年商1億円の壁を超えるには?中小企業が「売れる商品」をつくるProduct戦略
先のコラムでは、マーケティングミックス4P戦略のPrice(価格)について、その基本的な考え方を解説しました。
今回のコラムは、その発展編です。
価格を、
「原価に利益を載せて決める数字」
としてではなく、
顧客。
競合。
需要。
販売数量。
粗利益。
ブランド。
まで含めた経営戦略として考えていきます。
前回の記事をまだお読みになっていない方は、先にこちらをご覧ください。
年商1億円の壁を超える中小企業の経営者は、まず価格の基本を知ろう
https://mbp-japan.com/tokyo/yoshinori-matsumoto/column/5074080/
自社商品の需要は、価格変更にどれだけ反応するのか?
価格戦略を考えるとき、経営者が知っておきたい考え方の一つが、
「需要の価格弾力性」
です。
少し難しい言葉ですが、考え方そのものは難しくありません。
需要の価格弾力性とは、
「価格を変えたとき、販売数量がどのくらい変化するのか」
を表す考え方です。
例えば、価格を10%上げた結果、販売数量が3%しか減らなかったとします。
価格変化に対して販売数量の変化が比較的小さいため、需要は「価格に対して非弾力的」と考えます。
反対に、10%値上げしたことで販売数量が20%減ったのであれば、需要は価格変化に敏感です。
このような状態を、「価格に対して弾力的」と考えます。
経営者にとって重要なのは、経済学の用語を覚えることではありません。
「自社の商品は、価格を変えたとき、顧客がどの程度離れる商品なのか?」
を理解することです。
価格弾力性は、「商品ごと」だけでなく「顧客ごと」に違う
ここで注意したいことがあります。
一つの商品について、
「この商品は価格弾力性が高い」
「この商品は価格弾力性が低い」
と、一律に判断できるとは限りません。
同じ商品であっても、顧客によって価格への反応は違います。
例えば、ある業務システムを考えてみましょう。
そのシステムが、
「なくても仕事ができる便利ツール」
という会社にとっては、値上げすると、
「だったら契約をやめよう」
となりやすいでしょう。
一方、
「このシステムが止まると、会社の業務そのものが止まる」
という会社であれば、多少の値上げがあっても簡単には解約できません。
同じ商品でも、顧客にとっての重要性によって価格への反応が変わるわけです。
一般に、
代替商品が多い。
競合比較が容易。
商品差が小さい。
価格が顧客の支出の中で大きな割合を占める。
乗り換えが容易。
という商品は、価格に対して敏感になりやすくなります。
反対に、
代替商品が少ない。
明確な差別化がある。
ブランドへの信頼が強い。
顧客にとって重要性が高い。
乗り換えに時間・手間・リスクがかかる。
という商品では、価格だけで顧客が離れにくくなる場合があります。
つまり、
価格戦略は、商品だけを見るのではなく、「どの顧客が、どのような理由で買っているか」まで見なければ作れません。
短期と長期では、顧客の価格への反応が変わることがある
価格弾力性には、時間という要素もあります。
ある商品を突然値上げしたとします。
顧客は、直ちには代替商品を見つけられないかもしれません。
そのため、短期的には販売数量がそれほど減らない場合があります。
しかし時間が経過すると、
競合商品を探す。
別の商品を試す。
契約内容を見直す。
購入頻度を減らす。
商品そのものを使わなくなる。
といった行動が可能になります。
そのため、一般には長期の方が価格変更への対応手段が増え、価格に対する反応が大きくなる場合があります。
しかし、これは、
「だから値上げは短期間だけ行い、後で必ず値下げする」
という意味ではありません。
その間に、
商品価値を高める。
ブランド力を高める。
サービスを改善する。
競合との差別化を進める。
顧客との関係を深める。
ことができれば、値上げ後の価格を維持できる場合もあります。
大切なのは、値上げの「引き際」を考えることではなく、その価格を顧客が納得して払い続ける価値を作ることです。
需要が非弾力的なら、値上げで売上は増えやすい。しかし、それだけでは判断できない
ここから、価格弾力性を経営へ応用してみましょう。
売上高は、
売上高
=販売価格×販売数量
です。
例えば、
価格10000円。
販売数量100個。
であれば、
売上高は100万円です。
ここで10%値上げして、11000円にしたとします。
その結果、販売数量が5%減少して95個になった場合、
11000円×95個
=104万5000円
となります。
販売数量は減っていますが、売上高は増えています。
これが、価格に対して比較的非弾力的な需要で値上げした場合に起こり得ることです。
しかし、経営者がここで、
「売上が増えたから値上げ成功だ」
と考えてはいけません。
見るべき数字は、売上だけではないからです。
価格戦略で最も重要なのは、「売上」ではなく「粗利益」
例えば、先ほどの商品について、
販売価格 10000円。
一個当たり変動費 6000円。
だったとします。
一個売れると、
4000円
