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登記簿に婚姻前の氏を記録できる制度

2018年5月30日 公開 / 2021年2月9日更新

テーマ:会社の登記

コラムカテゴリ:法律関連

改正経緯

 平成27年(2015年)2月27日より、商業登記簿の役員欄に氏名が記載されている者について、その氏名とともに婚姻前の氏をも記録することを可能とする改正が行われています。

 商業登記簿の役員欄には、戸籍上の氏名が記録されますが、婚姻により氏が変わった後も婚姻前の氏で社会活動を継続するという会社の役員については、会社の登記簿謄本において、同一人物であるかどうかの判別が困難となり、その役員の社会活動に支障が生じると従来から指摘されてきました。
 そこで、公示をもって取引の安全を図るという商業登記の制度趣旨に沿うために、本改正に至り、次の画像(出典:法務省)の要領で婚姻前の氏を併記することが可能となりました。





申出の方法

 婚姻前の氏をも記録するよう申し出ることができるのは、次の登記の申請をする場合に限られます。
  ○設立の登記の申請
  ○役員(取締役、監査役、執行役、会計参与又は会計監査人)の就任(再任を含む)による変更の登記
  ○清算人の登記の申請
  ○役員又は清算人の氏の変更の登記の申請

 したがって、一旦、婚姻後の氏で登記をしてしまった場合には、婚姻前の氏を記録したいと考えた場合にも、役員の任期が途中である場合には、任期満了による再任登記のタイミングまで記録ができないことになります。
 方法としては、一旦役員の地位を辞任して、再度就任登記をするタイミングで記録をするという方法も採れますが、株主総会の開催が簡単にできない会社にとっては現実的な方法ではありません。


本制度利用後の法務局の対応

 旧姓が併記された以降、登記申請の添付書類に関して、旧姓のみが表記されたもの(委任状、辞任届等)でも受理されるのかという疑問があります。

 そもそも併記を申し出る理由が、普段が旧姓で活動しているからであり、それが登記されているのであれば、書類が旧姓で作成されていても同一性は確認できると考えるのが自然なのですが、現時点で、法務局はとりわけ「司法書士への委任状」や「登記申請書」といった登記の申請人として作成する書類については、戸籍に記載されているとおりの表記(婚姻後の氏)の記載がなければ登記ができないとしておりますので、注意が必要です。
(参考文献:登記研究809号 P81~P82)

 基本的に役員が行う企業活動において、婚姻前の氏の併記を登記簿に行えば、旧姓の使用が制限されるケースは考えにくいですが、この制度は行政上のサービスという側面が強く、場合によっては取引先、行政官庁の意向(旧姓の使用を認めない)に沿わなければ契約等が進まないこともある可能性はありますので、登記しているからと言って必ずしも万能とは言えない制度とお考え下さい。


【司法書士 山 添 健 志】
山添健志
プロフィール

この記事を書いたプロ

佐井惠子

家族の問題(成年後見、相続、信託)の専門家

佐井惠子(佐井司法書士法人)

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