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安部元隆プロは大分朝日放送が厳正なる審査をした登録専門家です

【第2部:実践編】「痛みの真実」を知ることが最初の治療になる ─ 疼痛神経科学教育と日常実践プログラム ─

安部元隆

安部元隆

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こんにちは、GENRYUです(^^)
前回の第1部では、痛みとは「脳の保護的決定(アウトプット)」であり、
組織損傷の直接的な反映ではないことを解説しました。
この第2部では、その理解を「今日から実践できる具体的なプログラム」に
転換していきたいと思います。
疼痛神経科学の観点から見ると、慢性痛に悩む多くの人が
最初に必要としているのは、新しいエクササイズでも注射でもなく、
「自分の痛みが何者であるかを正確に知ること」です。
大切なのでもう一度言います。
「自分の痛みが何者であるかを正確に知ること」です。
Moseley(2004年)の研究が示すように、痛みの神経科学を理解するだけで、
可動域は即座に改善し、痛みへの恐怖は軽減します。

プログラムの全体設計
このプログラムは「認知的アプローチ(痛みを正しく理解する)」から始まり、
「脅威バケツモデルの4種類のストレスを段階的に下げる実践」へと移行していきます。
特別な器具は一切不要です。
先にここで出てくる「脅威のバケツモデル」について
説明しておきますね!

「脅威バケツモデル(Threat Bucket Model)とは何か?」
一言で言うと、「脳が感じる危険の総量がある限界を超えたとき、
痛みが生まれる」というモデルです。
脳の中に「脅威を溜めるバケツ」があると想像してください。
このバケツには、日常生活のあらゆる
「脳が感じる危険・不安・ストレス」が注ぎ込まれています。
バケツが8割程度の水位なら、日常生活は痛みがなく普通に送れます。
しかしバケツが溢れた瞬間、脳は「緊急事態」を宣言して、
身体を守るための信号を一斉に発します。
その信号の一つが「痛み」です。
では、何がバケツに注ぎ込まれるのかをみていきましょう!
バケツを満たす水源は4種類あります。
①身体的ストレス:
 怪我・不良姿勢・同じ動きの繰り返しです。
 腰への物理的負担、長時間のデスクワーク、使われない関節などが該当します。
②感覚的ストレス:
 目の疲れ・バランスの悪さ・前庭系(内耳)の機能低下です。
 スマートフォンによる眼球運動機能の低下や、乗り物酔いしやすい
 体質などが該当します。
③感情的ストレス:
 仕事のプレッシャー・人間関係・「動くと痛い」という恐怖心です。
④ライフスタイルストレス:
 睡眠不足・加工食品・社会的孤立です。
慢性痛の患者さんがよく言う言葉があります。
「大したことはしていないのに、なぜ今日だけこんなに痛いのか」というものです。
脅威バケツモデルはこれを完璧に説明します。
昨日は睡眠が取れて感情的ストレスも低かったため、
バケツの水位は7割でした。
今日は寝不足で仕事でトラブルがあり、花粉症で目も充血していました。
身体への負荷は同じでも、他の3つのバケツへの注水が多かったため
総水位が溢れ、痛みが出たのです。
例えば、「腰だけ治療しても腰痛が治らない理由」もわかってくると思いますが、
従来の腰痛治療は「身体ストレスのバケツだけを減らす」アプローチです。
腰をマッサージし、腹筋を鍛え、椎間板を治療する。
しかし残りの3つのバケツ(感覚・感情・ライフスタイル)が
満水のままであれば、身体バケツを少し減らしてもすぐ溢れます。
これが「腰の治療を続けているのに慢性腰痛が治らない」という現象の正体です。
Sean Mackeyが「すべてをターゲットにせよ」と言った理由はここにあります。
ちなみに、神経科学的な正式名称は
「アロスタティック負荷(Allostatic Load)」と呼ばれています。
McEwen(1998年)が提唱したこの概念は、
複数の慢性ストレスが神経・内分泌・免疫系に累積的にダメージを与え、
痛みの閾値を低下させるという医学的に確立した理論です。
ここまで整理したところで、
早速実践編に移っていこうと思います!




