事業計画の作り方②|SWOT分析とは?強み・弱み・機会・脅威の具体的な分析方法

松本尚典

松本尚典


事業を客観的に俯瞰するために、外部環境と内部環境を分析する


前回のコラムでは、事業計画を作成するとき、最初に「なぜ、この事業を行うのか」という事業目的を明確にすることが重要だと書きました。

事業目的は、経営者が事業を進めるうえでの重要な軸になります。

しかし、事業は、経営者の想いや理念だけで成功するものではありません。

どれほど社会的な意義があり、経営者自身が強い想いを持っていても、

市場が存在しない。

競合に勝てない。

必要な人材を確保できない。

資金が不足している。

原価が高すぎる。

顧客が必要としていない。

という状態であれば、事業として継続することは困難です。

そこで事業目的を明確にした次の段階では、一度、自分自身の想いから距離を置き、事業を客観的に見なければなりません。

「自分は、この事業をやりたい」という視点から、「この事業は、本当に市場の中で成立するのか」という視点へ切り替えるのです。

そのために利用できる代表的な経営分析のフレームワークが、SWOT分析です。

SWOT分析とは、どのような考え方なのか?


SWOTとは、

Strength=強み

Weakness=弱み

Opportunity=機会

Threat=脅威

という4つの英単語の頭文字を取ったものです。

この4つを、さらに大きく二つに分けます。

強みと弱みは、自社の内部環境です。

機会と脅威は、自社を取り巻く外部環境です。

内部環境には、例えば、

人材。

技術。

商品。

ブランド。

顧客基盤。

営業力。

資金力。

組織。

ノウハウ。

設備。

情報。

取引先との関係。

などがあります。

これらの中で、自社が競争するうえで有利に働くものがStrength=強みであり、不利に働くものがWeakness=弱みです。

一方、外部環境には、

市場の成長・縮小。

人口動態。

顧客ニーズ。

競合。

技術革新。

物価。

金利。

法制度。

人材市場。

為替。

海外情勢。

などがあります。

この中で、自社の事業成長に追い風となるものがOpportunity=機会であり、逆風となるものがThreat=脅威です。

SWOT分析とは、自社の内部にある強み・弱みと、自社の外側にある機会・脅威を整理し、事業を客観的に俯瞰する方法です。

ただし、ここで重要なことがあります。

SWOT分析は、

「強みをたくさん書けばよい」

「弱みを思いつくだけ書けばよい」

という自己分析ではありません。

必ず、「何のために分析するのか」という経営上の目的を最初に決めてから行います。

例えば、

新規事業へ進むべきか。

第二店舗を出店するべきか。

海外へ進出するべきか。

新しい顧客層を開拓するべきか。

現在の商品構成を見直すべきか。

という経営課題によって、同じ会社でもSWOTの評価は変わります。

具体的なSWOT分析の方法を、飲食店の事例で解説します


ここから、具体例を使ってSWOT分析を行ってみましょう。

今回は、創業段階ではなく、すでに事業を一定規模まで育てた経営者を想定します。

【事業】

・Aさんは、東京都郊外のF市で、日本蕎麦を主力とする飲食店を8年間経営しています。

・現在の売上は年商3000万円前後。昼の営業は比較的安定していますが、夜の客数が伸びず、Aさん自身が長時間店舗に入らなければ営業が回らない状態です。

・Aさんは、老舗蕎麦店で10年間修業しており、手打ち蕎麦の技術や独自のつゆの製法を習得しています。修業先から暖簾分けを受けています。

・現在は、Aさんのほかに、長年勤務しているBさんと複数のパートスタッフが働いています。ただし、蕎麦打ちや重要な仕込みはAさんに依存しています。

・既存店の最寄り駅周辺では再開発が進み、新しいマンションや商業施設の建設が計画されています。

・Aさんは、今後、既存店の売上を伸ばすか、第二店舗を出店するかを検討しています。

・一方で、食材価格や光熱費、人件費には上昇圧力があり、飲食業界では人材確保も重要な経営課題になっています。

・近隣には、低価格の外食チェーンや新しい飲食店も増えています。


今回のSWOT分析の目的は、

「Aさんの会社が、年商3000万円前後から次の成長段階へ進むために、どのような戦略をとるべきか」

を考えることです。

この目的を明確にしたうえで分析していきます。

強みと弱み|内部環境を客観的に分析する


強み


まず、Aさんの内部環境の中で、事業成長に有利に働く要素を考えます。

