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小川芳夫

ファシリテーションの活用を支援するコンサルタント

小川芳夫(おがわよしお) / ファシリテーター

BTFコンサルティング

コラム

ビジネス変革:顧客体験価値にこだわる:具体策を考える

2021年4月26日 公開 / 2022年3月22日更新

テーマ:ビジネス変革

コラムカテゴリ:ビジネス

コラムキーワード: 業務改革働き方改革リーダーシップ スキル

このコラムはビジネスパーソンの方々を対象に書いています。

このコラムはビジネス変革に集中します。
DX。デジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation)とカタカナ表記されることが多いですね。私はDXの本質はビジネス変革だと考えています。そこで、私はDXをデジタル技術を活用したビジネス変革と表現しています。

私は今までビジネス変革に関する下記のコラムを書きました。どのコラムも、私の考えに基づいて書いたものです。


このコラムでは、顧客体験価値にこだわります。
お客様が体験を通してどんな価値を得るのか、お客様にとってどんな良い価値を提供できるのか、この辺りにこだわります。なぜかというと、ビジネス変革を実施する際の軸は、顧客体験の価値をいかに高めるのか、ということである、と考えるからです。

下記の2つの資料を参照します。

両レポート共にリッチな示唆に富む内容です。

このコラムでは、上記のレポートを参照して、なぜ顧客の体験価値にフォーカスする必要があるのかを考えます。そして、具体策を考えます。

私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのためのお手伝いをしたい」と考え、この屋号にしました。

ファシリテーション。Facilitationという名詞です。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテーター (facilitator) と言います。

下記の3つの章で構成します。15分程度で読める量です。



1. 顧客体験価値(アクセンチュアのレポートから)

このレポートは、2019年11月〜2020年1月の期間、そして2020年5月〜6月に更新を経て、下記を対象にして、ビジネスリーダーたちが顧客体験についてどのように考え、自社の能力がいかにエクスペリエンスとビジネス成果に貢献していると考えているかを調べることを目的としたものだそうです。

  • 1,550以上の世界中の上級管理職
  • そのうち25%がCEO(最高経営責任者)
  • 国の数は21か国
  • 業種の数は22業種


『優れた顧客体験とは、企業が提供する商品やサービスそのものではなく、顧客にとって最も重要な目的を果たすことをいかに手助けしてくれるかによって決まる』と言っています。個々の顧客の目的、問題・課題、ニーズ、疑問といったものを、迅速で簡単な方法で解決してくれるのかが大切だそうです。

クレイトン・クリステンセン教授のジョブ理論(Jobs To Be Done(JTBDと略されている))をご存知の方がいらっしゃるかもしれませんね。
JTBD
上図は、Strategyn社 の "Why Innovation Fails"(『なぜイノベーションは失敗するのか』)というウェビナーの資料中の1枚です。
顧客が欲しいものは、ドリルではなく、穴が開いた板だということです。
モノを売りたいメーカーは、どうしてもドリルそのもののデザインや性能にこだわってしまいがちです。
一方、顧客が欲しいのは穴が開いた板であり、課題は必要な大きさの穴を開けることなのです。「板に必要な大きさの穴を開けること」がジョブというわけです。

顧客にとっては、企業が所属する業界は関係ありません。必要な大きさの穴を開けることができるのであれば、ドリルをホームセンターで購入して自分で開けてもいいでしょうし、ドリルをレンタルして自分で開けてもいいでしょうし、DIYのお助けサービスがあるのならサービスを購入するという手もあるでしょう。企業に属するビジネスパーソンとしては、自社の業界だけを見ていてはダメということになります。

さらに、顧客は企業の存在意義・存在目的を大切にするということもレポートに書かれていました。Y世代(1980年〜1995年頃に生まれた人たち)とZ世代(1996年〜2012年頃に生まれた人たち)の半数以上が「社会問題に関する企業の言動に失望したために、その企業への支出を減らし、別の企業に乗り換えたことがある」と答えているそうです。

私が思いつく事例は、アパレルのパタゴニアの "DON'T BUY THIS JACKET" です。
上のリンクから下記を引用します。背景色が変わっている部分が引用部分です。(黄色のマーカー部分は私がマーカーをつけました)


(前略)
私たちが作るすべてのものはこの地球から、戻すことのできない何かを奪っています。パタゴニアのウェアのひとつひとつが、たとえそれがオーガニックであれリサイクル素材を使ったものであれ、その重さに対して何倍もの温室ガスを排出し、最低でも半分の廃棄物を生み、地球上のあらゆる場所でだんだんと希少になっていく淡水を大量に使用しているのです。

