事業計画の作り方③|SWOT分析を戦略に変える「クロスSWOT」の具体的な進め方

松本尚典

松本尚典

このコラムは、事業計画作成法②~SWOT分析の具体的な進め方~から、内容が連続しています。お読みになっていない場合、一旦、前回のコラムにお戻りいただき、そちらを読んでから、このコラムをお読みください。

SWOT分析は、分析して終わりではない。経営戦略へ変えてはじめて意味がある


前回のコラムでは、事業計画を作成するために、自社の内部環境と外部環境を、

Strength=強み

Weakness=弱み

Opportunity=機会

Threat=脅威

の4つに分けて分析するSWOT分析について解説しました。

しかし、SWOT分析で、

「自社の強みは何か」

「弱みは何か」

「市場にはどのような機会があるか」

「どのような脅威があるか」

を書き出しただけでは、経営は何も変わりません。

SWOT分析の本当の目的は、分析結果を基礎にして、「では、自社は何をするのか」という経営戦略を決めることです。

そこで今回は、前回整理した4つの要素を組み合わせ、具体的な経営戦略へ変換していきます。

この方法を、一般に「クロスSWOT分析」と呼びます。

SWOT分析から考える4つの戦略

・強み × 機会=SO戦略
自社の強みを使って、市場の機会を最大限に取り込む

・強み × 脅威=ST戦略
自社の強みを使って、外部環境の脅威へ対応する

・弱み × 機会=WO戦略
市場の機会を逃さないために、自社の弱みを改善・補完する

・弱み × 脅威=WT戦略
弱みと脅威が重なる危険領域を縮小・回避する


この4つの視点から、「何をするべきか」を具体化していきます。

孫子の考え方にも通じる、戦う前に条件を分析するという発想


中国の兵法書「孫子」には、戦いを始める前に、自分と相手を取り巻く条件を十分に分析することの重要性が繰り返し説かれています。

企業経営も同じです。

競合がやっているから、自社も始める。

市場が伸びているから参入する。

社長が思いついたから、新規事業を始める。

このような判断ではなく、

自社に何ができるのか。

何ができないのか。

市場はどちらへ動いているのか。

競合はどう動いているのか。

どこなら勝てる可能性があるのか。

どこは避けるべきなのか。

を考えてから、経営資源を投入します。

戦略とは、「何をするか」を決めるだけではありません。「どこでは戦わないか」「何をやらないか」を決めることでもあります。

これが、SWOT分析を事業計画へ活かす基本姿勢です。

SO戦略|強みを使って、機会を最大限に取り込む


まず考えるのが、Strength=強みと、Opportunity=機会を掛け合わせるSO戦略です。

前回と同じAさんの蕎麦店を例に考えてみましょう。

Aさんの強み


Aさんには、

老舗蕎麦店で培った高い手打ち蕎麦の技術。

暖簾分けによるブランド。

8年間蓄積した既存顧客。

経験豊富なBさんをはじめとするスタッフ。

長年蓄積してきた店舗運営ノウハウ。

という強みがあります。

Aさんを取り巻く機会


一方、店舗周辺では、

駅周辺の再開発。

新しい住宅・商業施設の建設。

新住民や来街者の増加。

高品質・専門性を評価する消費者層。

デジタルを活用した新しい集客方法。

などの機会があります。

では、この二つを掛け合わせると、どのような戦略が考えられるでしょうか。

例えば、

・老舗で培った技術とブランドを前面に出し、新しく地域へ流入する顧客を獲得する

・手打ち蕎麦、産地、つゆ、器などの専門性を発信し、価格だけではなく品質を評価する顧客を獲得する

・既存顧客の評価や利用実績を活かし、Googleマップ、Webサイト、SNSなどで新規顧客への認知を広げる

・再開発による新しい住民層に合わせ、商品・サービス・営業時間を見直す

・既存店で確立したブランドを活かし、第二店舗や新しい販売チャネルの可能性を検討する


といった戦略が考えられます。

重要なのは、

「再開発があるから広告を出す」

という発想だけではありません。

「自社のどの強みを使えば、その機会を最も大きく取り込めるのか」を考えることです。

これがSO戦略です。

ST戦略|自社の強みを使って、脅威に対応する


次に考えるのが、Strength=強みとThreat=脅威を掛け合わせるST戦略です。

Aさんの店舗を取り巻く脅威としては、

食材価格の上昇。

人件費の上昇。

人材不足。

競合店舗の増加。

消費者の価格に対する敏感化。

地域の消費行動の変化。

などが考えられます。

こうした脅威は、Aさん自身の努力だけでは止めることができません。

原材料価格が上昇すること自体を、一店舗の経営者が止めることはできません。

しかし、

「その脅威が自社へ与える影響を小さくすること」はできます。

