香港進出は今も有効か?中国本土との一体化が進む香港の「金融・貿易・大湾区」戦略

松本尚典

松本尚典

テーマ:香港 今


1、変わりゆく香港の現在地


僕は、株式会社URVグローバルミッションの香港拠点に関わる業務や、香港の経済団体との交流などを通じて、これまで長年にわたり香港を訪れてきました。

香港島の中環(セントラル)。

九龍の尖沙咀(チムサーチョイ)。

香港国際空港から市街地へ向かう車窓。

同じ場所を継続して見ていると、数日の旅行だけでは気付きにくい香港の変化が見えてきます。

現在の香港を考えるとき、

「香港は中国本土との一体化が進み、国際ビジネス都市としての価値を失った。」

と考えることも、

反対に、

「香港は1997年の返還以前とほとんど変わっていない。」

と考えることも、適切ではありません。

現在の香港には、

二つの大きな側面があります。

一つは、

中国の特別行政区として、中国本土との政治・行政・経済面での結び付きが強くなっていること。

もう一つは、

香港ドル。

独自の税制。

自由港。

自由な資本移動。

コモンローを基礎とする法制度。

中国語と英語による行政・司法。

国際金融。

国際貿易。

など、中国本土とは異なるビジネス制度が現在も維持されていることです。


現在の香港は、中国本土との一体化を深めながら、中国本土とは異なる金融・法務・税務・貿易制度を持つ国際ビジネス都市


と理解するのが、経営者にとって最も実務的だと僕は考えています。

香港の人口は、2025年末時点で約751万人です。

したがって、

香港進出を、

「750万人の消費市場へ進出する。」

という観点だけで考える必要はありません。

むしろ、

香港を使って、どの市場・資本・企業・人材とつながるのか。

という視点が重要です。

中国本土。

広東・香港・マカオ大湾区。

東南アジア。

国際金融市場。

国際貿易。

クロスボーダー投資。

これらとの接続点として香港を使うのであれば、現在も大きな戦略的価値があります。

香港進出で最初に考えるべきことは、「香港は中国化したのか」という政治的な問いではありません。

「香港の制度を使うことで、自社の海外事業にどのような価値が生まれるのか」という経営上の問いです。


2、香港民主化運動と、政治環境の変化


現在の香港を理解するうえで、

政治環境の変化を無視することはできません。

香港では、

2014年の雨傘運動。

2019年の大規模な抗議活動。

などを経て、

2020年に香港国家安全維持法が施行されました。

さらに、

2024年3月には、

香港基本法第23条に基づく国家安全条例が施行されています。

この結果、

香港における政治活動や情報発信を取り巻く法的環境は、2019年以前とは大きく変わりました。

この変化については、

評価する立場によって見方が大きく異なります。

香港政府は、

国家安全保障を確保し、

社会の安定と「一国二制度」の長期的な運営を守るための制度

と説明しています。

一方、

国連の人権機関などからは、

国家安全関連法制の適用範囲や、表現・報道・集会などへの影響について懸念も示されています。

海外企業の経営者にとって重要なのは、

この政治的な評価について、

どちらか一方の立場を取ることではありません。

香港で、現在どのような法律が適用され、自社の事業活動にどのような影響を与える可能性があるのかを把握することです。

通常の商取引を行う企業が、

香港で事業を行うだけで、

直ちに国家安全保障上の問題になるわけではありません。

しかし、

政治。

報道。

出版。

教育。

研究。

データ。

情報発信。

国際NGO。

安全保障関連産業。

などに関係する事業では、

より慎重な法務確認が必要となる場合があります。

また、

広告。

広報。

SNS。

イベント。

社内規程。

情報管理。

などについても、

政治・国家安全保障に関わる内容を取り扱う場合には、

日本の法制度や感覚だけで判断せず、

香港の法律に精通する弁護士などへ確認する必要があります。

海外進出では、「政治的に賛成か反対か」を決めることより、

その政治・法制度の変化が、自社の事業・人材・情報・資金にどのようなリスクを与えるのかを把握することが重要です。


3、香港の「中国化」とは、具体的に何を意味するのか


香港の「中国化」という言葉は、

政治制度の変化を表す言葉として使われることが多くあります。

しかし、

経営者の立場から見ると、

それだけではありません。

経済面では、


・中国本土との人・モノ・資金の交流
・中国本土企業による香港での資金調達・海外展開
・香港企業による中国本土市場への進出
・中国本土から香港への旅行・消費
・広東・香港・マカオ大湾区との連携
・香港を通じた人民元関連金融サービス
・中国本土企業と海外企業を結ぶ専門サービス