ニューヨーク・タイムス紙に広告を掲載した理由は、それが国内で最も重要な新聞であり、「記録の新聞」として知られているからです。私たちはこの広告をホリデーのショッピングシーズンの開幕日である「ブラックフライデー」に掲載しました。ブラックフライデーに購買を控えることを求めている会社は、この国でも私たちだけでしょう。

けれども、私たちは物を作り、売るビジネスをしています。私たちの給料はそれに依存しています。そればかりか私たちのビジネスは成長しており、新しい直営店をオープンさせ、カタログの発行部数も増えています。私たちを偽善者だと呼ぶお客様にはどう答えたらよいのでしょう。

「ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」というのが私たちのミッションの一部です。

私たちは環境を改善するための仕事をしているのですから、お客様に「購買はよく考えてから」と奨励しないことの方が偽善なのではないでしょうか。環境への悪影響を削減するためには、環境により配慮し、およぼす害のより少ない方法で製品を製造するだけでなく、私たち全員が消費を減らさなければなりません。一方、健全な経済が基盤にすることができるのは人びとが必要としないものをより多く売買することだと思い込むのは、愚かなことです。そしてそれを愚かだと思う人びとは、その意見を述べるときなのです。

それでもなお、パタゴニアのビジネスは成長しており、そしてこの先もビジネスを長くつづけていきたいと思っています。私たちの誠実さ(あるいは偽善)は、私たちが売るすべてのものが有益で、可能な場合は多用途に使えて、しかも長持ちし、そして美しいけれども流行の奴隷でない、ということにかかっています。私たちはそこに完全に行き着いているとはまだいえません。すべての製品がこれらの基準を満たしているわけでもありません。けれども「コモンスレッズ・イニシアティブ」は、こうしたゴールに向けて私たちを前進させる構想となるでしょう。
(後略)


自分たちの企業は何を成し遂げるために存在しているのか、ビジョンを公開することで自社の存在意義・存在目的を訴えていると思います。

これはかなり大切なことです。アクセンチュアのレポートには『自身が大義を果たす一員であると感じさせてくれて、共通の理念のもとに人々をつなぐ企業やブランドを好む』とありました。

さて、アクセンチュアのレポートの副題は『カスタマーエクスペリエンス(CX)を超えて、エクスペリエンス起点のビジネス変革(BX)へ』とあります。BXは Business of Experience の略だそうです。
下図はCXとBXを比較したものです。『BX思考へピボット』と書かれています。CX思考からBX思考へ方向転換すべきだ、と訴えているのだと思います。
BX思考

CX(カスタマーエクスペリエンス)思考ではCEOの最大の目標は収益の最大化です。BX(エクスペリエンス起点のビジネス変革)思考では存在意義とそれを起点とした顧客体験から利益を得ることが目標になります。

マーケティング/ブランドの目標は、CX(カスタマーエクスペリエンス)思考では「人々に商品が欲しいと思わせる仕掛けを作る」ことです。BX(エクスペリエンス起点のビジネス変革)思考では「人々が欲しいと思う商品を作る」に変わります。

営業の目標は、CX(カスタマーエクスペリエンス)思考では「企業が売りたい商品にフォーカスする」であるのに対し、BX(エクスペリエンス起点のビジネス変革)思考では「顧客が望む結果にフォーカスする」に変わります。

製品開発の目標は、CX(カスタマーエクスペリエンス)思考では「使いやすい製品を作る」であるのに対し、BX(エクスペリエンス起点のビジネス変革)思考では「顧客が利用するシーンに継続的に適応する製品を作る」に変わります。

人材の目標は、CX(カスタマーエクスペリエンス)思考では「従来の測定基準(研修、年次評価など)に基づいて従業員の職種別にパフォーマンスを測定」であるのに対し、BX(エクスペリエンス起点のビジネス変革)思考では「組織全体の成果を向上させるよう、インスピレーションとインセンティブを与える」に変わります。

CX(カスタマーエクスペリエンス)思考では、顧客が望む方法で顧客の行動を支援するのではなくて、企業が望む方法で顧客に行動させるようビジネスをしている、という姿が見えます。
他方、BX(エクスペリエンス起点のビジネス変革)思考では、企業が望む方法で顧客を行動させるのではなく、顧客に合った体験価値をしてもらえるように支援する、という姿が見えます。

