中小企業経営者の資本配分戦略 事業投資と資産運用をどう使い分けるべきか

松本尚典

松本尚典

テーマ:売上5億 社長 年収


1、経営とは、資本を事業に投資し、利益を再投資して、企業価値を高め続ける活動である


企業の経営とは、何でしょうか?
この問いに、あなたは、どのようにお答えになるでしょうか?

僕は、企業の経営とは、事業を構想・計画し、必要な資本を集め、その資本をヒト・モノ・情報・技術・ブランドなどの経営資源に投資し、売上と利益を生み出し、その利益を再び事業へ投資することによって、企業価値を高め続ける活動であると考えています。

会社を経営していると、売上が増えているだけで、事業が成長しているように感じることがあります。

しかし、本当に重要なのは、売上高そのものではありません。

売上から適正な利益を確保し、その利益を、次の成長を生み出す経営資源へ配分できているかどうかです。

企業は、人件費や役員報酬、賃料、システム利用料、外部委託費など、さまざまな固定費を抱えています。組織が拡大すれば、固定費だけでなく、管理や教育、情報共有、品質維持に必要なコストも増えていきます。

したがって、企業を継続的に維持するためには、単年度で利益を出すだけでなく、将来にわたって利益を生み出せる事業構造をつくる必要があります。

加えて、企業が販売する商品やサービスには、商品ライフサイクルがあります。

どれほど優れた商品やサービスであっても、競合企業の参入、顧客ニーズの変化、技術革新、価格競争などによって、いつかは成長が鈍化します。

今、利益を生んでいる事業が、5年後も同じように利益を生み続ける保証はありません。

だからこそ、企業は、現在の事業から生み出した利益を、商品・サービスの改善、営業力の強化、広告宣伝、人材採用、社員教育、DX、新規事業、海外展開、M&Aなどへ再投資しなければなりません。

企業が投資を止めれば、帳簿上は黒字であっても、営業力、技術力、採用力、ブランド力は少しずつ低下していきます。

言い換えれば、利益は、経営者が自由に使える余剰金ではなく、企業の未来をつくるための原資です。

中小企業のオーナー経営者にとって重要なのは、「いくら利益を出したか」だけではありません。

その利益を、

・どの事業へ配分するのか
・どの人材へ投資するのか
・どの市場へ進出するのか
・どの設備やシステムへ投資するのか
・どの程度を内部留保として残すのか

という資本配分の判断です。

経営者の最も重要な仕事の一つは、限られた経営資源を、最も高い成果を生み出す場所へ配分することにあります。

経営資源に対する事業投資こそ、企業経営の本質的な活動なのです。

2、成長する経営者は、事業投資と資産運用を明確に区別する


事業投資は、事業計画に基づいて行うべきものです。

広告宣伝や採用活動、社員教育など、比較的小口の投資は、日常的な事業活動の中で行われます。

一方で、工場や設備への投資、新規店舗の出店、新規事業への参入、海外進出、M&Aなどには、数年間にわたる準備と、多額の資金が必要になる場合があります。

そのため、経営者は、事業活動によって得た利益のすべてを、直ちに投資するわけにはいきません。

将来の投資に備え、利益を企業内部に留保し、現預金として蓄える必要があります。

ただし、企業が保有する現預金には、それぞれ異なる役割があります。

例えば、

・日常の支払いに必要な運転資金
・売上減少や災害などに備える危機対応資金
・納税や賞与など、近い将来に支出する予定資金
・設備投資や新規出店に備える将来投資資金
・当面、使用目的が決まっていない長期余剰資金

です。

これらをすべて同じ「余っている現金」と考えてはいけません。

運転資金や危機対応資金には、収益性よりも、安全性と流動性が求められます。

一方、数年間使用する予定のない長期余剰資金については、物価上昇による購買力の低下も考慮する必要があります。

日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率2%を「物価安定の目標」としています。

仮に、物価が毎年2%ずつ上昇すれば、現預金の額面は変わらなくても、そのお金で購入できる商品やサービスの量は、少しずつ減少します。

したがって、企業が資金を管理する際には、単に「預金残高を増やす」という発想だけでなく、資金の使用時期、安全性、流動性、期待収益、価格変動リスクを総合的に考える必要があります。

ここに、企業が資産運用を検討する理由があります。

ただし、企業の資産運用は、事業投資に代わる収益事業ではありません。

企業における投資の基本は、あくまでも本業を成長させる事業投資です。資産運用は、利益が発生してから事業投資を実行するまでの時間差において、資金の安全性と流動性を確保しながら、その価値を可能な範囲で維持する補完的な資金管理策と位置付けるべきです。