の粗利益・限界利益に相当する余力が生まれます。
100個販売すれば、
40万円です。
ここで10%値上げして、
11000円
にすると、一個当たりの余力は、
5000円
になります。
販売数量が95個になっても、
5000円×95個
=47万5000円
です。
このケースなら、売上だけでなく、利益面でも改善しています。
反対に、価格変更によって販売数量が大幅に減れば、値上げしても利益が減る可能性があります。
だからこそ、
価格戦略で経営者が見るべきなのは、
「値上げで売上がどうなるか」
だけではなく、
「値上げによって販売数量と粗利益がどう変化するか」
です。
値下げは、思っている以上に販売数量を増やさなければ利益を維持できない
これは、値下げを考えるとさらに重要になります。
先ほどと同じ、
販売価格 10000円。
変動費 6000円。
一個当たりの余力 4000円。
の商品を考えます。
ここで10%値下げして、
9000円
にしたとします。
一個当たりの余力は、
3000円
に下がります。
値下げ前に100個販売していた場合、
4000円×100個=40万円
でした。
値下げ後も同じ40万円を確保するには、
40万円÷3000円
=約134個
売る必要があります。
つまり、
10%しか値下げしていないのに、利益水準を維持するには販売数量を約34%増やす必要がある
ということです。
この数字を確認せず、
「値下げすれば、もっと売れるはずだ」
と判断するのは危険です。
値下げによって販売数量が20%増えても、利益は以前より減ってしまう可能性があります。
需要が弾力的だからといって、すぐ値下げをする必要はない
元々の商品需要が価格に敏感だと分かった場合、
「それなら値下げすればよい」
と考えたくなるかもしれません。
しかし、それだけが価格戦略ではありません。
むしろ経営者は、
「なぜ顧客は、これほど価格に敏感なのか?」
を考えるべきです。
競合との差がないのか。
商品価値が伝わっていないのか。
ブランドが弱いのか。
似た商品が大量にあるのか。
顧客との関係が弱いのか。
価格だけで比較される販売方法になっているのか。
という原因があります。
例えば、
同じような商品。
同じような品質。
同じような販売方法。
であれば、顧客は価格で比較します。
しかし、
特定業界専用。
独自技術。
充実したサポート。
導入実績。
高い専門性。
顧客ごとのカスタマイズ。
ブランドへの信頼。
などを作ることができれば、
「多少高くても、この会社から買う」
という顧客を増やせる可能性があります。
価格競争から抜け出す最も重要な方法は、
価格を操作することではなく、
価格以外の選択理由を増やすことです。
Price戦略は、Product戦略と切り離せない
前回のProduct戦略で、
「誰のための商品なのか」
を絞り込むことが重要だと説明しました。
実は、このProduct戦略は、Price戦略にも直結しています。
例えば、
すべての会社向けの一般的な業務システム
と、
特定業界の特殊な課題だけを解決する業務システム
では、価格の考え方が変わります。
後者の商品によって、
年間500万円の人件費を削減できる。
重大な事故を防げる。
営業担当者一人分の生産性を上げられる。
のであれば、
システム原価が50万円だから70万円で売る、
という価格設定ではなく、
顧客が得る価値を考えた価格設定が可能になります。
つまり、
強いPrice戦略を作りたければ、先にProductを強くする必要があります。
価格は、商品の価値と切り離して考えることができません。
中小企業は、値下げ競争より「価格決定力」を高める
年商1億円前後からさらに会社を成長させようとすると、人材への投資が必要になります。
マーケティング投資。
システム投資。
設備投資。
教育投資。
も必要です。
ところが、
売上を伸ばすために値下げする。
↓
粗利益率が下がる。
↓
投資するおカネがなくなる。
↓
人材や商品に投資できない。
↓
差別化できなくなる。
↓
さらに価格競争になる。
という悪循環に入る会社があります。
これは非常に危険です。
僕が年商1億円、その先を目指す中小企業に重視していただきたいのは、
「安く売れる会社」ではなく、「適正な利益が取れる価格を顧客に納得してもらえる会社」を作ること
です。
そのために必要なのが、
商品力。
専門性。
ブランド。
顧客との関係。
営業力。
サービス品質。
利便性。
といった、価格以外の競争力です。
同じ商品でも、顧客によって支払える価格は違う
価格戦略では、
「商品一つにつき、価格は一つ」
と考えすぎないことも重要です。
顧客によって、
必要な機能。
利用量。
サポート。
緊急性。
予算。
得られる価値。
が違うからです。
そこで、
標準プラン。
上位プラン。
簡易プラン。
月額プラン。
年間契約。
オプション。
などを用意する方法があります。
例えば、
「100万円では高すぎる」
という顧客と、
「100万円でも構わないので、個別対応してほしい」
という顧客がいる場合、
一つの価格ですべての顧客を取ろうとすると、どちらかの需要を失います。
