5回
- トイレから出たら → 楽になる方向の動きを5回
- デスクワークで1時間たったら → 立ち上がって5回
職場の同僚やご家族と「1時間たったら、一緒に立ち上がろう」と声をかけ合うのも、きっかけづくりの一つです。
コツ2 回数は「少なすぎるくらい」から
最初から1日に何十回もやろうとすると、続かないことが多いです。
まずは1回5回、1日2〜3回から始めてみましょう。
「物足りない」くらいで終わるのが、続けるコツです。
コツ3 つらい場面の「前」に入れる
前回のチェック1で書き出した「困る場面」を思い出してください。
例えば、朝の洗顔がつらい方は、洗顔の前に楽になる方向の動きを入れます。
つらくなってから行うより、つらくなる前に行う方が、困る場面での変化を感じやすくなります。
コツ4 記録は「○・×」だけでいい
毎日細かく書こうとすると、記録そのものが負担になります。
カレンダーに、
- ○:やった
- ×:やらなかった
だけを書いておきましょう。
先ほどの習慣の研究では、1日抜けても、その後の習慣づくりへの影響は小さかったことも報告されています(Lally 2010)。
×の日があっても、次の日からまた始めれば大丈夫です。
コツ5 1〜2週間ごとに「チェックをやり直す」
続けていると、「本当に効いているのかな?」と不安になることもあります。
そんなときは、1〜2週間ごとに、前回のチェック2(3つの方向に1回ずつ動く)をやり直してみてください。
- ほかの方向も楽に動けるようになってきた → 回数を少しずつ減らし、いろいろな方向に動けるようにしていく
- 変わらない → 時間帯やきっかけを一つだけ変えてみる
- 悪くなった → その動きはやめて、専門家に相談する
1日の取り入れ方の例
前かがみ系の場面がつらく、反らす方向が楽だった方の例
朝:顔を洗う前に、立って反らす動きを5回
昼:昼食の後、立って反らす動きを5回
夕方:デスクワークの区切りに、立って反らす動きを5回
カレンダーに○か×を書く
第2部 根拠のあるセルフケア4つ
ここからは、「楽になる方向」の運動とは別に、腰痛によく使われるセルフケアを4つ紹介します。
それぞれ、研究で分かっていることと限界を一緒にお伝えします。
どれも、一度に一つだけ選んで、1〜2週間ためしてみてください。
セルフケア1 歩く
研究で分かっていること
腰痛がいったん良くなった方701名を対象にした研究では、理学療法士のサポートのもとで、歩く量を少しずつ増やすプログラムと、腰痛についての学習を6か月行いました。
その結果、何もしなかった方に比べて、次に腰痛が再発するまでの期間が長くなりました(再発までの日数の中央値:208日と112日。Pocovi 2024)。
ただし、
- この研究は「再発の予防」を調べたもので、今ある痛みを減らす効果を調べたものではない
- 理学療法士のサポートつきで、自己流のウォーキングとは条件が違う
- 歩くグループでは、脚(膝や足など)のトラブルの報告がやや多かった
ことも分かっています。
取り入れ方
今の歩く量から、少しずつ増やしていきます。例えば、普段10分歩いている方は、1週間ごとに数分ずつ延ばすくらいで十分です。
脚や膝に痛みが出た場合は、量を戻しましょう。
歩くときは、
- 最初は平らな道を選ぶ
- クッション性のある、履き慣れた靴で歩く
- 1回で長く歩くより、短い時間を1日に数回に分けてもよい
といった工夫も、続けやすさにつながります。
セルフケア2 ストレッチ
研究で分かっていること
慢性腰痛の方228名を対象にした研究では、週1回のストレッチ教室(12週間)と、ヨガ教室、セルフケアの本を読むだけ、の3つを比べました。
その結果、ストレッチ教室とヨガ教室は同じくらい効果があり、どちらも本を読むだけより、動作や症状が改善しました(Sherman 2011)。
