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小川芳夫

ファシリテーションの活用を支援するコンサルタント

小川芳夫(おがわよしお) / ファシリテーター

BTFコンサルティング

コラム

ビジネス変革:コロナ禍がもたらす変化:体験価値について考察する

2020年8月2日 公開 / 2022年2月7日更新

テーマ:ビジネス変革

コラムカテゴリ:ビジネス

コラムキーワード: 業務改革顧客管理組織マネジメント

このコラムはビジネスパーソンの方々を対象に書いています。

私は何本かのコラムを書いています。そのうちの何本かは顧客体験の重要性について触れています。別の何本かは従業員体験の重要性について触れています。

コロナ禍が続いています。
この感染症がもたらす変化については、下記のコラムを書いています。この感染症がもたらすものを鳥瞰すると、「本当に大切なもの」にフォーカスすることが求められる、と私は考えます。その「本当に大切なもの」とは、体験価値です。

このコラムでは、体験価値について考察します。


私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのためのお手伝いをしたい」と考え、この屋号にしました。

ファシリテーション(Facilitation)。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテーター(facilitator)と言います。

このコラムは次の3つの章で構成します。7分程度で読める内容です。



1. 体験価値とは

体験価値とは、何かを体験し、その体験者が獲得する価値です。
体験を通じてもたらされる喜びやワクワクする気持ちといった感情や心理的な価値を含みます。


より良い体験をすることが、その人にとって、より良い価値を感じることになります。

より良い価値を感じることは、エンゲージメントの獲得につながります。エンゲージメントという言葉はいろいろな意味に使われています。
例えば、顧客エンゲージメントは、顧客の注意や興味を引きつけながら、顧客とのつながりを強固なものにするという意味で使われます。
また、従業員エンゲージメントは、従業員の会社に対する愛着や思い入れといった、従業員が感じる会社との絆という意味で使われます。
エンゲージメントを獲得することは大切です。

体験価値は客観的に見える化することが重要です。データ化することが必須です。データ化することで、統計的分析が可能になります。他との比較や時系列的な比較などができるようになります。

この章では、体験価値について整理してみました。
2章では、具体的に、顧客体験価値について考えてみます。


2. 顧客体験価値とは

かつては、製品の仕様やスペック、サービスの内容によって、顧客満足度を向上させる試みが主流でした。時代とともにその傾向は薄れ、「モノ」の価値以上に「体験」の価値が注目されるようになりました。

背景には、技術の発展と競争があると思います。
あらゆる産業において技術が発展した結果、商品やサービスの発展によって競合他社との差別化を図るのは困難になりました。

徹底的にコストダウンして価格で差別化を図るという打ち手があります。他方、「感動や体験価値の提供」に注力する動きが始まっています。

顧客体験価値とは、そうした動きの中で生まれた、商品やサービスに紐づく体験によって、顧客が感じる価値を表す言葉です。

顧客がより良い体験価値を感じるメリットは何でしょう。良い体験によってポジティブな印象を会社に抱いた顧客は、中長期的に商品やサービスを利用する「ファン」となります。そして、ファンとなった顧客は、近しい人物に商品・サービスの魅力を伝える「プロモーター」となります。商品やサービスに共鳴するような感じでしょうか。

感動や体験価値の提供は、他社と差別化し、ファンを獲得する手段であることから、多くの会社が注力しています。

「愛着を持てる」「安心感がある」「心地よさがある」というような、機能面以外の評価は体験価値に大きな影響を与えます。

さて、コロナ禍の今、会社の業績が悪化し雇用を守れない状態の会社があります。一方で、オフィスワーカーの勤務時間の多くは、反復型ルーチンワークに費やされていて、これらの作業を自動化できる可能性が高い、とも言われています。事業環境が変わってしまったので、ビジネスも変える必要があるのではないか、と私は考えています。よく言われていることですが、デジタル技術を活用したビジネス変革(DX、デジタル・トランスフォーメーション)が必要なのだと考えます。ルーチンワークを自動化することで、減ったマンパワーを補う必要が出てくるでしょう。