顧客体験価値にフォーカスするには、顧客が満たされていないこと、つまりニーズを把握することが大切になりす。
従前であれば、調査したりするのでしょう。今は、社内に存在するデータを分析することは必須でしょう。アクセンチュアのレポートでは、部門部門でサイロ化したアプローチは非効率なので、組織を横断してデータを集め洞察を得ることが大切だ、と書かれていました。

以上、アクセンチュアのレポートから、顧客体験価値にこだわって、要点を抜き出し必要に応じて事例を交えながら私の考えをまとめました。


2. 顧客体験価値(IBMのレポートから)

IBM社は、IBM Institute for Business Value(IBV)というビジネス・シンクタンクを持っています。『CEOスタディ2021 本質を見極める』は、IBVがOxford Economicsと協力して、世界およそ50カ国26業界に及ぶ3,000名のCEOを対象に、オンラインでのインタビューを実施した結果をまとめたレポートです。日本からは110社だそうです。コロナ禍の中でのインタビューなので、一部のCEO(11カ国11業界の20数名)に対しては、ライブ・ビデオ会議や電話のほか、安全が確認された場合は対面でのインタビューを通じて、さらに詳細を尋ねたそうです。このレポートは2021年の2月に作成されたものです。本題が『本質を見極める』、副題が『ポストコロナ時代における価値の再定義』です。

CEOスタディから浮き彫りになった主要テーマは下記の5点だそうです。

  • リーダーシップ
  • テクノロジー
  • 従業員
  • オープン・イノベーション
  • サイバー・セキュリティー


CEOが考える最重要課題のトップ3は下記の3点だそうです。

  • 明確な目的を持ったアジリティーの推進
  • テクノロジーの更なる重要性
  • 新たな法規制への対応


上記3点について、顧客体験価値の観点から見てみましょう。

2.1. 明確な目的を持ったアジリティーの推進

組織のアジリティーとは、組織が勢いを失うことなく、迅速に問題解決や方針転換を行う能力です。

『今後2〜3年の間に、最も積極的に推進しようと考えていることはなんですか?』との問いに対して、CEOが挙げるトップ3は下記です。

  • アジャイルで柔軟なオペレーション
  • セキュアなデータ/システム
  • データに対する透明性の向上


2.1.1. アジャイルで柔軟なオペレーション

『アジャイルな手法や実験を採用できれば、適応力の高い身軽な組織を実現できる』と、シンガポールを拠点とする東南アジア最大手銀行の1つであるDBS BankのCEO Piyush Guptaは語っています。

ここでいうアジャイルとは、ソフトウェア開発で用いられているアジャイル開発ではありません。アジャイルな働き方のことです。レポートでは『多くの場合、アジャイルな施策による影響を明確に特定することは難しく、場合によっては「アジャイル・カオス」を招く恐れすらある。そのため、アジャイルな働き方を推進するには、その目的をより明確にしなければならない。成果や指標を踏まえて、イノベーションにより大きな優位性を生み出すことが可能な分野であるかを見定める必要がある。そうすることで、アジャイルな施策が実質的かつ有益な変革をもたらし、ビジネスに確固たる影響を与えるだろう。としています。

コロナ禍でVUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)の今、つまり不安定で不確実で複雑で不明確な時代には、アジャイルな働き方が合っています。顧客体験価値にこだわるためには、時代の変化による顧客体験価値の変化にも迅速に対応することが求められます。

ちなみに、私は『働き方:アジャイルな働き方とは:アジャイルな働き方を導入するには』というコラムを書いています。アジャイルな働き方を説明し、アジャイルな働き方を導入するためには、チームの協働を促進するファシリタティブなリーダーシップが必要であることを、わかりやすく説明したコラムです。

2.1.2. セキュアなデータ/システム

セキュリティー事故、情報漏洩、サイバー攻撃による被害。毎日のように見聞きします。
サイバー・セキュリティーが重要となります。顧客のデータを守ることが重要です。

魅力的な顧客体験価値を得るために、顧客が自分の個人データを提供してもよいと思ってもらうためには、個人データというプライバシーに関わる情報を守ることが重要になります。そのためには、顧客からの厚い信頼が必要になります。
平たく言うと、「◯◯なら安心して私の個人データを提供できる。そして魅力的な顧客体験の価値を手に入れることができる。」このように思ってもらえることが必要になります。