一方、ヨガの研究21本をまとめた報告では、運動をしない場合に比べて動作や痛みは改善したものの、その差は小さく、はっきり実感できるほどではない可能性があるとされています(Wieland 2022)。
ただし、
- 「どのストレッチがいちばん良いか」はまだ分かっていない
- 効果は、運動全般と同じくらいで、ストレッチだけが特別に優れているわけではない
ことも分かっています。
取り入れ方(前回の結果に合わせた例)
反らす方向が楽だった方:うつ伏せで肘をつく
うつ伏せになり、両肘を肩の下について上体を起こします。腰の力は抜いたまま、20〜30秒ほど。2〜3回。
前かがみ方向が楽だった方:仰向けで膝を抱える
仰向けに寝て、両膝を胸の方へ引き寄せ、両手で抱えます。20〜30秒ほど。2〜3回。
横方向が楽だった方・はっきりしない方:お尻のストレッチ
仰向けに寝て両膝を立て、片方の足首を反対の膝の上にのせます。下の脚の太ももを両手で胸の方へ引き寄せ、お尻が心地よく伸びるところで20〜30秒。左右2回ずつ。
どれも、心地よく伸びる範囲で行い、脚にしびれや痛みが広がる場合はやめてください。
セルフケア3 マッサージ
研究で分かっていること
腰痛のマッサージの研究25本(3096名)をまとめた報告では、マッサージによって、短い期間の痛みが楽になることが示されました(Furlan 2015)。
ただし、
- 根拠の確かさは「低い〜とても低い」と評価されている
- 長い目で見た効果は、はっきりしていない
- ほとんどが専門家によるマッサージで、自分で行う方法の研究ではない
- マッサージ後に一時的に痛みが強くなった方も、研究によっては1.5〜25%いた
ことも分かっています。
取り入れ方
自分で行う場合は、腰の両わきの筋肉や、お尻の筋肉を、手のひらでさする、軽く押す程度にとどめます。
- 背骨の上は押さない
- 強く押して「痛いほど効く」と考えない
- 押した後に痛みが強くなる場合はやめる
マッサージは「その場で楽になる」ことが多い一方、それだけで治るわけではありません。楽になったタイミングで、楽になる方向の運動や歩くことを組み合わせるのがおすすめです。
セルフケア4 温める
研究で分かっていること
腰を温める方法の研究のまとめでは、急な腰痛や、痛み始めて数週間の腰痛の方で、温めるシート(ヒートラップ)を使うと、数日のうちに痛みと動作が少し楽になったことが報告されています(French 2006)。
また、温めることに運動を加えると、さらに痛みが楽になったという研究もあります。
ただし、
- 研究の数が少なく、効果は「小さく、短い期間」とされている
- 冷やす方法については、効果を判断できるだけの研究がない
- 長く続く腰痛での効果は、はっきりしていない
ことも分かっています。
取り入れ方
市販の温めるシートや、お風呂で温まるのも一つです。低温やけどを防ぐため、使い方の説明を守り、寝ている間に同じ場所を長く温め続けないようにしましょう。
温めて楽になったタイミングで、楽になる方向の運動を行うと、組み合わせやすくなります。
「受けるケア」と「自分で動くケア」
4つのセルフケアは、大きく2つに分けられます。
- 自分で動くケア:歩く、ストレッチ
- 受けるケア:マッサージ、温める
受けるケアは、その場で楽になりやすいのが良いところです。
一方で、研究で示されている効果は、どちらも「短い期間」のものでした。
慢性の腰痛では、運動によって痛みが0〜100の目盛りで平均約15ポイント下がったという研究のまとめもあります(Hayden 2021)。
そこで、受けるケアで楽になったタイミングを、自分で動くケアにつなげるという使い方がおすすめです。
例えば、
- お風呂で温まった後に、楽になる方向の動きを5回
- 腰の両わきを軽くさすった後に、10分歩く
のように組み合わせると、受けるケアの「その場の楽さ」を、動く習慣に生かすことができます。
4つの中から、どれを選ぶ?