などが拡大しています。

特に重要なのが、

広東・香港・マカオ大湾区

です。

大湾区には、

香港。

マカオ。

深圳。

広州。

東莞。

珠海。

佛山。

恵州。

中山。

江門。

肇慶。

が含まれます。

ここには、

国際金融。

国際貿易。

IT。

製造業。

研究開発。

物流。

巨大な消費市場。

が集積しています。

例えば、

香港には、

金融。

国際契約。

専門サービス。

国際取引。

という強みがあります。

深圳には、

IT。

テクノロジー。

研究開発。

スタートアップ。

という強みがあります。

東莞や広州などには、

製造。

サプライチェーン。

消費市場。

という強みがあります。

つまり、

香港だけで完結するビジネスを考える必要はありません。

香港進出の現在の価値は、「香港という一都市」だけを見るより、

香港の金融・法務・国際取引機能と、中国本土・大湾区の製造・技術・消費市場を組み合わせることにあります。


日本企業が香港へ進出する場合にも、

香港で商品を販売する。

香港企業と取引する。

だけではなく、

香港を通じて、

中国本土へ入る。

中国企業と組む。

大湾区の企業を活用する。

海外資金を調達する。

アジアとの貿易拠点にする。

といった複数の事業モデルを検討できます。

「香港法人を作れば、中国市場へ進出できる」わけではない


ここは非常に重要です。

香港と中国本土は、

同じ国に属していますが、

ビジネス上は、

税務。

関税。

会社制度。

許認可。

金融。

資本移動。

データ。

労務。

などに異なる制度があります。

香港法人を設立したからといって、

そのまま自由に中国本土で事業ができるわけではありません。

したがって、

中国本土への展開を目的として香港を使うのであれば、


香港で何を行うのか

中国本土で何を行うのか

どこで契約するのか

どこで利益を生むのか

どこに人材を置くのか

どの会社が知的財産を保有するのか

資金をどのように移動させるのか


まで、

グループ全体の事業構造として設計する必要があります。

4、街で使われる言語から見える香港の実情


香港の街を歩けば、

現在も広東語が非常に大きな存在感を持っていることが分かります。

家庭。

飲食店。

小売店。

地域社会。

地元企業。

などでは、

広東語が日常的に使われています。

一方、

中国本土との人・ビジネスの交流が深まったことで、

普通話、いわゆるマンダリンを使用する機会も増えています。

そして、

英語も依然として香港ビジネスの重要な言語です。

香港では、

中国語と英語が公用語です。

政府。

司法。

金融。

法務。

会計。

国際企業。

ホテル。

専門サービス。

などでは、

英語が現在も広く利用されています。

したがって、

現在の香港の言語環境は、


地域社会・香港消費者とのコミュニケーションでは広東語

中国本土の企業・顧客との取引では普通話

国際金融・法務・専門サービス・外資企業との取引では英語


という、

三つの言語を使い分ける市場

と考えると分かりやすいでしょう。

日本企業が、

BtoBの国際取引や金融・専門サービスを中心に香港へ進出するのであれば、

英語を中心に事業を立ち上げられるケースがあります。

しかし、

香港の一般消費者へ、

食品。

小売。

サービス。

飲食。

EC。

などを展開するのであれば、

繁体字中国語。

広東語。

への対応が重要です。

さらに、

中国本土の顧客も狙うのであれば、

簡体字中国語。

普通話。

への対応も必要になります。

香港の言語戦略も、「英語が通じるか」という問題ではありません。

自社が、誰を顧客にするかによって使う言語を決める問題です。


香港の夜景 

5、英国統治と香港の歴史を振り返る


現在の香港に、

中国本土とは異なる、

法制度。

金融制度。

言語環境。

商取引慣行。

が存在する理由を理解するためには、

歴史を知る必要があります。

19世紀、

英国と清朝との間で貿易を巡る対立が深まり、

阿片戦争が起こりました。

1842年の南京条約によって香港島が英国へ割譲され、

その後、

九龍半島南部が英国領となり、

新界は英国へ租借されました。

こうして香港は、

英国の東アジアにおける貿易・金融拠点として発展します。

その過程で、

コモンロー。

英語。

国際金融。

自由貿易。

港湾。

国際的な商取引。

などが、

香港の制度と経済に深く組み込まれていきました。

一方、

中国側の歴史認識では、

この時代は外国勢力によって領土と主権を侵害された歴史として位置付けられています。

1997年7月1日、

香港は中国へ返還され、

香港特別行政区となりました。

そこで採用されたのが、

「一国二制度」

です。

現在の香港を理解するうえで重要なのは、

中国の主権のもとにある都市であることと、歴史的に形成された独自の制度を持つ国際商業都市であることが、同時に存在している

という点です。

6、国際情勢を「善」と「悪」だけで判断しない


香港について、

政治的な価値観から議論することはできます。

自由。

民主主義。

国家安全保障。

主権。

社会の安定。

などについて、

立場によって評価は大きく違います。

しかし、

海外進出を検討する経営者に必要なのは、

自分の政治的な価値観だけで、

その市場を評価することではありません。

僕自身、

思想や表現の自由を非常に重要だと考えています。

一方、

海外進出支援を行う立場では、


その国・地域はどのような法律で動いているのか

政府は何を重視しているのか

今後どの方向へ制度が変わる可能性があるのか

その変化が自社の事業へどう影響するのか


を冷静に分析する必要があります。

例えば、

香港で事業を行う場合には、


政治・法務リスク

情報発信リスク

データ・サイバーセキュリティ

中国本土との取引

米中関係

輸出規制・制裁

金融取引

人材


など、

自社の業種に関係する項目を整理します。

海外事業のカントリーリスク分析とは、「その国が好きか嫌いか」を決めることではありません。

何が起きたら、自社の売上・資金・人材・契約・情報が影響を受けるのかを特定することです。


7、香港ドルと国際金融都市としての制度


香港が、

中国本土の他都市とは異なる国際ビジネス機能を持つ大きな理由の一つが、

金融制度

です。

香港では、

香港ドル

が法定通貨として使用されています。

香港ドルの20、50、100、500、1000香港ドル紙幣は、

主に、


・香港上海銀行
・スタンダード・チャータード銀行(香港)
・中国銀行(香港)


