職場で部下を新興宗教に勧誘していた店長を解雇できますか?

庄司英尚

庄司英尚

テーマ:退職・解雇

「職場で部下を新興宗教に勧誘していた店長を解雇できますか?」

新興宗教 勧誘 解雇 部下 懲戒 
今回は、少し前にいただいた相談内容を一部加工してコラムに
して、さらに内容をより濃くして、まとめてみました。職場でのこういった
相談は結構多く、問題にならないうちにと思っている方が多いです。

質問
弊社は、若者に人気のおしゃれなカフェを10店舗ほど経営しているの
ですが、最近ある繁盛店のやり手の女性店長がどうやら部下である社員や
男子の学生アルバイト複数に対して業務時間中にも自分が信仰している
新興宗教の勧誘を行っていることが発覚しました。

その店舗は売上はいいのですが、スタッフの離職率が高く、今回のような
勧誘が過去にもあってそれが原因と考えられることもあり、
弊社としては損害を被っているのでこの際、この店長を解雇
しようと思いますがいかがでしょうか?

こんなケースの場合、どのように対応するか悩む経営者もいると思います。

答え
憲法では、信教の自由が保障されています。従業員がどんな宗教を信仰
しようと会社は口を出すことはできません。

次に労働基準法上から考えますと、 

使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、
労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはならない。

と定めておりますので、宗教を信仰していることを理由とする解雇は、
よほどの問題行為でなければ難しいといえます。

今回、この店舗の離職率が高いということと、この女性店長が宗教に勧誘して
いた事の因果関係はあいまいですし、そもそも業績はいいということなので
解雇理由を、無理やりこじつけて解雇するとトラブルになります。

しかしながら、業務時間内に宗教に勧誘しているということは就業規則上の
服務規定に反する行為であり、まして店長がそのようなことを仕事中に行って
いるとなると、組織的には大問題ですし、職務専念義務に違反していることになり
ますのでこちらも懲戒処分を検討する余地はあります。

しかしながらそれが初回であり、従業員から損害被害の告発などがあった
わけでなければ、懲戒処分をいきなり下すのではなく、話をしっかり聞いたうえで
会社での行動のあり方や考え方について説明をして、まずは口頭注意や指導
から入るのがいいでしょう。内容によっては懲戒処分の譴責で始末書を命じても
よいでしょう。

あとは降格や出勤停止は、重すぎるか? というのは状況にもよりますが、
今回のケースなら私なら躊躇すると思いますし、悩むところです。
ただ、その離職した方へのヒアリングや告発の裏がたくさんの人からとれたなら
重大な問題と判断されるので降格処分を下すかもしれません。

懲戒処分の降格として、思い切って店長職を外して配置転換として
違う店舗に異動させるというのも選択肢の1つですが無難なのは
店長職はそのままで、他の店舗に異動ということでしょうか。

一般的には異動させるようなポジションがないことも多く、苦労するのですが
今回の場合、複数店舗を経営しているということなので反省も兼ねて
新たに気持ちを入れ替えて臨んでもらうというのもよいでしょう。

あとは、その後懲戒処分を下してもその後改善が見込めない場合、また同じトラブル
が起きた場合、普通解雇を検討すればいいのですが、その状況によっては
無効になることもあるので、合意退職を目指すほうがいいときもあります。

さて問題は今回のように初回発覚のケースでの注意、指導の仕方です。

本人は、よかれと思って勧誘、あるいはいいと思っているものを勧めている
わけですから、なかなか会社の主張を理解してくれませんので、
やはり行動基準のようなものを設けて、下記のようなことをわかりやすく
1つ1つ丁寧に伝えていくことです。

・人に迷惑をかけないということ

・相手の気持ちを考慮して行動すること

・人の価値観はさまざまなので自分の価値観を押し付けないということ

宗教に限らず同じように政治や自己啓発関係などについても
同じなので、行動基準とルールを定めておくとよいでしょう。

さて、今回は業務時間内にも行っていたとのことですから、これは禁止する
ことができますが、休憩時間や業務終了後であってもオフィス内、店舗内
倉庫など会社が管理する施設内においても同様に禁止することを
定めることを検討すべきですが、休憩時間中や就業時間後にロッカーや
食堂や更衣室などで何をしようと勝手じゃないかという主張をされる方が
たくさんいますので厄介なところでもあります。

