痛みが中々改善しない...その原因は、「顎のズレ」?

こんにちは、GENRYUです(^^)
口を開けようとすると顎が痛い、カクカクと音が鳴る、大きく口が開かない……。
日々の食事や会話を憂鬱にさせる「顎(あご)の不調」。
「歯医者さんに行っても虫歯はないと言われた」
「様子を見ましょうと言われたけれど、一向に良くならない」と、
不安を抱えながら過ごしている方は多いのではないでしょうか?
もしかすると、その症状は「顎関節症(がくかんせつしょう)」かもしれません。
専門的にはTemporomandibular Disorders(TMD)と呼ばれます。
しかし、「顎関節症ですね」と診断されただけでは、実は何も解決していません。
なぜなら、顎関節症は、たった一つの単純な病気ではなく、
様々な原因や状態が複雑に絡み合った「症候群」だからです。
筋肉が原因の人もいれば、関節の中の軟骨がずれている人もいます。
そして、ストレスが痛みを何倍にも増幅させている人もいるのです。
治療の第一歩は、あなたの顎で「今、何が起きているのか」を
正しく分類することから始まります。
今回は、世界の理学療法士が学ぶ「Physio Network」で紹介された記事に基づき、
現在世界で最も信頼されている顎関節症の診断基準「DC/TMD」について、
その内容を分かりやすく要約していきますね!
これを読めば、長年あなたを悩ませてきた顎の痛みの「正体」が見えてくるはずです。
では、早速いってみましょう。
第1章:そもそも「顎関節症(TMD)」とは何か?
まずは、敵を知ることから始めましょう。
Physio Networkの記事では、TMDを以下のように定義しています。
「顎関節、咀嚼筋(そしゃくきん)、および関連する構造に
影響を与える臨床的な問題の総称」
少し難しい表現ですね。噛み砕いて説明しましょう。
私たちの顎は、耳の前あたりにある「顎関節」という関節と、
それを動かすための「咀嚼筋(噛むための筋肉)」によって動いています。
TMDとは、この「関節」そのもの、あるいは関節を動かす「筋肉」
もしくはその両方に何らかのトラブルが起きている状態の総称です。
補完:数字で見るTMDと、見逃されがちな症状
医学的なデータ(疫学)を見ると、TMDは決して珍しい病気ではありません。
研究によれば、一般人口の約5〜12%がTMDの症状を抱えていると推定されています。
特に20代から40代の女性に多く見られる傾向がありますが、
どの年齢層でも発症する可能性があります。
主な症状は「顎の痛み」「関節雑音(カクカク、ジャリジャリ音)」
「開口障害(口が開けづらい)」の3つ(三大症状)ですが、
影響はそれだけにとどまりません。
元の記事でも触れられている通り「頭痛や首の痛み」を引き起こすこともあります。
これはなぜでしょうか?
顎を動かす筋肉(特に側頭筋や咬筋)は、頭の横や首、肩の筋肉と
連携して働いています。
顎の筋肉が過度に緊張して「トリガーポイント(痛みの引き金となるしこり)」
ができると、その痛みが頭や首に放散する「関連痛」を引き起こすことが、
多くの医学論文で報告されています。
「原因不明の片頭痛や頑固な肩こりに悩んでいたが、実は原因が顎にあった」
というケースは、臨床現場では決して珍しくないのです。
第2章:なぜ「分類」が運命を分けるのか?~画期的な診断基準「DC/TMD」の登場~
「顎が痛い」という症状が同じでも、その原因が違えば、
当然ながら効果的な治療法も異なります。
筋肉が凝り固まって痛い人に、関節の手術をしても意味がありません。
逆に関節の構造が壊れている人に、マッサージだけしていても
根本解決にはなりません。
だからこそ、Physio Networkの記事が強調するように、
「適切な診断と治療計画を立てるためには、TMDを
正しく分類することが極めて重要」なのです。
補完:DC/TMDが画期的な理由~「心と体」の両面を見る~
現在、世界中の研究者や臨床家が共通言語として使用している診断基準が、
**DC/TMD (Diagnostic Criteria for Temporomandibular Disorders)** です。
2014年に発表されたこの基準は、TMD診療における歴史的な転換点となりました。
なぜ画期的だったのでしょうか?
