ビジネス変革:なぜテレワークが機能しにくく、DXの成功率が低いのか:具体的な解決方法を考える
このコラムはビジネスパーソンの方々を対象に書いています。
このコラムの内容を一言で言うならば「DXはデジタル技術の導入プロジェクトではない。求められているのはビジネス変革である。」ということです。デジタル技術について考え、さらにビジネス変革について考えるきっかけを掴んでいただけたら幸いです。
私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのためのお手伝いをしたい」と考え、この屋号にしました。
ファシリテーション(Facilitation)。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテーター(facilitator)と言います。
このコラムは次の3つの章で構成します。15分程度で読める内容です。
1. DXはデジタル技術の導入プロジェクトではない
DXはデジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation)の略です。デジタル変革とも呼ばれています。
コロナがあぶり出したものはいろいろあると私は思います。その1つは、日本がIT後進国であることを多くの国民に知らしめたことでしょう。ハンコ文化、紙文化、FAX文化、ITリテラシーの低い方々、などなど、昭和時代から何も変わっていない(進化していない)ことが白日の元に晒されてしまいました。
この章の出だしの流れでいくと、「まずはIT化するところからコツコツ始めていくのがいいんじゃないか?」、「ITの話だろ。IT部門に任せよう。」、「ITベンダーに丸投げだな。」などの意見が出るかもしれません。この考えは危険だ、と私は考えます。
この、ある種の危機感のような感覚が、このコラムを書こうと思ったモチベーションです。
グローバル化している今、景気後退の可能性が囁かれている今、全ての国の会社がDXでなんとかしよう・したいと考え、スピードを上げてビジネス変革しようとしている、と言って過言ではないと思います。
悠長なことを言っていると、外資に食われるかもしれません。
デジタル変革の鍵となる代表的なデジタル技術は、RPA、AI、IoT、ブロックチェーン、5Gと言われています。なんだかアルファベットが多くて、よくわからないという方がいらっしゃると思います。「知らないことは知らない」と言えることは、知ったかぶりをするより、よっぽどいいと思います。できれば、「知りたい」と思って欲しいなぁ、と私は思う者です。
2. デジタル・トレーニングしよう
知らないことって世の中たくさんありますよね。
デジタル変革の鍵となる技術に5Gがあります。このコラムを読んでくださっている方の中に4Gを知らない人はいないと思っています。じゃあ5Gは?5Gがあなたの生活をどのように変える可能性があるのか?あなたの会社のお客様がどのような新しい体験をする可能性があるのか?ちゃんと答えられる人は少ないのではないでしょうか。聞きかじりで、「超高速・超低遅延・多数同時接続らしいよ。これが4Gと違うところなんだよね。」ということは、それほど難しくありません。でも、自分にとっての5Gの価値は?どんな価値のある体験ができるのだろう?こんな問いを立てて考える時間を持つことは、時間のムダ使いではないと思います。
「知りたい」という気持ちがあれば、知っている人に聞こうと思いますよね。例えば、5Gスマホを持っている人に、「何が便利なの?」と聞いてみても良いかもしれません。
私のスマホは4Gです。私は5Gスマホにしたら「どんなに私は嬉しくなるのか。思わずワォ!と言ってしまうのか。」今今現在はイメージできていないというのが本音です。個人レベルで見ると、こんな感じではないかと思います。
他方、コロナ禍の中、ローカル5Gが脚光を浴びています。例えば、工場内という限られた範囲(ローカル)に工場専用のプライベートな5Gネットワークを構築することで、無線化により(配線が不要になることで)柔軟な製造ラインが実現できます。
その他の鍵となる技術についても同じことが言えます。とはいえ、何も説明しないのも不親切かもしれませんから、簡単に私の理解を書いておこうと思います。
RPA:Robotic Process Automationの略で、主にホワイトカラーがパソコンで作業する定型作業を自動化するための技術。エクセルのマクロで、ある程度の定例業務を自動化している方がいらっしゃるかもしれませんね。その超進化版だと思っていただいても良いかもしれません。
