従業員との間の競業避止契約は、代償措置がとられていないと、無効
1.法律が社会のニーズに、今まで以上の速さで、応えるようになってきた
独禁法は、企業活動を規制する法律です。これに違反すると、課徴金が科され、会社名が公表され、企業活動を停止させる強大な力をもった法律です。その力の持ち主は公取委ですが、公取委が常に、社会のニーズを見ながら、その判断をしているかというと、そうではありません。公取委は、過去のある時点でできた法制度を、その時の法の基準で、適用するのが仕事ですので、法律ができた時点と独禁法を適用する時点で、経済界のニーズに大きな開きがあるときは、独禁法の適用は、かえって企業の経済活動の阻害要因になる場合が生じます。
その一例を紹介いたします。
九州のある県で2018年に始められた企業統合(地方銀行と地方銀行の企業統合=M&A)が、公取委にストップをかけられ、それから2年間にわたって、企業(二つの地方銀行)が、大切な資産(取引先とその取引先への融資債権)の一部を別の企業(地方銀行)に譲渡するよう、公取委から指導され、それをしたことにより念願のM&Aはできたものの、重要な資産の喪失と2年間という時間の空費という大きな犠牲を払いました。これは、独禁法が、九州の中の一定範囲の地域という狭い範囲であっても、2つ企業の統合によって競争力が大きくなることを悪いことだという前提で規制したから起きた出来事です。しかしながら、現在の経済界は、世界を一つの市場とみて競争をする時代になっているのです。そのため、この企業統合にストップをかけた公取委のやり方には批判が出、ために2020年には、地方銀行と地方のバス事業者の場合については、公取委の直接の関与を否定し、所轄官庁(地方銀行の場合は金融庁、バス事業者の場合は国交省)の認可を受けることで、企業統合を認める法律(バス事業・銀行の独占禁止法特例法)ができました。これら二つの事業は、地方の重要な社会インフラです。近時、過疎化による人口減少などが原因で経営が困難になる企業も増えてきていますので、これらの業種に属する企業の経営合理化、そのためのM&Aは、国策としてもおおいに助力する必要があるのです。
以上ご報告いたします。この事例から、法律が社会のニーズに、今まで以上の速さで、応えるようになってきた一端が垣間見えることと思います。