それまでの古い基準(RDC/TMD)は、主に体の構造的な問題に偏りがちでした。
しかし、多くの臨床データが蓄積されるにつれ、「体の傷の程度と、
患者さんが感じる痛みの強さは必ずしも比例しない」という事実が
明らかになってきました。
例えば、MRI画像では関節がボロボロなのに全く痛くない人もいれば、
画像上はきれいなのに激痛を訴える人もいます。
この矛盾を解く鍵が、「心理社会的要因」です。
ストレス、不安、うつ傾向、痛みに意識が集中してしまう思考の癖などが、
脳の痛みを調節するシステムに影響を与え、痛みを慢性化・増幅させることが、
現代の疼痛科学で常識となっています。
DC/TMDの最大の特徴は、TMDを評価する際に、以下の「二つの軸」を
同等の重みで評価するシステムを導入した点にあります。
* Axis I(第一軸):身体的評価
→ 筋肉や関節のどこが壊れているか?
* Axis II(第二軸):心理社会的評価
→ 痛みによって生活がどう妨げられ、どんな心理状態にあるか?
Physio Networkの記事でも、この二軸システムの重要性が強調されています。
次章からは、この二つの軸について、最新の医学的知見を交えて詳しく解説していきます。
第3章:Axis I(身体的評価)を深掘りする~痛みの物理的な発生源はどこだ?~
Axis Iは、従来の診断と同じく、体のどこに問題があるかを特定するプロセスです。
記事ではシンプルに「筋肉の障害」と「関節の障害」に分けて説明されていますが、
実際にはさらに細かく分類されます。
ここでは代表的な病態を医学的に補完しながら解説します。
1. 筋肉の障害(咀嚼筋障害)
TMDの中で最も多いタイプです。
顎を動かす筋肉、特に頬にある「咬筋(こうきん)」や、こめかみにある
「側頭筋(そくとうきん)」に問題が起きます。
* 筋痛(Myalgia)
筋肉そのものが痛む状態です。
原因は、食いしばり(ブラキシズム)や歯ぎしり、片側だけで噛む癖、
長時間のデスクワークによる姿勢不良などが考えられます。
これらの持続的な負荷により、筋肉内の血流が悪くなり、
発痛物質が蓄積して痛みを引き起こします。
* 筋膜痛(Myofascial pain)
筋肉を包む筋膜に「トリガーポイント」と呼ばれる硬いしこりができ、
そこを押すと離れた場所(歯や頭など)に痛みが飛ぶ「関連痛」を伴う状態です。
これは単なる筋肉痛よりも厄介で、慢性化しやすい特徴があります。
2. 関節の障害(顎関節障害)
耳の前にある顎関節の内部で起きるトラブルです。
* 関節円板障害(ディスクのずれ)
顎関節の骨と骨の間には、「関節円板」というクッションの役割をする
軟骨があります。これが正常な位置からずれてしまう状態です。
* 復位性関節円板転位(クリック)
口を開ける途中で、ずれていた円板が「カクン」と正常な位置に戻るタイプです。
この時に音が鳴ります。
多くの人が経験しますが、痛みがなければ直ちに治療が必要とは限りません。
* 非復位性関節円板転位(クローズドロック)
ずれた円板が元に戻らなくなり、骨の動きを物理的にブロックしてしまう状態です。
口が指1〜2本分程度しか開かなくなり、強い痛みを伴うことが多い深刻な状態です。
* 変形性顎関節症(Degenerative joint disease)
長年の負担により、関節を構成する骨が変形したり、
軟骨がすり減ったりする状態です。
動かすと「ジャリジャリ」「ミシミシ」といった音(クレピタス)が
鳴ることがあります。
加齢とともに増加する傾向があります。
第4章:Axis II(心理社会的評価)を深掘りする~痛みを複雑化させる「脳と心」のメカニズム~
Physio Networkの記事で最も強調されているのが、このAxis IIの重要性です。
「顎の痛みなのに、心の問題を調べるの?」と驚かれるかもしれませんが、
慢性的な痛みを理解するには不可欠な視点です。
なぜ心理面が重要なのか?医学的根拠
痛みが長期間続くと、脳の神経回路が変化を起こします。
これを「中枢感作(ちゅうすうかんさ)」と呼びます。
簡単に言えば、脳が「痛みに対して過敏になった状態」です。
本来なら痛くないはずの刺激を痛みとして感じたり、
小さな痛みを激痛として感じたりするようになります。
この脳の過敏状態を引き起こす強力な要因が、持続的なストレス、
不安、抑うつ状態なのです。
また、ストレスは無意識の「食いしばり」を助長し、Axis Iの筋肉の痛みを
悪化させるという悪循環も生み出します。
Axis IIで具体的に何を評価するのか?