そこでProductとPriceを組み合わせ、
誰に。
何を。
どこまで提供し。
いくら支払ってもらうのか。
を複数設計します。
これによって、
顧客を単純な値下げだけで獲得するのではなく、
顧客のニーズに応じた価格帯を作ることができます。
価格弾力性は、教科書ではなく「自社データ」で確認する
では、自社商品の需要がどれくらい価格に敏感なのか、どう把握すればよいのでしょうか。
中小企業の場合、精密な経済モデルを作らなくても、実務的な方法があります。
過去に値上げしたとき、販売数量はどう変化したか。
キャンペーンで値下げしたとき、何件増えたか。
競合が値上げしたとき、自社へ顧客が移ったか。
商品別に値引率と成約率を比較する。
地域によって価格反応が違うか。
顧客層によって価格反応が違うか。
失注理由のうち、「価格」が何%を占めているか。
などを確認します。
また、可能であれば、小さな範囲で価格変更をテストする方法もあります。
重要なのは、
社長の「この値段なら売れるだろう」という感覚だけで価格を決めないことです。
価格変更。
販売数量。
転換率。
客単価。
粗利益。
解約率。
リピート率。
を記録し、価格変更によって顧客行動がどう変わったのかを確認します。
価格改定では、「既存顧客」と「新規顧客」を分けて考える
価格を変更する場合には、既存顧客への影響も重要です。
新規顧客なら、
「この商品は10000円です」
という価格から関係が始まります。
しかし既存顧客は、
「これまで8000円だった商品が10000円になった」
と認識します。
同じ10000円でも、心理的な受け止め方が違うわけです。
そのため、
値上げの理由。
提供価値の変化。
サービス改善。
原材料や人件費の変化。
契約更新のタイミング。
既存顧客への移行措置。
などを考える必要があります。
特に継続契約型のビジネスでは、
新しい価格で獲得できる利益
だけでなく、
値上げによる既存顧客の解約
も確認する必要があります。
値上げ・値下げの前に、経営者が確認する7つの数字
ここまでを実務的に整理しましょう。
価格を変更するときには、最低限、次の数字を確認します。
1.現在の販売価格
2.一個・一契約当たりの変動費
3.現在の粗利益・限界利益
4.販売数量
5.価格変更によって予想される販売数量の変化
6.転換率・解約率・リピート率
7.価格変更後の売上ではなく、粗利益総額
例えば値下げする場合、
「何%販売数量を増やせば、現在と同じ利益を維持できるのか」
を必ず計算します。
値上げする場合も、
「何%まで販売数量が減っても、利益を維持できるのか」
を計算します。
ここまで数字を出して初めて、値上げ・値下げが経営戦略になります。
年商1億円を超えるPrice戦略 経営者が考える7つの問い
さらに、数字だけでなく経営戦略として整理すると、次の7つの問いになります。
1.顧客は、自社商品を何と比較しているか?
2.代替商品はどの程度存在するか?
3.顧客にとって、自社商品はどのくらい重要か?
4.値上げした場合、何%の顧客が離れる可能性があるか?
5.値下げした場合、利益を維持するためには何%販売数量を増やす必要があるか?
6.価格以外に、自社を選ぶ理由は何か?
7.その価格で、人材・商品・マーケティングへ再投資できる利益が残るか?
最後の7番目は、特に重要です。
価格は、
「売れる最大価格」
だけを考えるものでも、
「競合より安い価格」
を考えるものでもありません。
会社が顧客へ価値を提供し続け、人材・商品・組織へ再投資しながら成長できる利益を残す価格を設計することが、経営者のPrice戦略です。
年商1億円から先では、価格を「経営者の意思決定」に戻す
価格というのは、一度決めたら終わりではありません。
市場が変わる。
競合が変わる。
原価が変わる。
顧客が変わる。
商品価値が変わる。
ブランドが変わる。
会社の成長段階も変わります。
そのたびに、適正価格も変化します。
年商1億円を超えてさらに会社を成長させる経営では、
営業担当者がその場で値引きする。
競合が安いから価格を下げる。
原価が上がったから一律に値上げする。
という場当たり的な価格設定から離れる必要があります。
Product。
Price。
Place。
Promotion。
そして、
集客数。
転換率。
客単価。
粗利益。
を連動させて考えます。
価格は、商品の横に表示する「数字」ではありません。
顧客価値、競争戦略、利益、ブランド、成長投資をつなぐ重要な経営戦略です。
価格競争から抜け出し、利益を生み出すPrice戦略へ
「値上げしたいが、顧客が離れるのが怖い」
「競合より高い価格をつけられない」
「売上は増えているのに、利益が残らない」
「値引きをしなければ受注できない」
「社員が簡単に値引きをしてしまう」
このような問題は、Priceだけの問題とは限りません。
商品価値。
競合との差別化。
ブランド。
営業方法。
顧客層。
原価構造。
マーケティング。
まで含めて見直す必要があります。
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