AI:Artificial Intelligenceの略で人工知能の技術です。人間を助ける技術であることを強調するためにAugmented Intelligenceの略で拡張知能という言葉を使っている方もいらっしゃいます。活用事例が出てきていますね。
IoT:Internet of Thingsの略で、モノのインターネットと呼ばれています。機器がインタネットに接続され、何かのデータを送り、例えばAIがそのデータを分析して、必要な行動を促すことができます。一例は、『全国初!学校現場におけるIoT技術を活用した暑熱対策』です。
ブロックチェーン:ネットワーク上を流れるデータの信頼性・透明性を確保する技術です。例えば、複数の会社間でやりとりされる書類データについて、関係する会社すべての情報のやりとりを共通のプラットフォームに乗せて、電子化できるようになる技術です。一例は、『ブロックチェーンの商用化で見えてきた、ビジネス変革の未来像』 です。また、最近では、NFT(Non Fungible Token、非代替性トークン)という偽造不可能な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータが注目されています。デジタルアートにNFTをつけて売買するということが現実になってきています。NFTはブロックチェーンを使っています。ただ今現在は、ネット上にある第三者のアート作品を無断でコピーして、その盗んだアート作品にNFTをつけてマーケットプレースで販売するという問題も生じています。不正対策が行われて、出品者も購入者も安心して売買できるマーケットができることが待たれます。
ファクトフルネス(ISBN978-4-8222-8960-7)という本を読んだ方もいらっしゃるでしょう。知識やスキルはアップデートしないと、古くて使えないものになってしまいます。
新しい技術も同じ。アンテナを張っていることが大切だ、と私は思います。
そして、何か「これは!」と思うものは、誰か知っていそうな人に聞いたり、調べたりしてみてください。自分の知識をトレーニングする。アップデートする。こんな感じでしょうか。
コロナ禍になり、Zoomなどウェブ会議ツールが使えない人も、あぶり出されました。使えなかったことは現実として受け止め、次どうするのか、これが大切です。トレーニングが必要です。年齢は関係ないのです。よく若い人たちはデジタルに慣れているから、というステレオタイプな言い方を見聞きします。確かにスマホでSNSを楽しむことは慣れているでしょう。でも、パソコンは使えないとか、大学に入学したばかりの新入生が、いきなりオンライン授業になって、SkypeやZoomの使い方に手こずった、などということも聞きます。つまり、使ったことのないものは、使えなくても恥ずかしくないのです。ツールとはそういうものです。
使い方をトレーニングすればいいのです。私はオンライン会議に使うITツールなどは、コロナ禍の時代の「読み書き算盤」のようなものだと思っています。つまり、使えて当たり前、使えなかったら仕事にならない、そういうものです。だからトレーニングが必要。そう考えれば、「苦手だから」などと逃げていられないと思います。
デジタル・トレーニングは大切です。
DXの鍵となるデジタル技術について、アンテナを張って、その技術の本質は何なのか、簡単でもOKなので、自分の言葉で語れるようになるといいですね。自分の生活をどのように変える可能性があるのか。あなたの会社のお客様がどのような新しい体験をする可能性があるのか。自分で考えることが得意でないのなら、研修に参加するなどして知識とアイデアを得ることも有効な手段だ、と私は思います。私も、自分の言葉で語れるように努力します。
事例を見てみましょう。
2020年9月11日の日経の記事『投資、設備から人材へ 日立が全16万人にDX研修』を参照します。
この記事中の、厚生労働省が出所のデータ『日本企業の能力開発費のGDP比は突出して低い』では、下記のデータを示しています。
- 米国2.0%程度
- フランス1.8%程度
- ドイツ1.2%程度
- 日本0.1%程度
私がお客様に「会議のやり方を教えられたことはありますか?」と聞くと、ほぼ全員の方がが「ない」とおっしゃるのです。デジタル・トレーニングも大切です。加えて、他のこと例えばソフトスキル、も重視して欲しいと思います。