の3行が発行しています。

10香港ドル紙幣や硬貨は、

香港特別行政区政府が発行しています。

しかし、

企業経営者が注目すべきなのは、

紙幣を誰が発行しているか

ではありません。

重要なのは、

香港ドルを支える金融制度です。

香港ドルには、

米ドルとのリンク・エクスチェンジ・レート制度があります。

現在、

香港金融管理局は、

1米ドルあたり7.75香港ドルから7.85香港ドルの交換可能ゾーンを設定しています。

また、

香港基本法では、

香港ドルの自由交換。

外為管理を行わないこと。

資本の自由な流出入。

自由港。

独立関税地域。

を定めています。

これは、

香港が、

資金。

投資。

金融。

貿易。

の拠点として機能する重要な制度基盤です。

香港の価値を、中国本土の「一都市」としてだけ見ると、本質を見誤ります。

香港には現在も、中国本土とは異なる通貨・資本移動・関税・法務制度があります。


香港の税制も、進出判断の一つの要素


香港は、

比較的シンプルな税制を持っています。

例えば、

法人の事業所得に対する利得税は、

一定の条件のもと、

課税所得200万香港ドルまで8.25%。

それを超える部分は16.5%

という二段階税率があります。

ただし、

「税率が低いから香港へ会社を作る。」

という判断は適切ではありません。

国際税務。

移転価格。

実体。

居住地。

各国の税制。

租税条約。

グループ会社間取引。

などを考える必要があるからです。

海外法人の設立国は、「税金が安い場所」ではなく、「事業実態と経営目的に合う場所」で決めるべきです。

8、香港は、海外進出先として今も有効なのか


では、

香港は現在も、

日本企業にとって有効な海外進出先なのでしょうか。

僕の答えは、


目的によっては、現在も非常に有効。

しかし、「海外法人を作るなら香港」という時代ではなくなった。


です。

香港が有力候補になるのは、

例えば、


中国本土・大湾区とビジネスを行う

中国企業と海外企業を結ぶ

アジアの貿易拠点を作る

国際金融・資金管理機能を置く

クロスボーダー投資を行う

中国本土と海外の双方へ販売する

国際的な法務・会計・金融人材を活用する


といった事業です。

一方、

香港だけで商品を販売する。

低コストの人材を大量採用する。

大規模な製造拠点を作る。

という目的であれば、

他の国や都市の方が適している可能性もあります。

香港進出の判断では、「香港が良いか悪いか」を考えません。

「御社が海外で実現したいことに、香港という事業拠点が合っているか」を考えます。


香港・シンガポール・中国本土を、目的別に比較する


例えば、

アジアの地域統括拠点を検討する場合、

香港だけではなく、

シンガポール。

上海。

深圳。

その他の都市。

も候補になります。

どこが最適かは、


顧客

販売地域

サプライチェーン

金融

税務

人材

規制

中国本土との関係

ASEANとの関係

経営者の移動


によって変わります。

中国・大湾区とのビジネスが重要なら、

香港が非常に有力になる可能性があります。

一方、

ASEAN全体の統括を中心に考えるなら、

別の都市の方が合理的な場合もあります。

つまり、

「香港に進出するか」ではなく、「海外事業全体の中で、香港に何の役割を持たせるか」を考えます。

香港進出で最初に確認したい7つのこと


僕なら、

香港進出を検討する経営者には、

まず次の7点を確認します。

  1. なぜ香港に拠点が必要なのか
  2. 誰を顧客にするのか
  3. 香港だけを市場とするのか、中国本土・大湾区・アジアまで狙うのか
  4. 香港法人に販売・貿易・金融・投資・統括のどの機能を持たせるのか
  5. 香港の税務・法務・政治・情報管理リスクを管理できるか
  6. シンガポール・中国本土など、他の候補地より香港が適している理由は何か
  7. 香港拠点によって、どのように売上・利益・企業価値を高めるのか


この7つが曖昧な状態で、

