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高齢者の遺言 金融資産の書き方

2021年4月13日

テーマ:遺言の作成

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 遺言書 書き方相続 手続き相続問題

私たちは、生涯に、どれだけの預金口座を開いているものでしょうか。
日本統計センターの調べ(金融機関の利用に関する調査・平成23年)によると、平均一人当たり3.5口座を保有しているといいます。なかには5口座以上の口座を保有している人もいるとのこと。遺言書作成の経験からも、決して驚く数字ではありません。むしろ、今は使っていないけれど預金が残っている忘れ去られた口座を加えると、もっと多くあるのではないでしょうか。
 遺言を作成する場面で、必ず資産としてあがってくるのが預貯金債権です。預貯金債権というのは、簡単に言えば、預金者が銀行等に対して、預金の払戻しを請求することができる権利をいいます。この権利の帰属先を、遺言書に記載することになります。

そこで、預貯金債権を遺言にどう書くのか。私が注意しているポイント、
 1.金融機関の特定 
 2.「その他一切の」という一言 
 3.できるだけ「割合」を用いる 
の3つをお話します。

1.金融機関の特定は、スムーズな遺言の実現に繋がる


 「全ての財産を配偶者一人に相続させる。」という遺言や、
 「A,B,Cに各3分の1宛て相続させる。」とする遺言は、有効ではありますが、
遺言を書く上で、やはり金融機関の特定は大切です。
通帳を見ながら書いていきます。 
 ・ 銀行名
 ・ 支店名
 ・ 普通預金 定期預金の別
 ・ 口座番号
 ・ 口座名義人
時々、「預金残高を書きますか?」とお尋ねいただきますが、これは日々変わっていくものですから、書く必要はありませんとお答えしています。
遺言を書くときのポイントは、その遺言が、スムーズな遺言の実現に繋がるかどうか。
遺言者が亡くなったあと、遺言者名義の預金通帳の保管場所を探し回るというケースは珍しくありません。通帳がみつからなくても、どこで預金をしていたのか分かればいいのですが、それで全てかどうかも最後まで確証を持てません。遺言に記載しておくことで、直ぐに金融機関に対して、預金の解約、払戻の手続をスピーディーに求めることができます。

2.「その他一切の」というひと言が、相続を一回で決める


金融機関の特定をお勧めしましたが、それにプラスして
 ・ 「遺言者は、遺言者の所有するその他一切の預貯金・株式・債券・投資信託等(金融商品の名義を問わず)の全ての金融資産をAに相続させる」
 ・ 「遺言者は、遺言者の所有するその他一切の財産をAに相続させる」
としておくことが、後々効いてきます。
遺言を書いた後、新しい銀行口座を開くことがあるかもしれません。いちいち書き直すのも面倒です。遺言者自身も忘れてしまっていたのでしょうか、あるいは少額だから書かなくてもいいと思われたのか、後から、遺言に記載のない通帳が見つかったという相続人からの連絡に対して、「その他の一切の」という言葉があることにほっとすることがあります。遺言に記載がなければ、それを相続するためには、相続人全員による遺産分割協議が必要となります。遺言があっても、これではスムーズな相続になりません。同じ銀行の別支店に口座が見つかったり、投資信託や国債を保有していた場合にも、「その他一切の」というひと言が、相続を一回で決めてくれることになります。

3.「割合」を用いて、認知症リスクに備える


これから遺言を書こうと考えている方に、認知症リスクなどと申し上げるのはどうかと思いますが、成年後見人のお仕事を多数させていただいている経験から、できるだけ「割合」を用いて遺言を書いていただくようにしています。
平成29年度高齢者白書によると、2012年は認知症患者数が約460万人、65歳以上の高齢者人口の15%という割合だったものが、2025年には5人に1人、20%が認知症になるという推計があります。今日では、認知症も特別なことではありません。
その認知症となった方に、成年後見人が選任された場合には、成年後見人は預貯金を含む財産管理をします。私の場合、一行につき1,000万円を超える預金については、預金保険機構の保険の対象外となるために、別の銀行に預金を移すことを検討したり、日々の業務に不便な銀行については、メインの口座を事務所の近くにある銀行に開設したりしています。遺言があるということが分かっている場合には、金融資産を組み替えることはできません。その遺言が、預金口座毎に誰が相続するかを決めている場合、その口座を解約してしまったり、お金を別口座に移したりすることで、結果として、遺言者の意思が実現できなくなってしまうからです。
将来、成年後見人が財産を管理したとしても、遺言に影響がないように、
「全ての金融資産から、A,B,Cに各3分の1の割合で相続させる。」
「全ての金融資産から、Aは金1,000万円を相続し、残りをA,B,Cに各3分の1の割合で相続させる。」
といった「割合」を用いた定め方をしておけば、安心です。
後見人も、預貯金の組み替えをすることができますし、何より、ご本人(遺言者)のためにお金を使うことができます。

4.実現しやすい遺言を目指す


そうは言っても、時間的な余裕がない場面では「遺言者は、全ての財産をAに相続させる。」という遺言を勧めます。スムーズな遺言の執行を考えるより、遺言の完成を目指すべきだからです。遺言に、「これが正しい。」はありませんね。
それでも、遺言執行のしやすさは、遺言書作成にあたって留意する重要なポイントとなります。
遺言のご相談の際には、遺言の内容と共に、「この遺言で、遺言執行はしやすいですか?」そう、お尋ね下さい。

この記事を書いたプロ

佐井惠子

家族の問題(成年後見、相続、信託)の専門家

佐井惠子(佐井司法書士法人)

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