個人的には、サントリーホールディングスの『社員同士がMBA知識などを教え合う制度で、オンラインの月平均利用者がコロナ感染拡大前の5倍の1100人に』という取り組みは素晴らしいと思います。従業員同士がコミュニティーを作って、仲間同士で学び合う文化を醸成することは、とても意義がある、と私の経験も合わせて、そのように考えるからです。
私は 『組織力強化:自分を育てる・組織を育てる:大切な3つのポイント』 というコラムを書いています。そのコラムに書いた通り、「◯◯のスキルを身につけたい・研鑽したい」という自分と同じ志向の人を見つけ、その人たちとコミュニティーを作って、お互いに刺激しあいながら、学び研鑽するというアプローチで組織力を強化した経験があります。コミュニティーをうまく運営すると、モチベーション上がりますよ。
この日経記事は経営層やマネジメント層のデジタル・トレーニングについては触れていませんでした。私は、経営層やマネジメント層がデジタル技術の本質を理解し、どうビジネスに活かせるのかがわかる事が大切だと考えています。
3. ビジネス変革しよう
このコラムの冒頭で書いたとおり、ビジネス変革とは今あるビジネスの形を変えることです。多くの場合、ビジネスモデルを変えることになります。
この章は下記の5つの節で構成します。
3.1. 非対面非接触でのビジネスに変革した事例
3.2. DXの本質はビジネス変革
3.3. ビジネス変革を実現できる場を整備する必要性
3.4. DX(デジタル・トランスフォーメーション)失敗事例
3.5. DX(デジタル技術を活用したビジネス変革)成功事例
3.1. 非対面非接触でのビジネスに変革した事例
コロナ禍に入り、非対面非接触が求められるようになりました。例えば、下記のような事例があります。
国際的な電話会社は、1000人の店舗従業員をインサイドセールスに配置転換し、3週間で再教育した。(海外事例)
ロックダウンされた国では、そもそも店舗を開けませんでした。そこで販売チャネルをリアル店舗からオンラインを活用したインサイドセールスに変えたという事例です。インサイドセールスなので、もちろんMA(Marketing Automation)、SFA(Sales Force Automation)、CRM(Client Relationship Management)などのITツールは駆使したのでしょう。AIも使ったかもしれませんね。3週間で1000人の再教育をリモートで実施したというのは、大変な努力だったのだろうと思います。
ビックカメラは英ダイソンの日本法人と提携し、有楽町店(東京・千代田)など一部店舗でビデオ会議システムを使ったお客への遠隔接客を始めた。
これも対面からオンラインに切り替えた例です。
BMW日本法人は2020年7月末から販売店に行かずに車を購入できるネット販売を全国で大半の車種を対象に始めた。商品説明などの接客はビデオ会議システムで応じる。
これは対面オンリーだった自動車販売会社が、オンラインでの販売チャネルを追加した事例です。
アステラス製薬は営業の仕事をオンライン化した。2020年6月から、医薬情報担当者(MR)がウェブ上で医師と直接やりとりができる営業ツールを導入。全国の医師の9割にあたる28万人へのアクセスが可能で、新規顧客をオンラインで開拓することも可能になった。
これも対面からオンラインへ切り替えた例です。そもそも医師はコロナに関して敏感でしょうから、「発症していないが既に感染しているかもしれない」人と会う機会はできるだけ少なくしたいはずです。また、全国の医師の9割にアクセスできるということはMRが商機を拡大できることになりますし、移動時間削減もできますね。
おうちでイオン イオンネットスーパー。
これはできるだけ人との接触を避けてスーパーでの買い物を済ませるというものです。ネットで注文して、リアル店舗のカウンターや店舗内ロッカーやドライブスルーで商品を受け取るというものです。例えば、いつ来るかわからない宅配よりも自分で受け取りに行った方がいい、というお客様の声に答える試みといえます。ネットで買って、自転車かごや玄関などへの置き配で非接触というのも定着しました。
このように対面ではない手段は定着してきています。
ビジネスモデルを変え始めている、とも言えます。
3.2. DXの本質はビジネス変革