第1ステップ:疼痛神経科学教育(PNE)を日常に組み込む
疼痛神経科学教育(PNE)は「痛みについて学ぶこと」を通じて
脳の神経回路を再配線するアプローチです。
以下の「認知的リフレーミング(考え方の書き換え)」を、
毎日意識的に実践してください。
1-1. 痛みの「再解釈」練習
慢性痛を抱える多くの方が「痛みが強い=もっと悪くなっている・
もっと損傷が進んでいる」という解釈をしています。
この解釈そのものが、脳の脅威評価を高め、
痛みをさらに増幅させる悪循環を作っています。
以下の「再解釈フレーズ」を、痛みを感じるたびに意識的に使ってください。
これはポジティブシンキングではなく、神経科学的に正確な事実に基づく
「認知的更新」です。
古い解釈→新しい解釈の変換例 「痛みが強い=もっと悪化している」 →
「痛みは脳の警報」。
センサーが反応しているが、それは「損傷の証拠ではない」
「動くと痛い=動いてはいけない」 →
「動くと警報が鳴るが、警報が鳴ること自体は動いてはいけない証拠ではない」
「痛みが消えない=治らない」 →
「痛みが消えないのは、警報器の感度が高まっているから。
感度を下げることはできる」

1-2. 「痛み日記」から「変化日記」へ
多くの慢性痛患者が「今日の痛みは10段階で何点か」を毎日記録する
「痛み日記」をつけています。
しかしこのアプローチは、脳に毎日「痛みに注意を向けよ」という
シグナルを強化し続けるリスクがあります。
代わりに「変化日記」を推奨します。毎日記録するのは以下の内容です。
◆「今日、痛みが軽くなった瞬間・状況はあったか?」
◆「今日、普通にできた動作・活動は何か?」
◆「今日の睡眠・食事・気分の状態は?(脅威バケツの水位)」
◆「今日試した新しい動きや活動はあるか?」
Fordyce(1976年)以来の行動医学研究が示すように、
「できたこと・良くなったこと」への注意シフトは、
痛みに関連した神経回路の活性を低下させ、機能回復を促進します。

1-3. 「グレイデッド・エクスポージャー(段階的曝露)」の実践
「痛みへの恐怖が動きを避けさせ、動かないことが痛みを悪化させる」という
恐怖回避の悪循環を断ち切るために有効なのが、
段階的曝露(Graded Exposure to Movement)です。
Vlaeyen & Linton(2000年)が確立したこのアプローチでは、
「最も恐怖を感じる動作」から「全く恐怖を感じない動作」まで
10段階にランク付けし、恐怖の低い動作から少しずつ実施していきます。
1.恐怖を感じる動作を紙に書き出します
(例:床から立ち上がる・荷物を持つ・歩く・前かがみになるなど)。
2.各動作に恐怖レベルを0〜10でつけます。
3.まず恐怖レベル2〜3の動作から実施し、問題なくできたら次のレベルに移行します。
4.各動作後に「実際には痛みや悪化がなかった」という経験を記録します(脳への安全情報の蓄積)。
5.週単位でより高いレベルの動作に挑戦します。
参考文献: Vlaeyen JW & Linton SJ. (2000). Fear-avoidance and its consequences in chronic musculoskeletal pain. Pain, 85(3), 317-332.




第2ステップ:脅威バケツを下げる4つの日常実践
第1部で解説した「脅威バケツモデル」に基づき、
4種類のストレス(身体的・感覚的・感情的・ライフスタイル)
それぞれを下げる実践を紹介します。
これらを「痛みの治療」としてではなく、
「バケツの水位を下げる日常習慣」として捉えることが重要です。

実践①:身体的ストレスを下げる──動きのバリエーション
所要時間:5〜10分/日 | 場所:どこでも
「PAIN REWIRED」が指摘するように、
「動きのバリエーション不足」は身体的ストレスの主要因の一つです。
同じ姿勢・同じ動作パターンの反復が、
脳の「身体地図のぼやけ(Cortical Smudging)」を引き起こし、
痛みへの感受性を高めます。
以下の「動きのバリエーションドリル」を毎日行います。
目的は「鍛えること」ではなく、「脳に新しい・多様な動きの情報を送ること」です。
1.痛みのない部位から始めます
(例:腰痛があれば、まず手首・肘・肩の多方向への小さな円運動)。
2.痛みのある部位に近い関節へ徐々に移行します
(例:腰痛なら→胸椎→腰椎の小さな動き)。
3.「痛みが出る直前まで」の動きを3〜5秒かけてゆっくり行い、戻ります。
4.毎回「どの方向が最も詰まるか」を観察し、
その方向への小さな動きを繰り返します。
「ポイント」
痛みを誘発させることが目的ではありません。
「痛みが出ない範囲での多方向の動き」を積み重ねることで、
脳に「この動きは安全だ」という情報を送り続けます。
1回5分でも毎日継続することが重要です。