第一の強みは、Aさん自身の蕎麦職人としての技術です。

10年間の修業経験があり、手打ち蕎麦やつゆの製法について高い専門性を持っています。

価格だけではなく、味や品質によって競合店と差別化できるのであれば、この技術は重要な競争力になります。

第二の強みが、老舗蕎麦店からの暖簾分けです。

地域の顧客から一定の信頼を得られるブランドであれば、新規店がゼロから認知を構築する場合と比較して有利です。

第三に、長期間勤務しているBさんなど、既存スタッフがいることも強みです。

Aさんの仕事の進め方や店舗のオペレーションを理解している人材がいることは、組織化を進めるうえで重要な経営資源になります。

第四に、8年間にわたって蓄積した顧客があります。

リピーター。

顧客の嗜好。

人気メニュー。

曜日別・時間帯別の売上。

こうした情報は、新規参入企業にはない重要な資産です。

つまり、Aさんの強みは、

・蕎麦職人としての専門技術

・老舗から暖簾分けされたブランド

・既存の顧客基盤

・経験を積んだスタッフ

・8年間蓄積してきた店舗運営ノウハウ


と整理できます。

弱み


一方、内部環境には弱みもあります。

最大の弱みは、Aさん自身への依存度が高いことです。

Aさんが蕎麦を打ち、重要な仕込みを行い、商品品質を管理している状態では、Aさん本人が働ける時間が、そのまま会社の成長限界になります。

第二店舗を出そうとしても、

「誰が同じ品質の商品を作るのか」

という問題が発生します。

つまり、

Aさんの高い職人技術は「強み」であると同時に、組織化という観点から見れば「社長依存」という弱みにもなり得ます。

また、昼営業に売上が集中し、夜の稼働率が低いのであれば、店舗という固定資産を十分に活用できていない可能性があります。

さらに、店舗運営について、

レシピ。

仕込み。

接客。

発注。

教育。

品質管理。

などがAさんやBさんの経験だけに依存し、マニュアルや仕組みとして標準化されていないのであれば、これも弱みになります。

第二店舗を出店する場合には、店舗数が2倍になるだけでなく、管理すべき人材と業務も増えるからです。

Aさんの弱みは、

・Aさん自身への技術・業務依存

・夜営業の稼働率が低い

・業務の標準化が十分でない

・第二店舗を任せられる人材が育っていない

・急速に店舗を増やせるほどの経営管理体制がない


と整理できます。

強みと弱みは、分析目的によって評価が変わる


ここで重要なのは、

同じ事実が、経営戦略によって強みにも弱みにもなり得る

ということです。

例えば、Aさんの手打ち蕎麦の技術は、

「高品質・高付加価値の一店舗を磨き上げる」

という戦略なら、大きな強みです。

しかし、

「短期間で10店舗展開する」

という戦略を選ぶのであれば、Aさん一人にしか再現できない技術は、大きな弱みになる可能性があります。

ブランドも同じです。

高級感のある老舗ブランドは、高品質を求める顧客を獲得するうえでは強みになります。

一方、

「低価格・日常利用を徹底的に追求する」

という戦略なら、ブランドイメージと顧客ニーズが一致しない可能性があります。

だからSWOT分析では、

「これは強みだ」

と単純に決めるのではなく、

「自社が、これから何を目指すのか」という戦略との関係で評価すること

が重要なのです。

機会と脅威|自社ではコントロールできない外部環境を分析する


次に、外部環境を分析します。

経営者が自分自身の努力だけで直接変えることが難しい市場や社会の変化を見ていきます。

機会


Aさんの店舗周辺では、駅前の再開発が計画されています。

新しい住宅や商業施設が増え、地域へ新しい住民や来街者が増えるのであれば、飲食店にとって新規顧客を獲得する機会になります。

特に、

どのような世帯が入居するのか。

昼間人口は増えるのか。

休日の人流はどう変わるのか。

駅から店舗までの導線はどう変わるのか。

を調査することで、より具体的に事業機会を評価できます。

また、消費者が単に低価格だけではなく、

品質。

産地。

健康。

体験。

地域性。

専門性。

などに価値を感じる市場が存在するのであれば、本格的な手打ち蕎麦というAさんの商品特性を活かせる可能性があります。

Aさんにとっての機会は、

・駅周辺の再開発

・地域への新しい住民の流入

・高品質・専門性を評価する顧客層

・既存顧客を基礎とした新商品・新サービス開発

・テイクアウト、予約、デジタル販促など販売方法の多様化