そのためのキーワードが、データに対する透明性です。

2.1.3. データに対する透明性の向上

個々の顧客のデータの取り扱いについて透明性を担保しながら説明できることが重要です。平たく言うと、「あなたのデータは確実に保護されている。安心だ。」ということを証明することが必要となります。

透明性と関係が深いものとして、真実性説明責任があります。
真実性とは、真実のこととして認められる性質のことです。また、真実であるかどうかの程度という意味もあります。顧客に対して、真実でないデータを提供すれば、一気に信頼を失います。当たり前です。

自分のデータが確実に保護されているという信頼を得るために、説明責任を果たすことが大切です。
顧客のデータが信頼できる形で扱われていることを、顧客が納得できる形で伝えなければならないのです。


2.2. テクノロジーの更なる重要性

調査を行ったCEO 3,000名が、今後2〜3年の間に自社に最も影響を与える外部要因のトップに挙げたのが「テクノロジー」だそうです。

テクノロジーがもたらすものはアジリティーだけではない。ハイブリッド型の勤務形態のほか、オペレーション効率改善や顧客エンゲージメント向上においても中心的役割を果たす。「これまでにない柔軟な対応を実現するには、テクノロジーをいかに活用すべきか」と問うのは、世界的通信コンサルタント会社 Ketchumの前CEOであり、現在Wells Fargoで通信部長兼エグゼクティブ・バイス・プレジデントを務めるBarri Raffertyである。』としています。

データの透明性が保たれて、顧客が自分のデータを使うことに納得してくれたならば、「その貴重なデータを使ってどのような顧客体験価値を提供できるのか?」ということになります。

今後2〜3年の間に、事業の成長に最も寄与できると期待するテクノロジーはなんですか』との問いに対して、CEOが最も期待しているトップ3は、IoT、クラウド・コンピューティング、AIだったそうです。

『この3つのテクノロジーは互いに関連付けられることが多く、併用することでその利点を最大限活用できる。』としています。

例えば、心拍数や血圧を測定でき、GPSを備えたリストバンド型の機器(スマートウォッチ)があります。
工場や工事現場などで働く作業者の安全を守ることを目標にした IoT機器(スマートウォッチ) があります。
クラウドシステムにより離れた場所から現場の見守りができ、個人特性のデータを蓄積し、日々 AI が学習することで高度な現場の管理が実現できるとのことです。

このIoT機器(スマートウォッチ)を装着した作業員の顧客体験価値は下記3点だそうです。

  • 個人の健康状態のリアルタイム表示:スマートウオッチを身に着けることで、バイタル、活動量を可視化する。所定の操作をすることで作業者から管理者へSOS発報を可能としている。
  • 熱中症対策:熱中症の予兆検知・回復をAIが学習。適切なタイミングで「休憩」や「作業復帰」を通知。個人のバイタルデータをAIが学習するため、個人の特性にあったプログラムでの解析が可能となり、適切なタイミングで「休憩」、「作業復帰」を通知することができる。
  • 危険発生後、すぐに駆けつけ、早期救出:作業者が転倒・転落した際に、管理者へアラート通知が送信される。危険が発生した位置情報が表示されるため、作業員をスピーディに救出できる。


バイタルデータはセンシティブな個人情報です。それを提供するだけの価値(生命の安全)があり、データの取り扱いに対する透明性が保たれているのであれば、作業員は納得の上で自分のバイタルデータを提供するだろうと思います。

CEOが最も期待しているトップ3は、IoT、クラウド・コンピューティング、AIの順でした。AIは人間を助ける役割を担うものとして期待されているし、実際活用例も出てきてはいるものの、まだ今後進化すべきところがあるというところでしょうか。例えば、今現在のAIは自身が出した結論に対して「なぜその結論を出したの?根拠を私にわかるように説明してくれない?」との問いにはちゃんと答えてくれません。ここが1位ではなく3位になっている理由かもしれません。

ガートナーが2021年11月16日に発表した 『AIのハイプ・サイクル:2021年』 によると、『自然言語処理 (NLP) や、ジェネレーティブAI、ナレッジ・グラフ、コンポジットAIといった先進テクノロジの利用を通じて、新製品の開発、既存製品の改良、顧客基盤の拡大のためにAIソリューションを活用する組織が増えています。しかし、組織が最も重点を置いているのは、概念実証 (POC) を本稼働に移すスピードを加速することです。そのため、AIを取り巻く環境において2021年版では以下の4つのトレンドに集約されます。』とあります。4つのトレンドとは下記です。