DXの鍵となる代表的なデジタル技術、RPA、AI、IoT、ブロックチェーン、5Gはツールです。これらは主役ではありません。DXの本質はビジネスを変革することです。この意味で、私はDXのことを、デジタル技術を活用したビジネス変革と表現しています。
体験価値を高めることにフォーカスすべきです。
例えば、アステラス製薬の事例は、お客様である医師の方々の体験価値を高めています。感染リスクを低減して必要な医薬情報を得られるのですから。
また、MRの従業員体験価値も高めています。多くの医師にアクセスできること、多くの医師からフィードバックをもらえること、等々はMRのモチベーションを上げることにつながるだろうと思います。
ビックカメラのダイソンの事例は、ビックカメラの店舗を訪れたお客様の感染リスクを低減することでお客様の体験価値を高め、ダイソン社員も感染リスクを低減できるので従業員の体験価値も高めている事例と言えます。
体験価値のつながり。従業員体験価値が高ければ、働き甲斐を感じモチベーションを上げることにつながります。このことは、顧客体験価値を高めることにつながります。どうせ買うなら、従業員が笑顔で明るく接してくれる、そんな雰囲気の店(リアルでもオンラインでも)に行きたいですよね。
次に、2020年8月20日の日経ビジネスの記事『星野リゾート、4分の3の施設が前年並みに 「小さな旅」が奏功』を参照しながら、ビジネス変革の観点で考えてみましょう。
星野佳路氏は、『4、5月は大変な状況でした。しかし、このうちの4分の3の施設については需要が戻りつつあります。6月に入って少しよくなり、7月はさらによくなり、8月の集客は昨年並みに戻っている。』と語っています。その理由は、『地元客に小さな旅を楽しんでもらうマイクロツーリズムを提唱して、真剣に取り組んだことが大きかったと思います。』と分析しておられます。
顧客体験価値を高める打ち手を考え、真剣に取り組む。これはコロナ禍の今こそ求められていることだ、と私は考えます。
『施設の大きさも違えば、サービスの内容や魅力も違うので、マイクロツーリズムでどのような対応をするのかは、現地スタッフに考えてもらうことが大切です。これは星野リゾートでずっとやってきたことであり、いろいろな発想や取り組みが自由にできており、その中からいいものは横展開しています。』と語っています。
現地スタッフは自律的に考えることが求められていて、実際に考えてアイデアを出す力がある。そして、そのアイデアは、否定されることなしに、まずは受け入れられ、検討してもらえるのだと思います。そういう雰囲気の社風なのでしょうね。指示待ちの従業員が多い組織、アイデアをなかなか受け入れてもらえないネガティブな組織では、コロナ禍を生き延びるのは困難かもしれません。
さらに、『社員に対しては、元気づけるといった段階の時期は過ぎていて、今はどんどんコロナ期の経営に参加してほしいと思っています。そのために社内向けの専用ブログなどで私が積極的に情報を発信しています。「こういう考え方がいいのではないか」というテーマや視点も随時示しており、その1つが「コロナ禍で需要が下がった企業とのコラボレーション」です。』と語っています。
あなたの組織には、自由闊達にオンライン上で意見交換できるツールはありますか?ツールがあっても、自由闊達に意見交換する文化というかオンラインで協働するリテラシーがないとムリではありますが、コロナ禍の時には必須のことなので、是非検討していただきたい点だと考えます。「上司が動かないから...」と不満をいうのは簡単です。あなたは当事者ですか?当事者意識を持って、壁を突破することを検討していただきたい、と私は考えます。私のコラム『組織力強化:コロナ禍の職場のチームを再構築する:大切な3つのポイント』や『組織力強化:迅速に組織変革する9つの方法:ファシリテーターの観点で考察する』をお役に立てていただけるかもしれません。
また星野氏は、『国の緊急事態宣言が明けた最初の週に2万人を対象にした大規模調査を実施しました。その結果、「宣言が明けましたが、国内旅行に行ってみたいですか」と尋ねたところ、「迷っている」層が31%いることが分かりました。思った以上に多く、詳細な情報を調査したところ、迷っている人たちは新型コロナウイルスの感染が怖いのではなく、行ってもいいのかが分からない人のほうが多かった。一時期、「今は来ないで」というキャンペーンを各地で行ったこともあり、まだ遠慮して「行ってはいけないのではないか」「東京や首都圏から行くと嫌がられるのではないか」と言う人が多い。』と語っています。
