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海江田博士

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海江田博士(かいえだひろし) / 税理士

税理士法人アリエス

コラム

北の果てへの逃亡―唯一無二の経験?!?クソの山のてっぺんから地平線を望む―Ⅰ

2023年6月14日

テーマ:自分を振り返る

コラムカテゴリ:くらし

唯一無二の経験

皆さんは、二階建ての住宅ほどにうず高く積まれた糞の山の頂上から地平線を眺めたことがあるでしょうか?(あるわけないですよね~そんなもん)人にはそれぞれ、他人がおよそやったことがないような経験の一つや二つはあると思います。(あんまりないですかね・・そんなの)
私の場合、その一つとして冒頭に書きましたようなおかしな目にあったことがあるのです。と、まるで被害者のような書き方をしましたが、まあ、それは自業自得だったわけで・・・・そのときのお話を書いてみたいと思います。
あれは確か、私が大学3年生から4年生になる春先だったと記憶しています。ある事情があって、東京から逃亡したことがありました。逃亡というより蒸発といった方が当たっていたかも知れません。とにかく「雲隠れせねば・・」ということで北海道に渡ったのでした。(どうしてそんなことになったのか、という経緯(いきさつ)については、それはそれで大変なボリュームになりますので、いつか機会があれば・・ということで・・)


北の果ての侘しい風景

何の当てもなく、持って出たのは、少しの着替えと北海道の牧場では1年中いつでも住み込みで働けるという内容が書かれたご当地解説本だけでした。現地についたら、この本に書いてある通りに町の役場に連絡すれば、その日から部屋付き飯付きで働けるということだったのです。
夜行列車、青函連絡船、再び夜行列車というちょっとつらい長旅の果てについた釧路の北方にある目的地の町は、ビューと荒れた風の吹くあまり人気のない、まるで西部劇映画に出てくるような侘しい駅前の風景でした。さっそく駅構内にあった公衆電話(携帯電話が登場するはるか前の話です)から役場に連絡を入れました。心細い気分でしばらく待っていると、担当の公務員らしき男性が軽トラックで迎えに来てくれました。車に乗り、そのまま役場に向かうと、すでに連絡済みだったのか、これから働くことになる牧場主が待っていて、引き合わされたのです。牧場主はぶっきらぼうな感じの中年男で、この最初の印象は最後まで変わることはありませんでした。


さっそく仕事、しかも過酷な

彼の家に着くと「ここ使え。」と北向きの一部屋をあてがわれました。荷物などほとんどなかったので、部屋の隅に鞄を放り投げて所在無げにしていると、さっそく、「これに着替えろ。」と作業着を渡されました。それを羽織り農協マーク入りみたいな作業用帽子をかぶると、今度は玄関で長靴を履かされて、そのまま牛舎に連れていかれたのです。
薄暗い牛舎に入ると、ずらりと並んだ牛たちが一斉にこっちに顔を向けました。間近で見る牛たちの顔のでかさと、牛舎内のえさや糞尿などすべてが混ざった、むわっとした独特の臭いに圧倒されたことを覚えています。こんな光景に出くわすのは初めてだった(当たり前ですが・・)ので、ギョッとしている私に牧場主はかまわず「こっちに来い。」と言います。
ほれ、と最初に渡されたのは、なんの変哲もない竹ぼうきでした。牛は餌を食べるときさかんに首を振るために、その餌がえさ箱の周りに散らかります。その散らかった餌である飼料をこの箒でかき集めろ、という指示だったのです。なんだかよくわからないまま、コンクリートのたたきになった床をほうきできれいにします。
そうすると次は牛の後ろ側に回ってこい、と指示されました。牛たちの後ろ側には浅い溝が掘られており、そこには、前の夜牛たちが排泄したと思われる大量の糞が溜まっていました。
この糞をシャベルですくって一輪車に積み込み、牛舎の外にうず高く積まれた糞の山の上にさらにそれを運び上げること、これが北海道に着いたその日から、私に与えられたメインの仕事だったのです。何十頭もの牛の排泄物は半端な量ではなく、しかもこれを運び出す仕事は一日も休むことはできません。


一輪車の扱いが上手に

この仕事を与えられた私は『なるほど、これだったら喜んで従事する人間などいるはずもないな。年中、人を募集しているわけだ。』と、妙に納得したのを覚えています。
それまでの人生で、一輪車なんて一度も操ったことはなかったので、最初はバランスを取るのが難しかったのですが、それはすぐに慣れました。牛たちが盛大にひり散らかした水分を充分に含んでずしりと重い大量の糞を、その一輪車に積み込み外へと運び出すのです。
牛舎の外の敷地内にうずたかく積まれた糞の山はすでに家一軒分くらいの分量になっており、新たに運び込んだ糞は、そのてっぺんまで登って捨てなければなりません。糞の山の下からてっぺんまでは、幅30cm長さ2mくらいのメッシュ状になった鉄製の板が何枚も敷かれており、その上をひっくり返らないようにバランスを取りながら登るのです。
てっぺんに着いたら、一輪車を左右のどちらかに傾けて、中の糞だけをひっくり返します。このとき、うっかりすると一輪車ごと糞の山に落っこちてしまいかねません。そうなると、足元の柔らかい糞の山から、鉄製の一輪車を引き起こすのは大変な作業になります。
初めのうちは何度か失敗もしましたが、やがて慣れてうまくひっくり返せるようになりました。牧場主に「おめえ、一輪車の扱いがわりとうめえな。」と褒められたのですが、それほどうれしくもなかったことを覚えています。


遙かなる北の大地

当然ではありますが、毎日大量の糞を積み上げていくので、その山はだんだん高く大きくなっていきます。作業には慣れていくものの、高さと難易度も次第に上がっていくために、毎日が牛の糞との格闘でした。糞の山はやがて2階建ての家1軒分にもなったのです。
その糞の山のてっぺんで、ときおり一息ついて360度の眺望に目をやると、北の大地はどこまでも広く、「ああ、このイメージだけで北海道に憧れてやって来る人間もいるんだろうな。でも、今俺の足の下に踏みしめているのは牛の糞の山なんだ。こんな現実など知る由もないよな。」などと、ちょっと複雑な感慨にふけることもありました。
こうやって牛の糞を片付ける仕事は、一日の中で早朝と夕方の2回必ず行なわなければなりませんでした。そして、1年365日1日も休むわけにはいきません。私は、酪農という仕事の大変さをいやというほど味わうことになったのです。



地平線に沈む夕日

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