コロナ禍で増加する富裕層を魅了する商品で躍進する 株式会社フリーバス企画
前回のコラムでは、お店やサイトに来店した「潜在的な顧客」に対する、「実際の購買」をする顧客の割合、つまり転換率について説明しました。
今回から、この転換率の向上を行うための具体的なマーケティングの施策を、マーケティングミックス 4P戦略の、それぞれの要素ごとに考えていくことにしましょう。
今回は、4Pの最初に出てくるP、すなわち、Product(商品)戦略についてお話を進めていきます。
転換率向上策 その1 Product(商品)戦略 商品の定義
ここでいう商品は、品物としての商品という狭い意味ではありません。経済学でいう商品、すなわち、無形のサービスを含めた「商品・サービス」のことを示します。
企業が販売をする対象は、決して、モノだけではありません。
例えば、専門職の方々は、専門的な情報という無形の商品を販売して、売上をあげています。私は経営コンサルタントですから、企業の経営者の方々と、定期的にカンファレンスを実施し、その企業の経営者の方々が、その時々にぶつかる経営課題を聞き取り、その課題を解決するための経営に関する様々な領域(例えば、経営戦略論・組織論・情報処理論・財務会計・税務・企業法務・労務など、非常に広い範囲の領域です)の情報を組み合わせて提供したり、経営上の選択肢の呈示を行ったり、その選択肢のなかから意思決定を行う際に、同じ経営者としての私だったら、どう判断するかと言った見解を披露したり致します。それに対して、弊社ではコンサルティング費用を月額制で頂戴しているわけです。従って、私のビジネスの場合の商品は、モノではなく、情報や判断材料・考え方などのナレッジです。
このような無形のものを含め、ここでは、商品と定義しましょう。
転換率をあげる商品を考える前提として、商品品質を考える
さて、年商が1億円に達していない企業が、このような有形・無形の商品の販売の転換率を向上させるため、どのように、商品戦略を考えたらよいかをみていきましょう。
皆さんは、そうすると、こう思うかもしれません。
「商品の販売の転換率をあげるんだったら、商品の品質を向上させればいいいじゃない。」
と、ね。
では、そんな風に考えている皆さんに、質問です。
「あなたの言われる、商品の品質ってなんですか?」
ここで大切なことを申しあげます。
その商品の品質とは、何か「普遍的な高品質」のようなものがあるわけではない、ということです。特に注意をしなければいけないのは、技術系の方々の「高品質」という言葉と、転換率をあげるための高品質は、ちがうんですよ、ということです。
転換率をあげる高品質を考える、具体例1
日本の白物家電商品は、まさに世界で最高の品質があると、(日本人は)思っています。
そう、ここでいる最高の品質というのは、上でいう技術系の方々の「高品質」、の意味です。
さて、私は仕事で、よく中東の経済大国 サウジアラビアに行きます。サウジアラビアでは、その豊富な原油のお陰で、国民は税金がほとんどなく、教育も医療も無料で受けられます。非常に豊かな国民が多くいます。そして、なによりも暑いです。
従って、サウジアラビアの人たちは、「高品質なクーラー」を購買する市場環境にあり、かつ、購買に十分な経済力が消費者にある市場です。
では、さだめし日本の家電メーカーのクーラーが売れているかというと、それが違います。日本の家電メーカーは、確実に、サウジアラビアでは、中国企業や韓国の財閥系企業に押されて苦戦しています。
何故だと思いますか?
日本のクーラーは、非常に「高性能」で、直接、冷たい風がヒトの身体にあたらないように設計され、部屋の中を全体として冷却するように設計されています。サウジアラビアの人たちに聞いてみると、この設計は人気がありません。
サウジラビアは、砂漠の気候のため、夜は氷点下に下がり、昼は摂氏50度を超える温度にあがります。そのため、温度差が大きく、部屋のなかを全体として冷やしていたのでは、急速な温度の上昇においつかないのです。サウジアラビアで人気のあるクーラーは、冷房機から、冷気が激しくヒトの体を直撃する機種です。このような機種は、世界を市場ととらえて商品開発をしている日本のメーカーは非常に不得意で、中国製や韓国製のクーラーは、このような砂漠の国のニーズだけをとらえて設計販売されているため、よく売れているのです。日本のメーカーが高い技術力で開発した「高性能」のクーラーが、サウジアラビアでは売れないのです。
サウジアラビアの人たちが求めるクーラーという商品は、技術的に高い商品でなくてもよい、むしろ、技術的に低くても、自分たちのニーズに合致している商品を、より求めているのです。価格が安いから、ではありません。低い技術の商品のほうが、転換率が高い商品になっているということなのです。
転換率をあげる高品質を考える、具体例2
次の事例は、手前味噌で恐縮ですが、私の商品の事例です。