迷ったら、次のように選んでみてください。
- 腰痛がいったん落ち着いていて、再発を防ぎたい → 歩く
- 体が硬い感じが強い → ストレッチ
- その場で少しでも楽になりたい → 温める、またはマッサージ(運動と組み合わせる)
怖くて避けている動きがある方は、後半の「怖い動きの階段エクササイズ」を選ぶこともできます。
どれを選んでも、1〜2週間ためして、前回のチェック2で見直すことは同じです。
4週間の進め方の例
運動とセルフケアを、どの順番で取り入れればいいか迷う方のために、一つの例を挙げます。
1〜2週目:「楽になる方向」の運動だけを、きっかけに結びつけて続ける(○×で記録)
2週目の終わり:チェック2をやり直す
3〜4週目:楽になってきたら、セルフケアの中から一つだけ加える(例:歩く)
4週目の終わり:もう一度チェック2をやり直し、困る場面の変化を書く
最初の2週間は「楽になる方向」の運動だけにするのがポイントです。
ここで変化を確かめておけば、3週目以降に加えたセルフケアの効果も見分けやすくなります。
もちろん、「楽になる方向」がはっきりしなかった方は、1週目から、歩くなどのセルフケアを一つ選んで始めて大丈夫です。
1週間の記録から見えること
例えば、こんな記録が集まったとします。
月:朝○ 昼○ 夕×。朝の洗顔は少し楽。
火:朝○ 昼× 夕○。夕方に腰が重い。
水:朝○ 昼○ 夕○。お風呂で温めた後、反らす動きがやりやすい。
木:朝× 昼○ 夕○。寝坊して朝できず。洗顔がつらい。
金:朝○ 昼○ 夕○。洗顔は楽。
土:朝○ 昼× 夕×。外出。
日:チェック2をやり直し。前かがみ6/10→4/10に。
ここから見えてくるのは、
- 朝に反らす動きをした日は、洗顔が楽なことが多い(5日中4日)
- 朝できなかった木曜は、洗顔がつらかった(一度だけの記録)
- 温めた後は、動きがやりやすい(一度だけの記録)
ということです。
この場合、「朝の反らす動きは続ける。温めるのは、もう少し記録してから判断する」という次の一歩が考えられます。
結果をどう受け止める?
楽になった
何が楽になったか(痛み・動きやすさ・不安)を分けて書きます。楽になってきたら、回数を少しずつ減らし、いろいろな方向に動けるようにしていきます。
同じ
選んだセルフケアは、今の腰にはあまり関係がなかったのかもしれません。4つの中から、別の一つに変えてみましょう。
悪くなった
そのセルフケアはやめて、元に戻します。脚へのしびれや痛みが広がった場合や、痛みが続く場合は、専門家に相談しましょう。
分からない
○×の記録を、もう1〜2週間続けてみてください。
脳から見た、腰痛と「怖さ」
「前かがみになるのが、なんとなく怖い」
「床の物を拾うときは、つい腰をかばってしまう」
そんな方も多いのではないでしょうか。
以前のコラムでお伝えしたように、痛みは「体が壊れている量」をそのまま表すものではなく、脳が「この部分を守る必要がある」と判断したときに出すサインと考えられています(Moseley & Butler 2015)。
このサインと深く関わる「怖さ」について、見ていきましょう。
1. 避けるほど、怖さが続くことがある
長く続く痛みの研究では、「恐怖回避モデル」という考え方が知られています(Vlaeyen & Linton 2000)。
痛みが出たあと、「また痛くなるかも」と怖くなるのは自然なことです。
このモデルでは、その怖さへの反応を2つに分けて考えます。
- 向き合う反応:怖さを感じながらも、できる範囲で少しずつ動く → 怖さは時間とともに減っていく
- 避ける反応:怖い動きを避け続ける、痛みに注意を向け続ける → 怖さが続いたり、強くなったりしうる
避ける状態が続くと、使わないことによる体力の低下や、腰をかばう動き方も関わると考えられています。
ただし、これは研究をもとにした「考え方の枠組み」です。怖さが腰痛の「原因」だと決まったわけではありません。