実践②:感覚的ストレスを下げる──視覚×前庭の10分ドリル
所要時間:8〜10分/日 | 道具:鉛筆・スマートフォン
感覚的ストレス(視覚問題・前庭機能不全)がバケツに注ぎ込まれていると、
局所の治療をどれだけ行っても脅威レベルが下がりません。
以下の感覚系ドリルで「センサーの質」を高めます。
【視覚ドリル(3分)】
1.鉛筆を腕を伸ばした距離に持ち、先端に焦点を合わせ、
鼻先まで引き寄せます(複視の直前で止め5秒保持)。8〜10回。
2.遠くの目標と手元の文字を素早く交互に見ます。
遠くが鮮明になるまで5〜6秒待ちます。8〜10回。
【前庭ドリル(3分)】
1.スマートフォンの文字に焦点を合わせたまま頭を左右にゆっくり回します。
文字の鮮明さを維持します。10往復。
2.同様に頭を上下にうなずきます。10往復。
【即時再評価(2分)】
1.ドリル前後で「評価動作(前屈・体幹回旋・肩挙上など)」を行い、
変化を確認します。
変化が大きければ、感覚的ストレスがあなたのバケツの主要な水源の一つです。
このドリルに時間を増やしてください。

実践③:感情的ストレスを下げる──神経系を「安全モード」にリセット
所要時間:4〜5分/日 | 道具:不要
感情的ストレス(仕事・人間関係・運動への恐怖・不安)は、
扁桃体・HPA軸を通じて中枢感作を直接強化します。
最も即効性の高い感情的ストレス軽減法は、
自律神経を副交感神経優位に切り替える「延長呼気呼吸」です。
1.楽な姿勢をとります(座位・仰臥位・立位いずれでも)。
2.鼻から自然に息を吸います(秒数は意識しない)。
3.口からゆっくりと、吸った時間の1.5〜2倍以上かけて
長く吐きます(「ふーっ」と細く長く)。
4.これを3〜4分間継続します。
5.終了後に「体の緊張感・腰の重だるさ」が変化しているかを確認します。
マインドフルネスに関するZeidan et al.(2011年)の研究では、
4日間の短期瞑想訓練(1日20分)が痛みの不快感を57%軽減し、
痛みの強度を40%低下させたことが報告されています。
この変化は脳画像研究で、前帯状皮質・島皮質・視床の活動変化として
確認されています。
延長呼気呼吸は、この瞑想と同等の神経学的効果を日常の中に
「ミニ版」として組み込む方法です。

実践④:ライフスタイルストレスを下げる──睡眠と炎症の管理
重点:睡眠・栄養・炎症管理
「PAIN REWIRED」が指摘するライフスタイルストレス(睡眠・栄養・炎症)は、
しばしば慢性痛治療で最も見落とされる要素です。
しかしその影響は決して小さくありません。
睡眠と痛みの関係について、Finan et al.(2013年)が
「Sleep」誌に発表したメタ分析では、睡眠障害が翌日の痛みの閾値を
有意に低下させ、痛みへの感受性を高めることが示されています。
逆に、睡眠の質を改善することが、慢性痛の強度を有意に軽減します。
以下の「ライフスタイル最適化チェックリスト」を毎週確認してください。
◆睡眠:
就寝・起床時間を一定に保つ。
寝室を暗く・涼しく・静かに保つ。
就寝1時間前はスクリーンを避ける。
◆抗炎症食:
加工食品・精製糖の摂取を減らす。
オメガ3脂肪酸(青魚・亜麻仁油)を増やす。
カラフルな野菜・果物で抗酸化物質を摂取する。
◆日光浴:
毎日15〜20分の自然光曝露でビタミンDを生成。
ビタミンD不足は慢性痛と高い相関を示す(Heidari et al., 2010年)。
◆社会的つながり:
孤独感・社会的孤立は痛みの閾値を下げることが研究で確認されている。
週に一度は人と直接会う機会を意識的に作る。
参考文献: Zeidan F, et al. (2011). Brain mechanisms supporting the modulation of pain by mindfulness meditation. Journal of Neuroscience, 31(14), 5540-5548.
参考文献: Finan PH, et al. (2013). The association of sleep and pain: an update and a path forward. Journal of Pain, 14(12), 1539-1552.




第3ステップ:脅威バケツの水位を「見える化」する自己評価ツール
「バケツの水位」を定期的に自己評価することで、
現在どのストレスが最も痛みに影響しているかを特定できます。
以下の自己評価を毎週行い、記録してください。
脅威バケツ週次自己評価(10段階)
◆身体的ストレス:
今週の動きの制限・こわばり・疲労感はどのくらいか?(0=なし、10=最大)
◆感覚的ストレス:
目の疲れ・バランスの不安定感・頭を動かした時の不快感はどのくらいか?
◆感情的ストレス:
仕事・人間関係・将来への不安・痛みへの恐怖はどのくらいか?
◆ライフスタイルストレス:
睡眠の質・食事の質・運動量の不足感はどのくらいか?
4つのスコアを合計した値が「バケツの総水位」です。
合計が20以上の週は、特に「どのカテゴリーが最も高いか」を特定し、
そのカテゴリーへの実践を重点化します。
最も重要なのは「バケツ全体の水位が下がっているかどうか」です。
4カテゴリーすべてで満点(40点)を目指す必要はなく、
全体として低下傾向にあることが治癒の方向性を示しています。




