コラム
出資比率は絶対ではない(出光興産事件)
2017年8月3日 公開 / 2017年9月6日更新
「後藤よ!新聞に、出光興産の経営陣が、公募増資をしようとしたら、創業家株主からその差止めの仮処分申請がなされた。これに対し、裁判所はそれを却下したと、報道されている。何が問題になるのかのお。」
「経営陣は、出光興産と昭和シェル石油とを合併させたいのだが、合併をするには、株主総会で3分の2以上の賛成が必要だ。ところが、創業家は、33,92%の議決権を持っていて合併に反対している。そうなると現状の出資比率では、合併はできないことになる。3分の2以上の議決権を握っていると、合併等の重要事項につき、拒否権を持っているといえるのだ。そこで、経営陣は、取締役会決議でもって、新株の公募増資を決定した。創業家は、これが実行されると、創業家の持株比率が低下して29%程度になるため、単独では合併を阻止できなくなる。そのため、この取締役会決議を知って、創業家は、公募増資は創業家の議決権比率の希釈化(薄めること=出資比率を下げること)を目的でしたものであるから、著しく不公正な方法による新株発行になり、これは違法であるので差止めを求める、といって仮処分の申請をしたのだ。しかしながら、裁判所は、それを認めなかったんだなあ。
「何故、創業家は合併に反対なんだい。」
「マスコミ報道では、社風の違いなどが反対の理由だけど、出光興産は、創業者である出光佐三氏が、石油メジャーに対抗し、国際的に孤立していたイランから大量の石油を買い付けて以来イランとは友好関係にあるが、昭和シェル石油の大株主にはイランとは敵対関係にあるサウジアラビアの国営企業がいるなど、複雑な国際情勢も背後にあるといわれているよ。」
「それにしても、創業家は、33,92%の議決権を持っているのだから、当然合併は阻止できると考えていたのだろうかのお。」
「さあ。上場会社であれば、会社は、取締役会決議で、随時、公募増資や第三者割当増資をすることができるのだから、持株比率がいつまでも維持される保障はないわなあ。」
「出資比率は、常に、希釈化されるリスクがある。これは一つの盲点だね。」
「そうだなあ。創業家が出資比率を持ち続けたいと思えば、経営権すなわち取締役会は握っておく必要があるということだなあ。」
関連するコラム
- 監査等委員会設置会社が増えている理由 2017-09-30
- 社外取締役の有用性 2017-08-07
- 会社法の歴史 1 はじめは「商法」であった 「商法」はドイツ法に倣ったものだった。そして、戦後・ 2018-03-28
- ホールディングスが増えた理由 2017-07-30
- ホールディングスのメリット・デメリット 2018-04-26
コラムのテーマ一覧
- 時々のメモ
- コーポレートガバナンス改革
- 企業法務の勘所
- 宅建業法
- 法令満作
- コラム50選
- コロナ禍と企業法務
- 菊池捷男のガバナー日記
- 令和時代の相続法
- 改正相続法の解説
- 相続(その他篇)
- 相続(遺言篇)
- 相続(相続税篇)
- 相続(相続放棄篇)
- 相続(遺産分割篇)
- 相続(遺留分篇)
- 会社法講義
- イラストによる相続法
- 菊池と後藤の会社法
- 会社関係法
- 相続判例法理
- 事業の承継
- 不動産法(売買編まとめ)
- 不動産法(賃貸借編)
- マンション
- 債権法改正と契約実務
- 諺にして学ぶ法
- その他
- 遺言執行者の権限の明確化
- 公用文用語
- 法令用語
- 危機管理
- 大切にしたいもの
- 歴史と偉人と言葉
- 契約書
- 民法雑学
- 民法と税法
- 商取引
- 地方行政
- 建築
- 労働
- 離婚
- 著作権
- 不動産
- 交通事故
- 相続相談
カテゴリから記事を探す
菊池捷男プロへの
お問い合わせ
マイベストプロを見た
と言うとスムーズです
勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。