また、「向き合う」とは、痛みをがまんすることではなく、できる範囲で少しずつ動くことです。
2. 脳の変化は、元に戻りうる
「痛みが長く続くと、脳が変わってしまう」と聞いて、不安になった方もいるかもしれません。
慢性腰痛の方を、治療の前(18名)と治療から6か月後(14名)に脳の画像で調べた研究があります(Seminowicz 2011)。
治療後、脳の前の方の一部(左背外側前頭前野)で、皮質(脳の表面の層)の厚さが増えていました。そして、厚さが増えた方ほど、痛みと生活の困りごとが減っていました。
つまり、痛みに伴う脳の変化は、元に戻りうるということです。
ただし、
- 少人数の研究である
- 治療は手術や注射で、セルフケアで同じことが起こるとは言えない
- 脳の変化と痛みの減り方は「関連」していたもので、どちらが先かは決められない
ことも知っておいてください。
3. 脳に「この動きは大丈夫」を経験させる
以前のコラムでお伝えした段階的な感覚運動トレーニングの研究(Bagg 2022)も、段階を踏んで練習する方法でした。
怖い動きも、小さく安全な形から一段ずつ経験することで、脳に「この動きは大丈夫だった」という情報を届けられるかもしれません。
ただし、これはまだ研究で確かめられた結論ではなく、考え方の一つです。
脳に「この動きは大丈夫」を教える、怖い動きの階段エクササイズ
こんな方に:「楽になる方向」の運動に慣れてきたけれど、前かがみや床の物を拾う動きなど、怖くて避けている動きがある方
第2部のセルフケアと同じく、一度に一つだけです。4週間の進め方の例なら、3〜4週目に「加える一つ」として選んでください。
始める前に:今の状態をメモする
1. 怖くて避けている動きを一つだけ選びます(例:床の物を拾う、靴下をはく、洗顔で前かがみになる)
2. その動きを思い浮かべたときの怖さを0〜10でメモします(0=まったく怖くない、10=とても怖い)
3. 前回のチェック2(3つの方向に1回ずつ動く)を行い、痛みを0〜10でメモします
怖さが9や10の動きは最初の一つには選ばず、怖さが中くらい(4〜6ほど)の動きから始めるのがおすすめです。
ここでは「床の物を拾う」を例に説明します。各段のあとに、怖さと痛みを0〜10でメモしてください。
段1 思い描く(1分)
1. 椅子に座り、目を閉じます
2. 床のタオルを、ゆっくり、楽に拾っている自分を思い描きます
3. 3回思い描いたら、怖さと痛みをメモします
ポイント:怖さも、脳が出す「守って」のサインの一つです。まずは体に負担をかけずに、そのサインの大きさを確かめます。思い描くだけで怖さが上がる方は、この段を何日かくり返して大丈夫です。
段2 小さく動く(1分)
1. 椅子の背や台に片手を添えて立ちます
2. もう片方の手を太ももの前にすべらせるように、膝の上までゆっくりかがみ、ゆっくり戻ります
3. 5回行い、怖さと痛みをメモします
ポイント:痛みが出る手前で止まれる小ささが大切です。脳に「ここまでは大丈夫だった」という経験を届けます。
段3 少し大きく動く(1〜2分)
1. 椅子の座面にタオルを置きます
2. 片手を台に添えたまま、膝を軽く曲げてタオルを拾い、ゆっくり起き上がります
3. 5回行い、怖さと痛みをメモします
ポイント:段2より少しだけ大きな動きにして、「大丈夫だった」の範囲を広げていきます。
段4 実際の生活の動作で(1〜2分)
1. 床に置いたタオルを、片手を椅子や台に添えたまま、膝を曲げて拾います
2. 3〜5回行い、怖さと痛みをメモします
3. 慣れてきたら、洗濯物を拾う、靴下をはくなど、いつもの生活の場面で一回ずつためします
ポイント:最後は「いつもの場面」で、大丈夫だった経験を重ねます。
次の段へ進む目安・戻る目安
次の段へ進む目安(2つがそろったら)
- 怖さが、その段を始めたときより下がってきた(または「これならできる」と感じる)
- 痛みが動く前より強くなっておらず、翌朝にも残っていない
一つ前の段に戻る目安