第4ステップ:「動きの安全体験」を積み重ねる段階的プログラム
認知的理解(PNE)と脅威バケツ低下の実践が進んだら、
最後のステップとして「動きそのものへの安全体験」を段階的に積み重ねます。

4-1. 「小さな勝利」を毎日記録する
毎日「今日できた動きで、先月はできなかったこと」を一つ書き留めます。
階段を一段多く上れた、少し長く歩けた、朝の硬さが以前より早く解消された。
どんな小さな変化でも記録します。
これらの「小さな勝利」の蓄積が、脳の「安全に動ける」という
記憶として定着し、痛みへの恐怖回路を書き換えていきます。

4-2. 「好きな動き」から始める
「リハビリ」「治療」という枠ではなく、「自分が楽しめる活動・動き」から
再開することを強く推奨します。
水中歩行・音楽に合わせた軽い動き・ガーデニング・散歩
どんな形でも「楽しみながら動く」という経験が、
脳に「動くことは安全で心地よい」という最も強力な再学習を促します。
Fordyce(1976年)の行動医学研究が示すように、
痛みの軽減だけを目標にするより、「喜びや目的を伴う活動」への
復帰を目標にする方が、長期的な機能回復において
はるかに優れた結果をもたらします。

4-3. 痛みが出ても「破局化」しない練習
動きを再開すると、時に痛みが一時的に増すことがあります。
これは多くの場合「組織が悪化している」のではなく、
「高まった警報器感度への一時的な反応」です。
このとき最も重要なのは「破局的思考(Catastrophizing)」を避けることです。
Sullivan et al.(2001年)の研究では、
破局的思考(「これは絶対に治らない」「最悪の事態が起きた」という
思考パターン)が、痛みの強度・機能低下・長期回復不良の最も
強力な予測因子の一つであることが示されています。
痛みが増した時に「この警報は本物の火事ではなく、
焦げたトーストかもしれない」とリフレーミングすることを習慣にしてください。
参考文献: Sullivan MJL, et al. (2001). The psychosocial assessment of pain catastrophizing. Journal of Behavioral Medicine, 24(2), 101-111.




第2部のまとめ:「知る・下げる・動く」という3ステップが慢性痛を変える
◆第1ステップ(知る):
PNEとリフレーミングで「痛みの真実」を知り、恐怖回避の悪循環を断ち切る。
段階的曝露で「動きへの信頼」を再構築する。
◆第2ステップ(下げる):
4種の脅威バケツ(身体的・感覚的・感情的・ライフスタイル)
それぞれに対応した実践で、脳への総合的な脅威レベルを低下させる。
◆第3ステップ(動く):
「小さな勝利」の積み重ね・楽しい活動からの再開・破局化の回避という
3つの原則で、「安全に動ける脳」を段階的に構築する。

慢性痛は一夜にして形成されたものではありません。
脅威バケツが少しずつ満たされ、ある日溢れたものです。
同様に、その回復も一夜にして起こるものではありません。
今日から一つひとつの実践を積み重ね、バケツの水位を少しずつ
下げていくことが、根本的な回復への最も確実な道です。
ぜひ、今回ご紹介した内容を実践して頂き、
脅威のバケツの水位が上がらないように、
日常生活を工夫してみてくださいね(๑•̀ㅂ•́)و✧
それではまた、次回のコラムでお会いしましょう(*^^*)

【主要参考文献】
・Moseley GL. (2004). Evidence for a direct relationship between cognitive and physical change. European Journal of Pain, 8(1), 39-45.
・Vlaeyen JW & Linton SJ. (2000). Fear-avoidance and its consequences in chronic musculoskeletal pain. Pain, 85(3), 317-332.
・Zeidan F, et al. (2011). Brain mechanisms supporting the modulation of pain by mindfulness meditation. Journal of Neuroscience, 31(14), 5540-5548.
・Finan PH, et al. (2013). The association of sleep and pain. Journal of Pain, 14(12), 1539-1552.
・Sullivan MJL, et al. (2001). The psychosocial assessment of pain catastrophizing. Journal of Behavioral Medicine, 24(2), 101-111.
・Fordyce WE. (1976). Behavioral Methods for Chronic Pain and Illness. Mosby.
・Heidari B, et al. (2010). Vitamin D deficiency and chronic pain. Clinical Rheumatology, 29(2), 131-136.

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安部元隆(理学療法士)

GENRYU式 綜合整体

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