このような問題には、会社が施設管理権を有している中で、会社の許諾を得ることなく
自由な行動をすることを禁止することは問題ないという過去の判例
もありますのではっきりと禁止していることをあらためて根拠をもとに指導すべきです。

就業規則上には行き過ぎる勧誘行為で企業秩序を乱すもの、また勧誘
された側が上司からのパワハラと認められる可能性が高いような行為については
会社管理施設内等にて禁止することを就業規則に明確に記載しておくことで
トラブルを回避することができ、行動の抑止につながります。

仮に施設外であっても上司の絶対的な権限のなかで就業時間外に勧誘されるものは
決して許されるものではなく、受け手がパワハラと感じればそれはパワハラなので
パワハラを防止するためのセミナーなどで事例としてとりあげておき、管理職にも
しつこいくらい絶対許されない行為として理解させましょう。

今回のケースでは、店長という地位のある人から、男性アルバイトへの
勧誘も行われたということですが、本社にそのような情報が
あがってくる前に退職してしまうことも多いです。アルバイトは、面倒くさい
職場にこだわりはなく、会社への帰属意識も低いので仕方ないです。

それから店長への配慮から、わざわざ店長からの勧誘があったからという
ことを報告もしないですし、なかなか表に出てこないことも多いです。

また退職する予定の社員や元アルバイトなど一緒に働いていた人などに
あえて勧誘をすることも増えていて、発覚しにくい要因の1つになっています。

しかしながら、インターネット上やSNSのコミュニティなどにはかなり
書き込まれていて知らないのは会社だけということもあるので個人の
お客様相手のところは注意が必要です。

本人が結果的に勧誘されて信仰するのは自由ですが、勧誘する側も
勧誘された側も本業がおろそかになって、お金のトラブルに巻き込まれたり
さまざまな活動による疲れで寝不足になったり、体調不良になったりする
のは問題です。

企業は、心身共に健全な従業員に完全な労務提供を求めています。

また一方で企業は組織の秩序を乱すようなおそれがある職場環境
を改善すること、そしていきいきと働くことができるよう、職場を活性化
していくことが求められています。

快適な職場環境の維持ということではセクハラ、パワハラ予防
だけではなく、今回の宗教勧誘をはじめとしてネットワークビジネスや
自己啓発関連(セミナーや講演)に関するしつこい勧誘に関する
対策もしなければならず、企業側も苦労しています。

このような相談は、実はものすごく多いもので、対応の仕方に
よっては、人間関係を崩してしまうこともありますので勧誘を
受けている側のことも配慮しないといけません。

あまり介入しずらいプライベートの問題であるので会社としても
対応に苦労するところですが、原則は就業規則の規定のとおり運用する
とともに個別に慎重に対策をとるのがよいでしょう。

おまけですが、この店長はもしかすると少しだけ仲のよくなったお客様にも
勧誘をしていることが考えられますが、それが悪い噂になって店舗の評判を
落とすことがありますので、そのような部分も違った視点から予防策を
講じなければいけません。

ここまで記載してきたのは、あくまで仮の事例に基づいた私の個人的な意見も
含めた対応方法であって、基本的には言葉が足りず誤解があったりする
といけないのでそこは考慮してください。

宗教勧誘トラブルは、人間関係を崩すことにつながることも多く、
このデリケートな部分に関して、会社側の立場で解雇や懲戒に関する
厳しめのコラムを書く人は意外と少ないようです。やはり批判されることを恐れて
いるのだと思います。

宗教活動も政治活動も個人の自由ですので、会社組織に
はただ持ち込まないでほしいということを私のこれまでの経験から
まとめた次第ですが、そういっている間にも、数週間前にも
似たようなかなり重い相談案件がありましたので参考にしてもらえれば幸いです。

今回のコラムは、個別の事案にそのままあてはまるわけでなく、
このコラムの内容に対して責任をもつものではありませんのでご理解ください。

いつもよりも2倍以上のの時間をかけて長めのコラムを書きましたが
某◯◯さんの点数が気になるところです。

質とバランスと役に立つ度を考えると、何点くらいでしょうか?
ぜひお暇なときにでもよろしくお願いします。



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庄司英尚
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庄司英尚(社会保険労務士)

株式会社アイウェーブ(アイウェーブ社労士事務所 併設)

プロフェッショナル集団として学び続け、サービス業であるということを忘れず、何事にも全力で取り組みお客様の悩みを解決し、最終的には業績アップに貢献できるよう日々努力します。

庄司英尚プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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