会社法の歴史 1 はじめは「商法」であった 「商法」はドイツ法に倣ったものだった。そして、戦後・
菊池:ところで,後藤!純粋持株会社(ホールディングス)を創るメリットは何だ?
後藤:のう、菊池!。かつて、わが国は、GHQによって、ホールディングスの設立が禁じられたが、その理由は、資本の集中が強い軍隊の保持につながるからだったよなあ。ということは、ホールディングスの解禁は、資本の集中を可能にすることになるだろう。だから、ホールディングスのメリットは、第一に資本の集中を可能にすることにあるわなあ。次には、効率的で、スピーディな経営を可能にすることだ。のう、菊池!会社が、自社の取締役なり幹部従業員を、自社内の特定の事業分野の長とした場合と、会社がその事業分野を子会社とした上で、もっと広い範囲から人材を求め、その人材を子会社の代表取締役にした場合を比べて考えてみろ。会社内の一事業分野として経営させる場合は、好業績を上げても、同僚取締役との比較や、年功序列型賃金制度の制約などのため十分に処遇することはできず、業績がふるわないからといって解雇はできないわなあ。しかし、その事業分野を子会社化した場合はどうか。好業績を挙げれば、業績連動型の報酬を与えることで処遇でき、業績不振なら解任でもできる(会社と取締役との契約は委任契約なので、子会社とその代表取締役の間でそのような契約を結ぶことが可能)。ここでは、労働基準法など一切適用されないからな。ここから分かるように、ホールディングスをつくるメリットは、広い分野の事業を、最適な人材でもって効率よく経営できる点だ。とくに、親会社が上場会社である場合や大会社、また、いずれ上場を考えている元気な会社の場合は、人材を、広い範囲で求めることができる点で、ホールディングスにするメリットは大きいと思うよ。
菊池:そういえば、現に聞いたことのある話だが、ある上場会社の優秀な社員を、ヘッドハンティングにより、別の上場会社が、そこの子会社の代表取締役に迎え、その者の手腕で、他の者を代表取締役にしたときには達成できなかったような好業績を挙げたことがあったようだ。のう、後藤!“大廈(たいか)の材は一丘(きゅう)の木にあらず”という言葉がある。これは、“大きな建物は一つの山の木だけでできているのではない”という意味だが、大きな会社は、広い範囲から人材を求めなければならないよなあ。迎えられる人材も、会社の一従業員としてよりは、子会社の経営を任せられた代表取締役として迎えられる方が、迎えられる目的が明確になり、業績連動型の報酬契約も結べるのだから、会社がホールディングスとなり、完全子会社をつくる意義は大きいと思うなあ。
菊池:では、後藤!ホールディングスをつくった場合のデメリットは、何だい?
後藤:傘下に多くの完全子会社ができ,所帯が大きくなると,役員や従業員をしっかり把握できるか?グループ間に十分な連携がとれるか?などが指摘されているよ。ところで、のう、菊池! お前は、取締役にはリスク管理システムを整備する義務があることは知っているよなあ。そのリスク管理システムは、ある判決がきっかけで、子会社の従業員がした不祥事についてまで、その範囲が広がっているんでな。子会社化することで、子会社の役員や従業員のすることに目が届きにくくなることはデメリットではあるが、それだからといって、親会社の取締役の責任が軽減されることはないんだ。このことは親会社の取締役は知っておかなければならないことだよ。(この問題は、別に「リスク管理システム」の問題として取りあげる)。