などが考えられます。

ただし、

「再開発があるから機会だ」

と決めつけてはいけません。

再開発によって駅前に大型商業施設ができ、強力な競合飲食店が大量に参入するのであれば、同じ再開発が脅威になることもあります。

ここでも、事実そのものではなく、自社にどのような影響を与えるのかを分析する必要があります。

脅威


次に、Aさんの事業を取り巻く脅威を考えます。

飲食業では、食材価格、エネルギー価格、人件費などの上昇が、利益を圧迫する可能性があります。

原価が上昇しても、それを販売価格へ十分に転嫁できなければ、粗利益率は低下します。

人材確保が難しくなれば、営業時間を維持できなかったり、新規出店が難しくなったりする可能性もあります。

さらに、駅周辺の再開発によって、大手外食チェーンや新しい競合店舗が増えれば、顧客獲得競争も激しくなります。

Aさんにとっての脅威としては、

・食材価格など原価の上昇

・人件費の上昇や採用難

・新しい競合店舗の進出

・消費者の価格に対する敏感化

・地域の人流や消費行動の変化


などが考えられます。

「機会」と「自社がやりたいこと」を混同しない


SWOT分析でよく見られる間違いがあります。

例えば、

「第二店舗を出店する」

「Web広告を出す」

「新商品を開発する」

といった内容を「機会」に書いてしまうことです。

しかし、これらは外部環境ではありません。

自社がこれから実行する施策です。

機会とは、

「駅周辺人口が増加する」

「ある顧客層の需要が伸びている」

「競合が撤退した」

「新しい販売チャネルが普及している」

など、自社の外側で発生している変化です。

SWOT分析では、

事実。

分析。

施策。

を混同しないことが非常に重要です。

SWOT分析で重要なのは、項目を埋めることではない


ここまで、

強み。

弱み。

機会。

脅威。

を整理してきました。

しかし、SWOT分析は、この4つの欄を埋めた時点で完成するわけではありません。

むしろ、ここからが経営戦略です。

例えばAさんの場合、

高い商品力という強みを、再開発による新規顧客獲得という機会へどう結びつけるのか。

社長依存という弱みを、第二店舗出店前にどう解消するのか。

原価上昇という脅威に対して、価格設定や商品構成をどう変えるのか。

人材不足という脅威に対して、業務標準化や生産性向上をどう進めるのか。

という経営判断へつなげなければなりません。

SWOT分析の目的は、自社について「強い・弱い」と評価することではありません。分析した情報から、経営者が何を決めるべきなのかを明らかにすることです。

SWOT分析を行うときの5つのポイント


最後に、SWOT分析を実際に行う際のポイントを整理しておきます。

1.最初に「何を判断するための分析か」を決める

2.強み・弱みは、自社だけでなく競合との比較で考える

3.機会・脅威は、自社の外側で起きている変化から抽出する

4.経営者一人だけでなく、社員・顧客・外部専門家など異なる視点も取り入れる

5.一度作って終わりにせず、外部環境の変化に合わせて定期的に見直す


特に重要なのが、第二の「競合との比較」です。

自社では、

「営業力が強い」

と思っていても、主要競合がさらに優れた営業組織を持っていれば、それは競争上の強みとは言えないかもしれません。

逆に、自社では当たり前だと思っている技術や顧客との関係が、競合企業には簡単に再現できないものであれば、大きな強みになる可能性があります。

SWOT分析は、自社を褒めるための分析でも、自社の欠点を探すための分析でもありません。経営戦略を決めるために、自社と市場を冷静に見るための分析です。

次は、SWOT分析の結果を「経営戦略」に変える


今回は、事業計画を作るためのSWOT分析として、

強み。

弱み。

機会。

脅威。

をどのように整理するのかを解説しました。

しかし、分析だけでは会社は変わりません。

次に必要になるのは、

自社の強みを、どの機会にぶつけるのか。

脅威に対して、自社の強みをどう活かすのか。

弱みをどこまで改善するのか。

弱みと脅威が重なる領域から、撤退するべきなのか。

という戦略判断です。

次回は、このSWOT分析の結果を基礎に、

「では、自社はどの方向へ進むべきなのか」

という事業のベクトルを決める方法へ進みます。

続く

事業計画の作り方③|SWOT分析を基礎に事業の方向性を決める

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