勘ではなくデータに基づいています。データを分析し、打ち手を考え、一生懸命真剣に打ち手を実施する。
『コロナ禍がどうなるかが分からないため予想自体していないし、やるべきことを一生懸命にやっているだけです。』とも語っています。
私は、コロナ禍になり、アジャイルという言葉をよく見聞きするようになったように感じています。状況センサーともいうべきアンテナを立て、やるべきことを一生懸命真剣にやる。状況が変わったら、迅速に打ち手を考えて必要なアクションを起こす。こういった迅速かつ柔軟さが求められているのだと考えます。
アジャイルについては、『働き方:アジャイルな働き方とは:アジャイルな働き方を導入するには』というコラムを参考にしていただけると思います。
3.3. ビジネス変革を実現できる場を整備する必要性
自分たちの組織に閉じた改善活動ではなく、組織をまたがったビジネス変革を実現するには、「実現できる場」を整備する必要がある、と考えます。
「ビジネス変革を実現できる場」には、ファシリテーションを中核に置きながら、チームに働きかけチームを目指す目標に到達するようリードするファシリタティブなリーダーシップを持った人が必要です。
ファシリテーション(facilitation)。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。
ファシリタティブ(facilitative)は、「物事の進行などを促進する」という意味の形容詞です。
リーダーシップとは、職場のチームで目標に向かって協働し、目標を達成することを成し遂げる力です。目標を達成するよう働きかける力とも言えます。
リーダーとは、役割や職責であり、具体的には主任、課長、部長などです。
リーダーシップは、リーダーの職責を担う人だけに求められる能力ではなく、チームの目標を達成するために活動している従業員一人ひとりに必要な力といえます。
先が見通せない激変しているビジネス環境にいる今、課題への対応スピードを上げることが必要です。能動的に行動し、周囲に働きかける力を持つ人材が求められています。在籍年数や年齢は関係ありません。従業員一人ひとりがリーダーシップを身につけることは、会社の成長に大きく貢献する、と私は考えます。
組織をまたがった全社規模のビジネス変革を実現するためには、各組織から専門家を集め、協働する必要があります。例えば、営業、マーケティング、経営企画、業務、ITなどの専門家を集める必要があるかもしれません。
そして、顧客体験価値を高めるために今やるべきことは何なのか、という課題について、ファシリタティブなリーダーシップを持った人のもとで議論することが必要だ、と考えます。
そのチームで協働するという体験の価値を各自が納得すること、その価値に魅力を感じられること、これが必須であると考えます。
トップが明確なビジョンを示すことは当然です。
各組織から集められた専門家がチームとして機能するようになるには、自由闊達に議論し、各人の意見が受け入れられ尊重され、他の専門家から評価され感謝され、自分がチームに貢献していることを実感できることが必要です。
チームビルディングは協働の中から生まれる、と私は考えています。
みんなで協働して議論して創ったビジネス変革の青写真。これを実現するために活用する技術が、DXの鍵と言われている代表的なデジタル技術、RPA、AI、IoT、ブロックチェーン、5Gなどです。
DX(デジタルト・ランスフォーメーション)は「ビジネスをこう変革すべき」というビジネス上の目標が先にあって、それを実現するための手段としてデジタル技術を活用する、ということです。デジタル技術ありきで始めると失敗する可能性が高いと思います。
3.4. DX(デジタル・トランスフォーメーション)失敗事例
ここで、2020年12月14日の日経XTECHの記事『本質見失うDXバブルは罪深い、はやり言葉に社長も踊る滑稽さに気付くべし』 を参照します。
『細かい定義は全部違うが、突き詰めると「デジタルのチカラを使って、ビジネスを抜本的に変革しよう!」に尽きる。これは40年くらいの長期にわたり、失敗と成功を繰り返しながらビジネス界が取り組んできた大きなトレンドだ。競争力を高めるためにはラベル遊びではなく、1つひとつのプロジェクトを成功させていくしかないのだ。』と主張しています。
私はこの主張に賛成です。本質はビジネス変革です。
次に、2021年3月3日の日経新聞の『DXに失敗する3つの「ワナ」』を参照しましょう。