- 痛みがはっきり強くなった、または翌朝まで残った
- 怖さが強くなって、体がこわばる
戻ることは失敗ではなく、自分に合ったペースを探す大切な調整です。
回数とタイミングの目安
- 1日1回、5分ほど(今いる段を中心に)
- 一つの段を2〜3日続けてから、次の段へ。上がるのは1日に1段まで
- コツ1のように、「楽になる方向」の運動の後など、いつもの流れに結びつける
- 回数は目安です。痛みが強くならない範囲で調整してください
よくある間違い
- いちばん怖い動きから始めてしまう
- 痛みをがまんして段を上げる(怖さに向き合うことと、痛みに耐えることは別です)
- 息を止め、体を固めたまま動く(ゆっくり息を吐きながら行います)
前後で比べる
1〜2週間たったら、「始める前に」と同じ怖さと痛みを、もう一度0〜10でメモします。洗顔や靴下をはくなど、困る場面がどう変わったかも書いておきましょう。
怖さが下がった・同じ・上がった、どれも大切な記録です。
研究で分かっていること
以前のコラムでお伝えした慢性腰痛の方276名の研究では、痛みについて学ぶことと段階的な感覚運動トレーニング(12週間の通院と自宅での練習)を組み合わせたグループで、偽の治療のグループより、18週の時点で痛みが平均1.0点(0〜10)多く下がりました。ただし改善は小さく、一つの施設での研究です(Bagg 2022)。
これは専門家と一緒に進める方法で、今回の階段エクササイズとは内容が異なります。この組み合わせそのものを確かめた研究はありません。研究の考え方を、家でできる形にした例として行ってみてください。
注意してほしいこと
脚のしびれや痛みが足先の方へ広がる、痛みがはっきり強くなる場合は、その場でやめてください。ふらつきが心配な方は、必ず椅子の背や台に手を添えて行いましょう。
記録のテンプレート
期間: 月 日〜 月 日
楽になる方向:
結びつけたきっかけ(朝の洗顔前、など):
1日の回数と、○×の数:
ためしたセルフケア(一つ):
困る場面の変化:
チェック2のやり直し(前・後の痛み0〜10):
階段エクササイズ(選んだ動き・今の段・怖さと痛み0〜10):
脚の症状は、腰の方へ寄ったか・足先へ広がったか:
結果(楽・同じ・悪化・分からない):
よくある質問
Q.「楽になる方向」の運動と、ストレッチは同時にやってもいいですか?
できれば、どちらか一つから始めてください。
両方を同時に始めると、どちらが役に立ったのかが分からなくなるからです。
まずは「楽になる方向」の運動を1〜2週間続け、そのうえで、ストレッチなどを一つ加えるのがおすすめです。
Q.テニスボールやマッサージ器を使ってもいいですか?
道具を使ったセルフマッサージの効果を調べた研究は、まだ多くありません。
使う場合は、背骨の上を避け、お尻や腰の両わきの筋肉に、軽く当てる程度にとどめてください。
使った後に痛みが強くなる、しびれが出る場合はやめましょう。
Q.痛みが強い日は、休んでもいいですか?
大丈夫です。
痛みが強い日は、回数を減らしたり、その日は休んだりしても構いません。
先ほどの習慣の研究のように、1日抜けても、習慣づくりへの影響は小さいとされています。
ただ、何日も続けて痛みが強い場合や、脚のしびれが広がる場合は、専門家に相談してください。
Q.温めるのと冷やすのは、どちらがいいですか?
研究のまとめでは、温める方法には短い期間の効果を示す研究がありましたが、冷やす方法については、効果を判断できるだけの研究がありませんでした(French 2006)。
どちらが楽かは人によって違うので、気持ちよく感じる方を選び、その日の痛みを記録してみてください。
Q.どうしても続きません
続かないのは、意志が弱いからではありません。
回数が多すぎる、きっかけが決まっていない、などの理由が考えられます。
回数を1回3回まで減らす、きっかけを「トイレの後」など毎日必ずあるものに変える、など、一つだけ変えてみてください。
Q.痛みがなくなったら、やめていいですか?