DC/TMDでは、科学的に妥当性が確認された質問票を使って、
以下の項目をスクリーニングします。
1. 痛みの強度と、それによる生活への支障度(GCPSなど)
単に「痛い」だけでなく、痛みのせいで仕事や家事がどれくらいできないかを数値化します。
2. 心理的な苦痛(PHQ-9, GAD-7など)
抑うつ傾向や不安障害の程度を評価します。TMD患者は、
そうでない人に比べてうつや不安を抱えている割合が
高いことが研究で明らかになっています。
3. 身体化症状(PHQ-15など)
ストレスが胃痛、めまい、動悸など、顎以外の体の不調として
現れていないかをチェックします。
4. 顎の機能制限(JFLSなど)
固いものが噛めない、あくびができないなど、具体的な動作の制限を評価します。
Axis IIの評価は、「あなたの痛みが気のせいだ」と言うためではありません。
「あなたの痛みを複雑にしている要因を見つけ出し、多角的にアプローチするため」
に行うのです。
第5章:分類に基づいた最適な治療アプローチとは?
ここまで見てきたように、同じ「顎関節症」でも、Axis IとAxis IIの組み合わせによって、
患者さんの状態は千差万別です。
Physio Networkの記事が結論付けるように、「分類システムを使用することで、
臨床医はTMDの複雑な性質をより深く理解し、患者さん一人ひとりに
合わせた治療アプローチを提供できる」ようになります。
最後に、分類に基づいた代表的な治療アプローチの例を紹介します。
1. 「筋肉の障害(Axis I)」が主体の人へのアプローチ
* 理学療法・セルフケア
緊張した筋肉をほぐすマッサージ、ストレッチ、温熱療法などが効果的です。
理学療法士による専門的な徒手療法も行われます。
* 認知行動療法的なアプローチ(TMD自己管理教育)
実はこれが最も重要です。「上下の歯を接触させない(TCHの是正)」
「頬杖をつかない」「片側噛みをやめる」といった、筋肉に負担をかける
無意識の癖(パラファンクション)を自覚し、修正するトレーニングを行います。
多くの研究が、この自己管理教育の高い有効性を証明しています。
2. 「関節の障害(Axis I)」が主体の人へのアプローチ
* スプリント療法(マウスピース)
夜間に専用のマウスピースを装着し、関節への負担を軽減したり、
食いしばりによるダメージを防いだりします。
関節円板の位置を安定させる目的で使われることもあります。
* 運動療法(開口訓練)
関節の動きをスムーズにするための特殊な運動を行います。
ただし、ロックしている状態で無理に行うと悪化することもあるため、
専門家の指導が必要です。
* 外科的治療
関節の中を洗浄する(関節腔洗浄療法)や、癒着を剥がす手術などがありますが、
保存療法で改善しない重症例に限られます。
3. 「心理社会的要因(Axis II)」が強い人へのアプローチ
Axis Iの治療だけでは痛みが改善しない場合、
Axis IIへのアプローチを並行して行うことが不可欠です。
* ストレスマネジメント
リラクゼーション法や呼吸法などを学び、ストレスによる筋肉の緊張を和らげます。
* 心理療法・カウンセリング
痛みに対する悲観的な思考パターン(破局的思考)を修正する
認知行動療法などが有効です。
* 薬物療法
痛みを抑える目的で、抗うつ薬や抗不安薬が少量使われることがあります。
これは「うつ病だから」ではなく、これらの薬が持つ
「脳の痛みを感じるシステムを正常化させる作用」を利用するためです。
まとめ:自己判断は禁物。専門家と共に「分類」から始めよう
顎関節症は、体(Axis I)と心(Axis II)が複雑に絡み合った疾患です。
「たかが顎の痛み」と放置したり、ネットの情報だけで自己診断して
誤ったストレッチを続けたりすると、症状を慢性化・難治化させてしまう
リスクがあります。
大切なのは、DC/TMDのような国際基準に基づいた正しい評価ができる
専門家(歯科医師、口腔外科医、TMDに詳しい理学療法士など)を受診することです。
あなたの痛みの背景には、筋肉の悲鳴があるのか、関節の構造的な破綻があるのか、
それとも脳の痛みシステムの誤作動があるのか。
それを「分類」することが、長く苦しい痛みのトンネルから抜け出すための、
確実な第一歩となるはずです。
この記事が少しでもお役に立てたなら幸いです。
ぜひ、症状を放置することなく、キチンと分類して
適した治療を受けるようにしてくださいね(๑•̀ㅂ•́)و✧
それではまた、次回のコラムでお会いしましょう(*^^*)