「香港は会社を作りやすいから。」

という理由だけで法人を設立することはおすすめしません。

香港の価値は、「中国と世界の間」にある


香港は、

1990年代。

2000年代。

2010年代。

そして現在。

それぞれの時代で、

役割を変えてきました。

現在も変化しています。

しかし、

香港が持つ、

中国本土との近さ。

国際金融。

貿易。

専門サービス。

英語。

中国語。

香港ドル。

自由な資本移動。

コモンロー。

という組み合わせは、

世界でも特徴的です。

現在の香港は、「中国とは別の場所」でも、「中国本土と同じ都市」でもありません。

中国の一部でありながら、中国本土とは異なる制度を使って国際ビジネスを行えることが、香港の最大の特徴です。


香港・中国本土・アジアへの進出を検討している経営者の方へ


「香港は今も進出先として有効なのか。」

「香港とシンガポールのどちらに拠点を置くべきか。」

「香港法人を使って中国本土へ展開できるのか。」

「大湾区を自社の海外戦略へどう組み込めばよいのか。」

「香港に販売・貿易・金融のどの機能を置くべきか。」

「中国本土との関係強化が、自社の事業リスクにどう影響するのか。」

「海外法人を作る前に、そもそもどの国・地域が自社に適しているのかを整理したい。」

という段階では、

香港法人の設立手続から始める必要はありません。

まず、

自社はなぜ海外へ進出するのか。

誰を顧客にするのか。

何を海外で行うのか。

どこで売上を作るのか。

どこに人材を置くのか。

どこで資金を管理するのか。

香港を使うことで何が有利になるのか。

どのリスクを負うことになるのか。

を整理します。

場合によっては、

香港が最適な場合もあります。

シンガポールの方が適する場合もあります。

中国本土へ直接進出した方が合理的な場合もあります。

あるいは、

現地法人を設立せず、

輸出。

代理店。

業務提携。

から始める方がよい場合もあります。

海外進出の第一歩は、「どこに会社を作るか」を決めることではありません。

「海外で何を実現するのか」を決め、その目的に最も合う国・都市・進出方法を選ぶことです。


初回120分海外事業カンファレンスでは、

香港進出ありきではなく、

御社の国内事業。

商品・サービス。

ターゲット顧客。

海外事業の目的。

資金力。

組織体制。

を確認したうえで、

香港が本当に候補地として適切なのか。

香港・中国本土・シンガポールなどをどう比較するのか。

どの進出方法が適しているのか。

次に何を調査し、何を決めるべきなのか。

を整理します。

海外進出・貿易を検討する中小企業経営者向け|初回120分海外事業カンファレンス

現在、会社・事業を経営しており、原則として年商1億円以上、国内事業が一定程度確立したうえで、海外を次の成長市場として検討しているオーナー経営者を対象に、

海外進出の目的。

商品・サービス。

ターゲット顧客。

候補国・候補都市。

市場調査。

輸出・貿易。

現地企業との業務提携。

海外販路。

現地法人。

初期投資・運転資金。

人材・組織。

税務・法務・事業リスク。

投資回収。

までを、経営全体から整理します。

単発で海外の一般情報や会社設立手続だけをお伝えする相談ではなく、

「本当に今、海外へ進むべきなのか。」

「香港は、本当に御社の海外事業に適した拠点なのか。」

という段階から検討する初回カンファレンスです。

https://direct.mbp-japan.com/menu/detail/1587

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松本尚典(経営コンサルタント)

URVグローバルグループ 

年商3,000万円から4億円程度のオーナー社長を対象に、次の成長ステージへの経営を伴走支援。現役オーナーCEOとして、経営者の意思決定を継続的に支え、年商5億円の壁の突破を目指します。

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