成長する経営者は、「事業へ投資する資金」と、「当面使用しない資金」を明確に区別します。

そして、事業の成長機会を逃すほど、資金を金融商品に固定してしまうことも避けます。

経営者にとって最も避けるべき事態は、金融商品の評価益を得る一方で、本業への投資機会を逃し、会社の競争力を低下させることです。

3、企業の資産運用は、ポートフォリオより先に資金の目的を決める


資産運用で重要なことは、それを、経営者の趣味や投機にしないということです。

企業の資金は、経営者個人の資金ではありません。

社員への給与、取引先への支払い、納税、設備投資、新規事業など、会社の将来を支えるための資金です。

したがって、企業が資産運用を行う場合には、「どの商品が上がりそうか」を考える前に、次の点を明確にしなければなりません。

・その資金は、いつ使用する予定なのか
・どの程度の価格変動まで許容できるのか
・必要なときに、すぐ現金化できるのか
・元本が減少した場合、本業にどのような影響が出るのか
・誰が投資判断を行い、誰が管理・監督するのか

この資金管理の原則を決めずに、金融商品の購入から始めると、資産運用が経営判断ではなく、経営者個人の相場観に依存する行為になってしまいます。

暗号資産のように価格変動が大きく、価値評価が難しい資産へ企業資金を投入する場合には、特に慎重な判断が必要です。

暗号資産そのものを一律に否定する必要はありませんが、価格変動リスク、流動性リスク、システムリスク、規制変更リスク、情報の非対称性などを十分に理解しなければなりません。

短期間の値上がり益を期待し、会社の運転資金や将来の設備投資資金を投入する行為は、企業の資金管理として適切とはいえません。

資産運用のポートフォリオの基本


資産運用には、複数の資産へ資金を分散するという考え方があります。

一般的には、国内株式、国内債券、海外株式、海外債券など、値動きの特徴が異なる複数の資産に分散することで、一つの資産の価格下落が資産全体へ与える影響を抑えることを目指します。

ただし、企業の資金管理において、最初から資金を4つの資産へ均等に分ければよい、というわけではありません。

企業ごとに、事業の収益構造、借入金の返済条件、設備投資の予定、為替リスク、資金需要、経営者のリスク許容度が異なるからです。

例えば、海外から商品を仕入れている企業と、国内だけで事業を行っている企業とでは、為替変動が経営に与える影響が異なります。

また、数か月後に新店舗の出店を予定している企業と、数年間、大型投資の予定がない企業とでは、許容できる運用期間も異なります。

したがって、企業の資産運用では、金融商品を選ぶ前に、

・事業継続に必要な現預金
・今後3年程度の投資計画
・借入金の返済計画
・為替や金利の変動が本業に与える影響
・株主や金融機関への説明責任

を整理する必要があります。

その上で、資金の一部について、預金、債券、株式、投資信託、外貨建て資産などを、目的とリスクに応じて検討するのが本来の順序です。

なぜ、分散投資は、資産価値の変動を抑えることができるのか?


資産をすべて現預金で保有している場合、額面上の金額は維持されやすい一方で、物価上昇によって、実質的な購買力が低下する可能性があります。

例えば、物価が毎年2%ずつ上昇した場合、現在100万円で購入できる商品やサービスを、1年後には約102万円支払わなければ購入できない計算になります。

5年間、同じ状態が続けば、現在100万円の商品やサービスは、単純計算で約110万円になります。

つまり、預金残高が100万円のままであれば、額面は減少していなくても、購入できるものは減っていることになります。

もっとも、だからといって、現預金をすべて株式や債券に変えればよいわけではありません。

株式には価格変動リスクがあり、債券にも金利変動や発行体の信用状況によって価格が変動するリスクがあります。

一般に、市場金利が上昇すると、既に発行されている固定金利債券の価格は下落しやすくなります。反対に、市場金利が低下すると、既発債券の価格は上昇しやすくなります。

株式と債券も、常に反対方向へ動くわけではありません。

経済情勢やインフレ、金融政策によっては、株式と債券が同時に下落する局面もあります。

分散投資は、損失を完全に防ぐ方法ではなく、値動きの異なる資産を組み合わせることで、特定のリスクへの集中を抑える方法です。

為替についても同様です。

円安が進むと、海外から原材料や商品を輸入する企業では、仕入価格が上昇する可能性があります。一方、海外で売上を得ている企業では、外貨建て売上を円換算した金額が増える場合があります。