大規模なビジネス変革(DX)を実現するためには、事業部門、業務部門、IT部門などから専門家を集め、アイデアや意見を引き出し、まとめ、合意を形成することが必須です。全社一丸となってビジネス変革(DX)に参画する必要がある、ということです。

なお、DXに関して 『ビジネス変革:デジタル変革(DX)とビジネス変革:今理解すべき3つの視点』 というコラムを書いています。

ステークホルダーと真の意味で対話できる会社がエンゲージメントを獲得できるのだと思います。商品やサービスを利用する顧客はステークホルダーです。さらに、商品やサービスを納入してくれる会社もステークホルダーです。

次に、いくつかの例をあげます。

最初の例はスポーツ観戦での、顧客体験価値です。知恵を絞り、ファンというステークホルダーとともに楽しむ手立てを探ることが、長く愛されるチームの条件です。

DeNAベイスターズは、コロナ禍の観戦方法を模索していました。オンラインツールを生かし、選手と交流できる企画への参加や、試合中にバックネットの大型モニターから選手に声援を届けられるチケットを数千円で販売していました。これらに加えて「有観客」初戦をペア観戦できる10万円のチケットを限定100枚で販売したそうです。即完売したそうです。

西武LIONSも、選手にオンラインで質問してみよう! 「LIONS オンラインインタビュー!」参加者100名募集 という企画を試行したところ、大人気だったそうです。

ワオ(WOW)体験、つまり「おっ!」とか「えっ?」と思う体験に価値を見出す顧客は多いです。

例として、バルミューダBALMUDA The Speaker というスピーカーを取り上げます。スピーカーなので、音が良いことはもちろんですが、それに加えて光を音とシンクロさせて新しい体験を可能にしています。

少し前の段落で、商品やサービスを納入してくれる会社もステークホルダーだ、と書きました。ファクトリエ という衣料品の会社があります。水やコーヒーも怖くない!何でも“弾く”コットンパンツなど、ワオ体験できる商品を販売しています。
職人の情熱と最高の技術がつまった、人に語りたくなるものを長く大切に使ってもらいたい、そんな想いを持っている会社です。
ファクトリエと提携する工場は、自らの「工場希望価格」を提示することができるそうです。そのため、従来の流通構造における「小売り希望価格」からコストを算出したときよりも利益を確保することができるようになる。工場の満足度はとても高いそうです。ファクトリエと協働して、職人のこだわりがつまった商品を開発製造し、利益も出るという体験に価値を見出している例だと思います。

さて、顧客の体験価値を客観的に見える化する、データ化するための手法として有名なものは、ネット・プロモーター・スコア(Net Promoter Score、NPS)です。GAPで洋服を買うと、会員登録していると、NPSサーベイが送られてきます。GAPではこのデータを分析して戦略を立てているのでしょう。

NPSで有名な会社は、メダリア(Medallia)クアルトリクス(Qualtrics) などがあります。


3. 従業員体験価値とは

従業員体験とは、従業員が働くことを通じて得られる体験のことです。
海外の事例では、顧客体験価値に加えて従業員体験価値を向上している企業は生産性が向上しているそうです。優秀な人を惹き付けたい、働き続けて欲しい、生産性を上げたい、そのために従業員体験価値を向上すべく努力しているそうです。

例えば、就職後数年経って学生時代の友人と会った時、「うちの職場xxxで働きやすいんだよね。」とか、「うちの会社はスキル育成に熱心だからスキルアップできるんだよ。」とか、自慢できることは、その人が高い従業員体験価値を感じている、と言えます。

似た言葉に従業員エンゲージメントがあります。ウィキペディアによれば、従業員エンゲージメントは1990年代に管理理論の概念として登場し、今日では従業員体験と同義語になったとあります。