痛みがなくなったら、回数は減らして大丈夫です。
ただ、腰痛は再発しやすいことも知られています。
歩くことを続けると再発までの期間が長くなったという研究もあるので、無理のない範囲で、体を動かす習慣は続けていきましょう。
「楽になる方向がはっきりしない」「どのセルフケアを選べばいいか迷う」という方もいらっしゃると思います。
受診の目安に当てはまる方は、まず整形外科などの医療機関を受診してください。
当てはまらず、困っている場面や体の動きを整理したい方は、大分駅から歩いて15分ほどの当院(大分市金池町)でも、前かがみ・反らす・横の動きを一緒に確かめながら、どこから始めるかを整理しています。
1〜2週間ためしても変化が分からない方、怖くて避けている動きがなかなか減らない方は、一度ご相談ください。
○×の記録やメモがあれば、ぜひお持ちください。
まとめ
今回は、腰痛のある方に向けて、「楽になる方向」の運動を毎日に取り入れるコツと、根拠のあるセルフケアを紹介しました。
続ける5つのコツ
- いつもしていることに結びつける
- 回数は少なすぎるくらいから
- つらい場面の前に入れる
- 記録は○×だけ
- 1〜2週間ごとにチェックをやり直す
セルフケア4つ
- 歩く:再発までの期間が長くなった研究がある
- ストレッチ:ストレッチ教室はヨガ教室と同じくらいの効果。ただし差は小さめで、どのストレッチが最良かは不明
- マッサージ:短い期間は楽になることが多い。根拠の確かさは低い
- 温める:急な腰痛で、短い期間少し楽になる
怖い動きの階段エクササイズ
怖くて避けている動きを一つ選び、思い描く → 小さく → 少し大きく → 生活の動作、と怖さと痛みを0〜10でメモしながら一段ずつ進める。
どれも、一度に一つだけ選び、前回のチェックで見直すことが大切です。
次回予告
次回は、「坐骨神経痛かな?と思ったら|腰痛と脚のしびれを確かめる3つのチェックと、根拠のあるセルフケア」をお届けする予定です。
腰痛と一緒に、お尻から脚にかけての痛みやしびれがある方に向けて、受診の目安を確かめたうえで、しびれの範囲や、楽な姿勢・つらい姿勢を自分で確かめる方法を一緒に見ていきます。
今回の記録のテンプレートで、「脚の症状」の欄に記入があった方は、ぜひあわせて読んでみてください。
ぜひ、次回のコラムも楽しみにしておいてくださいね(๑•̀ㅂ•́)و✧
あわせて読みたいコラム
「楽になる方向」の見つけ方(前回)
前かがみで痛い?反らすと痛い?|腰痛を自分で確かめる3つのチェック
排尿・排便の変化や、股のまわりのしびれが気になる方へ
「馬尾症候群」ってなに?知らないと危険!その症状と隠れた原因を徹底解説
それではまた、次回のコラムでお会いしましょう(*^^*)
参考文献
習慣づくり
Lally P, van Jaarsveld CHM, Potts HWW, Wardle J. How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. Eur J Soc Psychol. 2010;40(6):998-1009. DOI: 10.1002/ejsp.674
歩くことと腰痛の再発予防
Pocovi NC, et al. Effectiveness and cost-effectiveness of an individualised, progressive walking and education intervention for the prevention of low back pain recurrence in Australia (WalkBack): a randomised controlled trial. Lancet. 2024;404(10448):134-144. PMID: 38908392
慢性腰痛の運動療法
Hayden JA, et al. Exercise therapy for chronic low back pain. Cochrane Database Syst Rev. 2021;9:CD009790. PMID: 34580864
ストレッチとヨガ
Sherman KJ, et al. A randomized trial comparing yoga, stretching, and a self-care book for chronic low back pain. Arch Intern Med. 2011;171(22):2019-2026. PMID: 22025101
Wieland LS, et al. Yoga for chronic non-specific low back pain. Cochrane Database Syst Rev. 2022;11:CD010671. PMID: 36398843
マッサージ
Furlan AD, et al. Massage for low-back pain. Cochrane Database Syst Rev. 2015;(9):CD001929. PMID: 26329399
温める・冷やす
French SD, et al. Superficial heat or cold for low back pain. Cochrane Database Syst Rev. 2006;(1):CD004750. PMID: 16437495
痛みと脳・怖さの研究
Moseley GL, Butler DS. Fifteen Years of Explaining Pain: The Past, Present, and Future. J Pain. 2015;16(9):807-813. PMID: 26051220
Vlaeyen JWS, Linton SJ. Fear-avoidance and its consequences in chronic musculoskeletal pain: a state of the art. Pain. 2000;85(3):317-332. PMID: 10781906
Seminowicz DA, et al. Effective treatment of chronic low back pain in humans reverses abnormal brain anatomy and function. J Neurosci. 2011;31(20):7540-7550. PMID: 21593339
Bagg MK, et al. Effect of Graded Sensorimotor Retraining on Pain Intensity in Patients With Chronic Low Back Pain: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2022;328(5):430-439. PMID: 35916848