記事は、『デジタル技術で事業を変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を推進する企業が増えている。ただし、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)によるとDXに成功した国内企業は14%にとどまる。失敗の原因は何か。専門家への取材から課題と解決策をまとめた。』と始まっています。
課題は、下記の3つ。
- 経営トップの意識が低い
- DX推進役のスキル不足
- 現場を変革に巻き込めない
私は、DXを「デジタル変革」という訳すことが良くないのではないかと思っています。
デジタル → 良くわからない世界 → 「デジタルってITのことだろ」という考え(逃げ) → IT部門に丸投げ。
こんな思考の流れがあるのではないでしょうか。DXはIT案件ではありません。ビジネス変革、つまりビジネス案件なのです。
この章で書いたように、トップがビジョンを示してビジネスを変革することが必須です。
ビジネスを変革する必要がないのなら、やらなければ良いのです。
ただし、コロナ禍で多くが変わろうとしている中、何も変わらなければ、先は見えていると考えます。
3.5. DX(デジタル技術を活用したビジネス変革)成功事例
次に、DXの成功事例をみてみましょう。
下記の3つの記事を参照します。
- 2020年9月16日の日経新聞の記事『電子契約効果で300万時間削減へ』
- 2020年12月7日の日経新聞の記事『治験データ改ざん防止業務、ブロックチェーンで代替』
- 2020年12月10日の日経新聞の記事『貿易金融、世界大手で進むデジタル化』
ひとつ目の記事『電子契約効果で300万時間削減へ』。
『ツールの導入で終えず、業務全体をどう見直し新しい価値を生めるかが重要だ。』としています。その通りです。「電子契約 → IT化 → IT部門やITベンダー」ではないのです。「業務全体をどう見直し新しい価値を生むようにビジネス変革をするのか」が大切なのです。そのためにITというかデジタル技術が必要ならば使えば良いのです。
『7月から富士ゼロックスの営業担当者の働き方が変わった。従来は客先に契約書を持参していた。電子署名サービスの導入でクラウドに契約書を上げ、顧客がスマートフォンなどで押印や署名すると手続きは終わる。』多分、顧客体験価値が上がるでしょうし、富士ゼロックスの従業員の方の体験価値も上がるのでしょう。
私はコロナがあぶり出したものは「本質」だと思っています。「押印や署名することの本質は何か?」を熟考する事の必要性をあぶり出した、と思います。
そして、記事は『DX推進のカギはアジリティー(敏しょう性)。導入する企業は目的を明示し、すぐ意思決定できるかも問われる。』と締めています。先が見通しにくい不透明な今、しかしながら非対面非接触が求められている今、本質を考えなながら、アジャイルにアプローチする事が求められているのだと思います。
2つ目と3つ目の記事、『治験データ改ざん防止業務、ブロックチェーンで代替』と『貿易金融、世界大手で進むデジタル化』は、ブロックチェーン技術を活用したビジネス変革の事例です。
ブロックチェーン。『組織力強化:ソフトスキルとハードスキル:今要求されているスキルとは』というコラムで紹介したハードスキル第一位の世界中の会社が重要視しているスキルです。
治験データの例は、医療機関や製薬会社、認証機関などをブロックチェーンでつなぐものです。参加機関でデータを分散して管理することで改ざんできなくする仕組みだそうです。
貿易金融の事例。『コロナ禍で世界の輸出入が停滞するなか、貿易金融のデジタル化が広がってきた。英HSBCグループ、仏BNPパリバなど海外の大手金融連合は貿易会社の支払いを保証する書類でブロックチェーンによる電子取引を10月に商業化した。これまで紙による取引確認が一般的だった手続きを最短で1日に縮小する。』のだそうです。輸入業者の代金支払いを取引先の銀行が保証する「商業信用状」にブロックチェーンを活用しているそうです。
クラウドに情報をあげて各部門で共有しよう、などという単純なIT化とは全く異なる次元の話です。
デジタル技術を活用して、ビジネス変革を実現していただきたい。そのために各部門から専門家を集め、議論し、自分たちのビジネス変革を実現していただきたいと私は考えています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。