そのため、海外資産を持つことが、すべての企業にとって自動的に為替リスクの回避になるわけではありません。

重要なのは、自社の事業が、円高と円安のどちらによって影響を受けるのかを把握し、事業上の為替リスクと、保有資産の通貨構成を合わせて考えることです。

企業の資産配分は、国内株式・国内債券・海外株式・海外債券という分類だけで決めるのではなく、自社の事業計画と資金需要を起点に設計しなければなりません。

4、事業家にとって、資産運用は、ゲームではなく、事業投資までの資金価値を守る経営管理である


1980年代後半のバブル期には、多くの企業が、株価や不動産価格の上昇を背景に、本業とは直接関係のない財テクへ資金を投入しました。

その後、株価や不動産価格が下落すると、多額の評価損や売却損を抱え、その損失を本業の利益で補う企業も現れました。

本来、事業を成長させるために生み出した利益が、金融商品や不動産への過度な投資によって失われたのです。

近年では、暗号資産や高い利回りをうたう投資商品へ、事業資金を投入する経営者もみられます。

しかし、値動きの大きい資産への集中投資によって、一時的に大きな利益を得たとしても、それを再現し続けられるとは限りません。

むしろ、価格下落によって運転資金や投資資金が不足すれば、採用、広告、設備投資、新規事業など、本来行うべき経営判断ができなくなります。

事業の構想力、企画力、実行力を持つ経営者にとって、最も高いリターンを生み出せる可能性がある投資先は、多くの場合、自らが理解し、管理し、改善できる本業です。

例えば、

・優秀な人材を採用する
・社員の生産性を高める
・営業体制を強化する
・高収益の商品を開発する
・新しい販売チャネルを開拓する
・海外市場へ進出する
・M&Aによって時間を買う

といった投資は、経営者自身の意思と行動によって、投資成果を高めることができます。

金融市場の価格は、経営者一人の力では動かせません。

しかし、自社の商品、営業、人材、顧客満足度、ブランド、業務効率は、経営者の判断によって変えることができます。

この違いは、極めて重要です。

したがって、事業家は、資産運用を本業に代わる利益獲得手段として考えるのではなく、利益が生み出した現預金を、将来の事業投資へ振り向けるまでの間、安全に管理する手段として位置付けるべきです。

事業家にとって重要なのは、金融商品の利回りを追いかけることではなく、会社全体の資本を、どこへ、いつ、どれだけ配分すれば、企業価値が最も高まるかを判断することです。

その判断には、事業計画、資金繰り、投資回収期間、借入余力、財務安全性、経営者個人の資産形成、将来の事業承継やM&Aまでを含めた、総合的な経営戦略が必要です。

「現預金をどこまで保有するべきか」

「新規事業へ、いくら投資してよいのか」

「借入金を返済するべきか、成長投資へ回すべきか」

「内部留保を積み上げるだけでよいのか」

「将来のM&Aや事業承継に向けて、どのような財務体質をつくるべきか」

こうした問題に、すべての会社に共通する一つの正解はありません。

売上規模、利益率、事業の成長性、資金繰り、経営者の年齢、後継者の有無、将来のエグジット方針によって、最適な資本配分は異なります。

僕の無料相談では、金融商品の勧誘や推奨を行うのではなく、経営コンサルタントの立場から、現在の事業構造、収益性、資金繰り、投資計画を整理し、会社の成長を妨げている経営課題を分析します。

自社の資本を、守りに偏らせるべきなのか、成長投資へ振り向けるべきなのか、判断に迷われている経営者の方は、無料相談をご利用ください。

さらに、事業計画、資金計画、組織づくり、新規事業、M&Aなどを含め、継続的に企業価値を高める体制を構築したい経営者の方には、中小企業経営者支援コンサルティングサービスをご用意しています。

あなたの会社が年商5億円を突破するためのポイントを1時間で分析する! 松本尚典の、経営者個別指導
https://mbp-japan.com/tokyo/yoshinori-matsumoto/seminar/5009325/


松本尚典の中小企業経営者支援コンサルティングサービス
https://mbp-japan.com/tokyo/yoshinori-matsumoto/service1/5002501/

\プロのサービスをここから予約・申込みできます/

松本尚典プロのサービスメニューを見る

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

松本尚典
専門家

松本尚典(経営コンサルタント)

URVグローバルグループ 

経営者の弱みを補強して売上を伸ばし、強みをさらに伸ばして新規事業を立ち上げるなど、相談者一人一人の個性を大切にしたコンサルティングで中小企業を成長させる。副業から始めて、独立で成功したい人も相談可能。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

年商5億円の壁を突破したい社長のための経営コンサルタント

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京のビジネス
  4. 東京の経営コンサルティング
  5. 松本尚典
  6. コラム一覧
  7. 中小企業経営者の資本配分戦略 事業投資と資産運用をどう使い分けるべきか

松本尚典プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