  • AIイニシアティブの運用化
  • データ、モデル、コンピューティングの効率的な利用
  • 責任あるAI
  • AIのためのデータ


責任あるAIが求められるというのは、まさに人間を助ける役割を果たすために、良き相棒として責任ある役割を担って欲しいということなのでしょう。

ちょっと脇道にそれますが、「ジェネレーティブAI」は、ガートナーが2022年のトレンドワードに選出したワードです。
ガートナーの定義によれば、『コンテンツやモノについてデータから学習し、それを使用して創造的かつ現実的な、まったく新しいアウトプットを生み出す機械学習手法』だそうです。ガートナーは『2025年までに、新薬や新材料の30%以上がジェネレーティブAI手法を用いて体系的に発見されるようになるでしょう。』としています。mRNAコロナワクチンを接種した方は多くいらっしゃると思います。mRNAワクチンの開発にはAIが使われました。

『新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) のパンデミックのような混乱が起こると、過去の状況を反映している履歴データは瞬く間に陳腐化し、AI/MLの本稼働モデルの多くが崩壊します。D&A(データ&アナリティクス)リーダーやITリーダーは今、「スモール・データ」「ワイド・データ」と呼ばれる新しいアナリティクス手法に目を向けています。こうした手法を組み合わせることで、大量のデータからではなく、構造化されていない多様なデータ・ソースから多くの価値を引き出し、利用可能なデータをより効果的に活用できるようになります。2025年までに、70%の組織は、アナリティクスにより多くのコンテキストを与え、AIが必要とするデータ量を減らすために、ビッグ・データからスモール・データ、そしてワイド・データへの重点移行を余儀なくされるとガートナーでは予測しています。』としています。コロナ前は「ビッグ・データをAIに学習させて...」と話されていました。ビッグ・データだけでなく、スモール・データとワイド・データも活用するようになるようです。

2.3. 新たな法規制への対応性

『過去17年に及ぶIBVのCEO調査で「自社に最も影響を与える外部要因」の中で「法規制」が4位より上位に入ることはなかった。10年近くにわたり1位と2位を争ってきたきたのは「テクノロジー」と「市場の変化」(競争、市場力学、変化する顧客の期待事項などを含む)である。しかし今回の調査では、CEOの半数が優先領域として「法規制」を挙げ、2位に躍り出た。』としています。

新型コロナウイルス感染症に関する各国の法規制対応や、個人情報保護などデータの規制などにどのように対応すべきなのか。どのようにデータを有効活用するべきなのか。この辺りの課題への対応を優先する必要があるということなのだと思います。

顧客体験価値の観点では、LINEの個人情報が中国にあるシステム開発委託企業で閲覧可能だった問題 が参考事例として挙げられると思います。

中国政府が国内企業が扱うデータにアクセスしてもいいという法律になったことで、LINEでのやりとりを中国政府によってみられてしまう危険性が出ました。中国政府が「反中国」と判断するやりとりをした者は逮捕されてしまうという言論統制を施行したことから問題になりました。「反中国」と判断されてしまうと、外国人であっても中国に入国した時点で逮捕されてしまうということと合わせて、大きく報道されました。

少し長くなりました。
1章と2章を踏まえて、次の章では具体策を考えます。


3. 具体策を考える

この章では、顧客体験にこだわって、デジタル技術を活用したビジネス変革を実現するためには、何が必要なのか、具体策を考えます。

下記の7つを考えます。

  • CEOの決断とリーダーシップ
  • DXはデジタル事やIT事ではなくビジネスそのものであると認識する
  • マインドチェンジする、意識を変える、軸を変える
  • 関係者との効率良い濃密な協働
  • テクノロジー、ツール、データ、プロセスの統合
  • シチズン・データ・サイエンティスト
  • セキュリティー教育


3.1. CEOの決断とリーダーシップ

CEOの決断とリーダーシップなしに、成功はあり得ません。
アクセンチュアのレポートでもIBMのレポートでも強調されていますし、他でも散々言われている事です。あなたの会社はどうですか?結構できてる、という方は稀なのではないかと危惧します。

『ビジネス変革:なぜテレワークが機能しにくく、DXの成功率が低いのか:具体的な解決方法を考える』 というコラムに書いたことになりますが、日本のDXの特徴は下記の2点です。