例えば食材価格が上昇するのであれば、単純に価格競争を続けるのではなく、

老舗で培った技術。

商品の品質。

産地へのこだわり。

ブランドストーリー。

店舗体験。

サービス。

といった自社の強みを使い、価格だけでは比較されない商品づくりを進めます。

そうすれば、原材料価格が上昇した場合にも、適切な価格改定を顧客に理解してもらいやすくなります。

競合店舗が増える場合にも同じです。

周囲に飲食店が増えたからといって、すぐに値下げをする必要はありません。

むしろ、

「Aさんの店でなければ得られない価値は何か」

をさらに明確にすることが重要です。

ST戦略の例

・原価上昇に対して、高品質・専門性・ブランドを強化し、適正価格で販売できる商品をつくる

・競合増加に対して、老舗の技術や暖簾分けという簡単に模倣できない強みを前面に出す

・採用難に対して、既存の経験豊富なスタッフを教育担当者として活用する

・客数変動に対して、既存顧客との関係を強化し、リピート率を高める


脅威をゼロにするのではありません。

自社の強みを使い、脅威に対して競合より強い状態をつくることがST戦略です。

WO戦略|機会を逃さないために、自社の弱みを補強する


第三に考えるのが、Weakness=弱みとOpportunity=機会を掛け合わせるWO戦略です。

Aさんにとって、大きな弱みの一つは、社長自身への依存です。

蕎麦打ち。

重要な仕込み。

品質管理。

顧客対応。

こうした仕事がAさんに集中している状態では、周辺市場が拡大しても、その機会を十分に取り込めません。

顧客が増えても、Aさんが一日に対応できる人数には限界があります。

第二店舗を出そうとしても、Aさん自身が二店舗に同時に立つことはできません。

つまり、

外部環境に大きな「機会」が存在していても、自社の「弱み」が原因で、その機会を獲得できない場合があります。

そこで必要になるのがWO戦略です。

例えば、

・蕎麦打ちや仕込みの技術を標準化し、他の人材を育成する

・Bさんを店舗運営のリーダーとして育成する

・接客、発注、品質管理などの業務をマニュアル化する

・Aさん自身が現場から離れる時間をつくり、経営・マーケティング・人材育成へ時間を使う

・第二店舗を検討する前に、既存店がAさん不在でも一定程度運営できる体制をつくる


といった取り組みが考えられます。

これによって、再開発や新しい顧客層という市場機会を、会社として取り込める状態をつくります。

弱みは、すべて克服しなければならないわけではありません。

経営者自身が苦手な仕事であれば、

社員へ任せる。

外部専門家を利用する。

システム化する。

外注する。

他社と提携する。

という方法もあります。

重要なのは、「弱みをなくすこと」ではなく、その弱みが成長機会を逃す原因にならない状態をつくることです。

WT戦略|弱みと脅威が重なる領域では、「やらない」という判断も必要


最後が、Weakness=弱みとThreat=脅威を組み合わせるWT戦略です。

これは非常に重要です。

経営者は、

「成長戦略」

「新規事業」

「攻めの経営」

という言葉を好みます。

しかし、経営戦略には、

撤退する。

縮小する。

延期する。

外注する。

提携する。

参入しない。

という判断もあります。

Aさんの場合を考えてみます。

現在、

Aさん本人への依存度が高い。

第二店舗を任せられる人材が育っていない。

業務標準化も十分でない。

という弱みがあるとします。

そこへ、

人材採用が難しい。

人件費が上昇している。

原価も上昇している。

競合店舗が増えている。

という脅威が重なっています。

この状態で、

「市場が伸びそうだから、すぐ第二店舗を出そう」

という判断をすれば、リスクが急激に高まります。

既存店と新店舗の双方でAさんの負担が増え、品質が低下し、社員管理が追いつかず、資金まで圧迫する可能性があります。

この場合には、

「今は第二店舗を出さない」

という判断も、立派な経営戦略です。

先に、

既存店の収益性を改善する。

社員を育成する。

業務を標準化する。

キャッシュを蓄積する。

顧客基盤を強化する。

という取り組みを行い、その後に出店する方が合理的かもしれません。

WT戦略の例

・人材育成が進むまで第二店舗出店を延期する

・採算の悪い時間帯や商品を見直す

・社長に依存する業務を減らす

・固定費を増加させる投資を慎重に判断する

・自社単独で弱い領域は、外部企業との提携や外注を活用する


経営戦略とは、すべての機会を追いかけることではありません。自社が勝てる場所へ経営資源を集中し、勝てない戦いを避けることでもあります。

クロスSWOT分析で重要なのは、「戦略案を増やすこと」ではなく「選ぶこと」