私は、この原稿を書いている2020年12月現在、経営支援をさせていただいている経営者のお客様の企業を、合計12社、抱えています。私の場合、自分自身が投資する会社や、自分が代表取締役を務める会社の経営が本業ですので、いわば、経営コンサルタントとしての仕事は、自分個人のライフワークという位置づけですので、毎日のすべての仕事を経営コンサルティングの時間に割くことができません。それでも、この全社の経営者のお客様と、必ず、一か月に2回ずつ、かなり纏まった時間を集中するカンファレンスを開催しています。
さて、この私の経営コンサルティングの場合、例えば、提出する資料やレポートの内容などは、1社として同じものがないのです。全部、別の内容でカンファレンスを進めています。
各経営者の遂行されている事業の内容はすべて異なり、規模も、資金も、ヒトの量もすべて異なります。従って、私の商品の場合、A社に提供した商品を、B社に提供しても、それは価値が全くありません。従って、私は、自分のお客様の規模や業種、その課題に応じて、自分のアタマの中にあるナレッジを、まったく別々に提供するということをしています。
つまり、商品は、すべてお客様ごとにオンリーワンです。
少なくとも、経営コンサルタントでお金をいただく以上、これができる経験と知識量がなければ、プロとして失格だと、私は思っています。
私の商品の場合、その提供される商品は、すべて、経営コンサルタントとしての技術的には、「高品質」だと自負しています。しかし、高品質であればよいのではありません。技術的に高品質な商品の中から、当該その、お客様だけのニーズにあったものを選び出し、それを厳選して提供してはじめて、転換率が高くなるのです。
だから、私は、お客様の企業経営者の方から、経営コンサルティング契約を解約されることが、ほとんどありません。そのため、お客様が、ゆっくりでも安定的に増え続けています。
転換率の高い商品戦略の基本は、顧客ニーズへの合致
上記の2つの例から、転換率上昇のための商品戦略における「高性能」の意味がわかってきたと思います。
技術者が、高い技術を投下して開発をした商品が、転換率を上昇させるとは限りません。購買する顧客が、これは自分にとって使える、役立つ、いいね、といえる商品そこが、転換率を上昇させる商品なのです。
売上高1億円に達していない企業がとるべき、商品戦略
もし仮に、技術者視線から見た高性能の商品を生み出さなければならないなら、このコラムの読者として想定している、売上高1億円に達していない企業が、資金力や優秀な人材を豊富に持つ大企業に商品戦略で勝つことは、非常に困難になります。
しかし、対象とする顧客が自分にとって使える、役立つ、いいね、といえる商品の開発であれば、資金力や商品開発力が小さい企業でも、大企業に勝つ、勝ち目が十分でてきます。
では、そのようにして勝つ商品戦略をとるには、どのような発想に立つべきなのでしょうか?
それが、商品のペルソナをしっかり確立し、そのペルソナに徹底的に限定した商品の在り方を考えて、商品を生み出す、という発想に立つ方法なのです。
ペルソナとは、「仮面」を意味する言葉です。
マーケティングの世界では、商品が購買の対象とする購買者の具体的な像、のことを言います。
キングジムの事例
事務機器メーカーで、独自の商品開力で他社の追随を許さない、キングジムの開発の事例をご紹介します。
キングジムでは、商品開発者が提案した商品を製品化するかどうかを判断する際、審査にあたる10名の取締役のうち、1名でも「これはとてもいい」という評価をした場合、その他の9名が製品化に反対をしても製品化に踏み切るというシステムを採用しています。
一方、5名以上が「これはいい」と評価した製品は、製品化をしないのです。
これはいったい、どういうことなのでしょうか?
ヒット商品というものは、ある特定の絞られた対象(つまり、絞られたペルソナ)が、これは自分なら絶対買う、という強いニーズを満たす商品から生まれます。
つまり、10名の取締役のうちの1名、つまり10%の人が「他の人が何といっても、これは自分的に欲しい」という商品が、ヒット商品のポテンシャルがある商品なのです。
5段階評価のアンケートをとり、半分以上の人が、3をつける商品を中小企業が売り出すと、これは大企業に勝てないのです。このような商品は、すぐに大企業が類似商品を発売してしまい、製造力・開発力・広告力・価格競争力の優れた企業が、勝つ商品になります。
中小企業が勝てる商品は、アンケート調査を行った場合、90%の人が1をつけるのに、10%の人が5をつける商品なのです。大企業は、このような商品では規模の経済が働かないため、生産に踏み切りません。そして、中小企業のビジネスの場合、市場の10%が絶対的に支持する商品であれば、大ヒットとなるのです。
中小企業が勝つ商品戦略。それは、徹底的に絞り込んだペルソナを想定し、その絞り込んだ人がすごくいいね、と言ってくれ、絶対に購入してくれるファンになってくれる商品に絞って、販売に踏み切る戦略なのです。
これが、年商1億円の壁を超える中小企業が、大企業に勝つことができる、商品戦略の極意なのです。
次回は、4P戦略の次の項目、Price(価格)戦略について書いていきます。
お楽しみに。
続く
[囲み装飾]松本尚典の中小企業経営者支援コンサルティングサービス
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