  • 事業部門のトップが推進するトランスフォーメーションが87%
  • CEO直属の組織が推進しているトランスフォーメーションは日本は30%以下(グローバルは62%)

部門にサイロ化してはいけません。全社プロジェクトとすべきです。
「デジタル敗戦」とも言われている状態の日本ですが、DX敗戦は避けるべきです。

3.2. DXはデジタル事やIT事ではなくビジネスそのものであると認識する

DXすなわち、デジタル技術を活用したビジネス変革はビジネス事です。ビジネスそのものです。

3.3. マインドチェンジする、意識を変える、軸を変える

アクセンチュアのレポートから引用した表が語っているとおり、CX(カスタマー・エクスペリエンス)思考からBX(エクスペリエンス起点のビジネス変革)思考に軸を変えるべきです。

アクセンチュア、IBMの両レポートが指摘しているとおり、顧客体験価値にこだわるべきです。
マインドチェンジしなければ、意識・軸を変えなければ、変革は起こりません。

3.4. 関係者との効率良い濃密な協働

社内の各部門との協働や、エコシステムを構築しているパートナー企業との協働など、顧客体験価値にこだわるのであれば、関係者との協働が必須です。

人を集め、人が集まり、議論することが必須です。対面で会うことは、コロナ対応や移動時間などの理由で簡単ではないかもしれません。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」をするファシリテーションが必須です。特に、今まであまり協働したことがない人たちが集まったオンライン会議では、ファシリテーターは必須です。

3.5. テクノロジー、ツール、データ、プロセスの統合

やはり今の時代なので、テクノロジーは大切です。しかし、最初に来るのはビジネスです。ビジネス変革なのですから。ビジネス変革のビジネス目標を達成する手段として、必要なテクノロジーを使えば良いのです。

顧客から預かった貴重なデータを、テクノロジーを使って活用し、ビジネス変革に役立てることが必要です。2章で説明したとおり、セキュアで透明性を保ちながら、ビジネス変革に役立てるべきです。

顧客体験価値にこだわってビジネスの変革を考えるのですから、ビジネス・プロセスをどう変革するのかを考えることになります。

3.6. シチズン・データ・サイエンティスト

シチズン・データ・サイエンティストとは、社員全員をデータ・サイエンティストにする、という考え方です。

専門家としてのデータ・サイエンティストには、その専門家としての役割と仕事があるでしょう。
他方、社員(シチズン)としてのシチズン・データ・サイエンティストには、下記の具体策があるでしょう。

  • データ・サイエンティストであるかどうかにかかわらず、必要とするすべての社員がデータ活用ツールにアクセスできるようにする。
  • すべての社員に、データへのアクセスと、分析・可視化ツールを提供する。また、それらデジタル資産の活用に必要なスキルの開発にも投資する。
  • データ活用推進チームを、多様な観点とスキルを持つメンバーで構成した上で、自社の事業領域を網羅できるような位置付けの組織とする。

社員はシチズン・データ・サイエンティストとして仕事ができるように、新しいスキルを学び、そのスキルを向上すべく研鑽することが求められます。

多くのビジネスパーソンにとって、身近なデータ分析ツールはスプレッドシートではないでしょうか。

ビジネスパーソンとして「スプレッドシートは苦手で...」と言うことは通用しなくなってきていると思います。難しい統計やデータ分析はさておき、日々のビジネスで使うような統計分析やデータ分析は「現代のビジネスパーソンの基礎教養」と言っても間違いではないと思います。

その上で、スプレッドシート以外に可視化しながらデータ分析できるツールが提供されているのであれば、それを使いこなせるようになることも、ビジネスパーソンとして必要になってきていると思います。

3.7. セキュリティー教育

顧客体験価値にこだわるためには信頼が不可欠です。
セキュリティー事故、情報漏洩、サイバー攻撃による被害は避けなければなりません。

そのためには、全社員・全従業員を対象にしたセキュリティー教育が必要です。

大きな企業であればすでにやっているところが多いと思いますし、そうでないところは、外部の研修などを活用してできる限り早く教育すべきです。会社としての信頼を失うのは一瞬ですが、信頼を得るのは努力と時間が必要です。

今日では、セキュリティー教育はとても大切になってきている、と私は考えます。喫緊の課題である、と言っても過言ではない、と私は考えます。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 
 
 

この記事を書いたプロ

小川芳夫

ファシリテーションの活用を支援するコンサルタント

小川芳夫(BTFコンサルティング)

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