コロナ禍になり、従業員体験価値に影響を与えるものの1つとして、テレワーク があります。

日経ビジネス電子版の2020年7月22日の記事 『新型コロナ 隠れたもう1つの感染源「オフィス」は大丈夫か』 にも書かれているように、オフィスは安全とは限りません。

パーソル総合研究所が2021年8月31日に公開した 『第五回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査』 という2021年7月30日から8月1日に行った調査結果によると、テレワーク実施者のテレワーク継続意向は78.6%で、現在テレワークを実施していない人(非テレワーク非実施者)においても1週間に1日以上のテレワークを希望している人は33.0%いることが分かったそうです。

他方、テレワーク実施率は下がってきているようです。東京都は毎月『テレワーク実施率調査結果』を出していて、2022年1月の調査結果によると、東京都では2021年10月から2022年1月は55%〜57%程度で下げ止まっているようです。内閣府が2021年11月1日に出した『第4回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査』によると、全国平均は30%〜32%程度だそうです。

従業員の希望を実現することは、従業員の体験価値を高めます。

さて、テレワークのメリットを3つ挙げるならば、私は下記だと思います。

  • 時間の使い方に柔軟性が生まれ、柔軟な働き方ができる(場所・時間にとらわれない)
  • 優秀な人材を採用することができる・継続確保できる
  • 従業員体験を向上することができる


通勤時間がなくなるので、その時間を家族との団欒に使ったり、散歩したり、家事をしたり、趣味に使ったりすることができます。田舎の親の介護や面会で帰省し、実家から仕事をしたりできます。ワーケーションで気分をリフレッシュしながら働くこともできます。

コロナ禍の今こそ優秀な人財が欲しい、確保したい、という会社はとても多いと思います。例えば、何かの理由で東京に移住することができないので地元に住んでいる。こんな優秀な人がいるとします。東京の会社がテレワークを全面採用していなかったら、この人は地元の会社で働くしか選択肢がありません。しかし、東京の会社がテレワークを全面的に採用していたら、この人には選択肢が増えます。東京の会社で働くのか、地元の会社で働くのか、物理的距離という制約がなくなります。そして、優秀な人の争奪戦が始まります。従業員体験を軽視する会社は、そもそも選択肢に上がらない時代がすぐ未来にある、と私は考えます。

上の段落で例とした親の介護。親の介護の必要があり田舎に移住することになった人。テレワークを採用していない会社なら退職するしかありません。テレワークできる会社なら田舎から働くことができます。優秀な人を確保できます。

テレワークのメリットを享受できることは、仕事を通しての満足感を向上させることにつながります。従業員体験価値の向上につながります。

もちろん、デメリットもあります。例えば、「社内での気軽な相談・報告が困難」、「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」、「取引先等とのやりとりが困難」、「偶然に会った人との会話から見つかったアイデア(セレンディピティ)に遭遇しない」などです。

さて、これらは本当にデメリットなのでしょうか?私はそう考えません。
課題と捉えるべきだ、と考えます。課題がたくさんある。つまり変革の機会がたくさんあるのです。

テレワークの課題に対する打ち手はあります。ファシリテーターの観点での打ち手を、『働き方:コロナ禍のテレワークとは:リモートで働くことを考察する』 というコラムで書いています。

無策でテレワークに入るとうまくいきません。2020年前半は強制的にテレワークに入ってしまった感があります。その後いろいろな経験や知見が蓄積されているはずです。知恵を出し合うべきだ、と私は考えます。

さて、従業員の体験価値を客観的に見える化する、データ化するための手法として有名なものは、従業員パルス・サーベイ(Employee Pulse Survey、EPS)です。従業員のエンゲージメント状況を詳しく知り、つまり従業員をより理解し、時系列での変化を見ることができ、打ち手を考えることができます。あなたの会社には、従業員パルス・サーベイありますか?

EPSで有名な会社には、 メダリア(Medallia)クアルトリクス (Qualtrics) などがあります。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 
 
 

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