クロスSWOT分析を行うと、たくさんの戦略案が出てきます。

Aさんのケースでも、

新規顧客の開拓。

ブランド強化。

第二店舗。

商品開発。

価格改定。

人材育成。

業務標準化。

Webマーケティング。

採用。

外注。

など、多くの施策が考えられます。

しかし、中小企業には、大企業ほど潤沢な経営資源はありません。

ヒト。

カネ。

時間。

経営者自身の注意力。

すべてに限界があります。

だから、

「考えられる施策を全部やる」

ことが最も危険です。

クロスSWOT分析の最後に行うべきことは、戦略案を列挙することではなく、「何を優先し、何を後回しにし、何をやらないか」を決めることです。

例えばAさんの場合、

第一優先
社長依存を減らし、Bさんをリーダーとして育成する。

第二優先
既存店のブランドと商品力を活かして、再開発による新規顧客を取り込む。

第三優先
利益率とキャッシュを改善する。

その後
第二店舗を検討する。

という順番になるかもしれません。

事業計画には、この優先順位を明確に記載します。

SWOT分析から、事業計画へ落とし込む


クロスSWOT分析によって戦略の方向が決まったら、次は、それを事業計画へ落とします。

例えば、

「ブランド力を活かして新規顧客を獲得する」

だけでは、まだ戦略の方向性にすぎません。

これを、

誰をターゲット顧客とするのか。

どの商品を中心に売るのか。

いくらで売るのか。

どの販売チャネルを使うのか。

どのような情報発信を行うのか。

誰が担当するのか。

いつまでに実施するのか。

どれだけ予算を使うのか。

どの数字で成果を判断するのか。

まで具体化していきます。

例えば、人材育成についても、

「社員を育てる」

では計画になりません。

Bさんにどの業務を任せるのか。

何月までに任せるのか。

どこまで権限を与えるのか。

どの数字を管理してもらうのか。

Aさんはどの業務から抜けるのか。

まで決めます。

事業計画とは、SWOT分析で見つけた戦略を、「誰が・何を・いつまでに・どの数字を目標に実行するのか」まで具体化したものです。

経営者自身の「弱み」は、必ずしも克服しなくてもよい


元のSWOT分析に戻って、もう一つ重要なことを考えてみましょう。

経営者にも、当然、強みと弱みがあります。

営業が強い経営者。

商品開発が強い経営者。

財務に強い経営者。

人材育成が得意な経営者。

マーケティングが得意な経営者。

一方で、すべてに強い経営者はいません。

例えば、

営業は得意だが、数字の管理は苦手。

商品開発は得意だが、営業は苦手。

戦略を考えることは得意だが、細かな管理は苦手。

現場には強いが、組織づくりが苦手。

ということは、当然あります。

だからといって、経営者自身がすべての弱みを克服する必要はありません。

経営者の仕事は、自分が万能になることではなく、自分の弱みを組織として補完できる体制をつくることです。

社員。

幹部。

外部専門家。

金融機関。

業務委託先。

システム。

AI。

こうした外部・内部の経営資源を組み合わせることで、経営者自身の弱みが会社全体の弱みとして顕在化することを防ぎます。

僕が経営コンサルタントとして経営者を支援する際にも、

その社長の強みは何か。

どこで成果を出せるのか。

何を社長自身が行うべきか。

逆に、どこを組織や専門家が補うべきなのか。

を非常に重視します。

経営者の個性を消すのではありません。

経営者の強みが最大限発揮され、弱みは組織によって補完される経営体制をつくることが重要なのです。

SWOT分析の目的は、「自社が進むべきベクトル」を決めること


ここまでを整理しましょう。

SWOT分析を行ったら、

SO戦略
強みを活かして、機会を取り込む

ST戦略
強みを使って、脅威へ対応する

WO戦略
機会を逃さないように、弱みを改善・補完する

WT戦略
弱みと脅威が重なる危険領域を避ける


という4つの方向から、経営戦略を考えます。

そして、そこから生まれた戦略案に、

優先順位を付ける。

実行順序を決める。

担当者を決める。

数値目標を決める。

期限を決める。

予算を決める。

ことによって、初めて事業計画になっていきます。

SWOT分析のゴールは、自社を分析することではありません。「自社は、これからどの方向へ進むのか」を決めることです。

前回②で分析した情報が、今回③で、ようやく経営戦略へ変わります。

そして、ここで事業の方向性が決まると、次に必要になるのが、

「その市場で、自社は誰と競争するのか」

という競合分析です。

次回は、競合とは誰なのかを整理し、競争戦略へ進むための考え方を解説します。

続く

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