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小川芳夫

ファシリテーションの活用を支援するコンサルタント

小川芳夫(おがわよしお) / ファシリテーター

BTFコンサルティング

コラム

ビジネス変革:顧客体験価値にこだわる:具体策を考える

2021年4月26日

テーマ:ビジネス変革

コラムカテゴリ:ビジネス

コラムキーワード: 業務改革働き方改革リーダーシップ スキル

このコラムはビジネスパーソンの方々を対象に書いています。

2020年の後半くらいから、デジタル敗戦という言葉をよく見聞きするようになりました。
主には新型コロナウイルス感染の拡大によって明らかになってしまったものです。例えば、行政ではオンライン手続きの不具合、医療では保健所でのFAXと電話と紙とペンでの対応やCOCOAの不具合、教育ではオンライン教育に必要なハードウェアの不備や教え方などノウハウの不足、働き方ではハンコ文化やマインドを含めたテレワーク阻害要因の顕在化、等々があります。

このコラムはビジネス変革に集中します。
DX。デジタル・トランスフォーメーション(Digital Transformation)とカタカナ表記されることが多いですよね。私はDXの本質はビジネス変革だと考えています。私は、DXを「デジタル技術を活用したビジネス変革」という日本語にしていす。
私は今までビジネス変革に関する下記のコラムを書きました。
『ビジネス変革:なぜテレワークが機能せずDXの成功率が低いのか:具体的な解決方法を考える』
『ビジネス変革:小さく始めてコツコツ育てる:迅速かつ確実に進めるために』
『ビジネス変革:各専門家を集めたワークショップ:ファシリテーターの役割を考察する』
『ビジネス変革:ビジネス変革を実現するための議論プロセスとは:議論プロセスを適用して自分たちのテレワークのルールを作る』
『ビジネス変革:DXはデジタル技術の導入ではない:ビジネス変革のススメ』
『ビジネス変革:withコロナがもたらす変化:体験価値について考察する』
『ビジネス変革:デジタル変革(DX)とビジネス変革:今理解すべき3つの視点』
どのコラムも、私の考えに基づいて書かれています。

今回このコラムでは、顧客体験価値にこだわります。
お客様が体験を通してどんな価値を得るのか、お客様にとってどんな良い価値を提供できるのか、この辺りにこだわります。なぜかというと、ビジネス変革を実施する際の軸は、顧客体験の価値をいかに高めるのか、ということである、と考えるからです。

下記の2つの資料を参照します。
アクセンチュア社のレポート『エクスペリエンスは成長の原点』
IBM社のグローバル経営総スタディというレポートから『2020経営総スタディ 信頼による卓越』
両レポート共にリッチな示唆に富む内容です。

このコラムでは、上記のレポートを参照して、顧客体験価値にこだわって、なぜ顧客の体験価値にフォーカスする必要があるのかを考えます。そして、具体策を考えます。

下記の3つの章で構成します。1章より2章の方が、2章より3章の方が具体的に内容になります。
15分程度で読める量です。
1. 顧客体験価値(アクセンチュアのレポートから)
2. 顧客体験価値(IBMのレポートから)
3. 具体策を考える

私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのために貢献したい」と考え、この屋号にしました。

ファシリテーション(Facilitation)。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテータ(facilitator)と言います。

なお、このコラムは2021年4月26日に投稿しました。


1. 顧客体験価値(アクセンチュアのレポートから)

このレポートは、2019年11月〜2020年1月の期間、そして2020年5月〜6月に更新を経て、下記を対象にして、ビジネスリーダーたりが顧客体験についてどのように考え、自社の能力がいかに顧客体験とビジネスせ成果に貢献していると考えているかを調べることを目的としたものだそうです。
・1,550以上の世界中の上級管理職
・そのうち25%がCEO(最高経営責任者)
・国の数は21か国
・業種の数は22業種

『優れた顧客体験とは、企業が提供する商品やサービスそのものではなく、顧客にとって最も重要な目的を果たすことをいかに手助けしてくれるかによって決まる』と言っています。個々の顧客の目的、問題・課題、ニーズ、疑問といったものを、迅速で簡単な方法で解決してくれるのかが大切だそうです。

クレイトン・クリステンセン教授のジョブ理論(Jobs To Be Done(JTBDと略されている))をご存知の方がいらっしゃるかもしれませんね。
JTBD
上図は、Strategyn社 の "Why Innovation Fails" というウェビナーの資料中の1枚です。
「顧客はドリルではなく、欲しいものは穴が開いた板だ」ということです。
モノを売りたいメーカーは、どうしてもドリルそのもののデザインや性能にこだわってしまいがちです。
一方、顧客が欲しいのは穴が開いた板であり、課題は必要な大きさの穴を開けることなのです。「必要な大きさの穴を開けること」がジョブというわけです。

顧客にとっては、企業が所属する業界は関係ありません。必要な大きさの穴を開けることができるのであれば、ドリルをホームセンターで購入して自分で開けてもいいでしょうし、ドリルをレンタルして自分で開けてもいいでしょうし、DIYのお助けサービスがあるのならサービスを購入するという手もあるでしょう。企業に属するビジネスパーソンとしては、自社の業界だけを見ていてはダメということになります。私たちは、横並びなんて関係ない世界にいるのだと思います。

さらに、顧客は企業の存在意義・存在目的を大切にするということもレポートに書かれていました、Y世代(1980年〜1995年頃に生まれた人たち)とZ世代(1996年〜2012年頃に生まれた人たち)の半数以上が「社会問題に関する企業の言動に失望したために、その企業への支出を減らし、別の企業に乗り換えたことがある」と答えているそうです。

私が思いつく事例は、アパレルのパタゴニアの "DON'T BUY THIS JACKET" です。
上のリンクの記事には『私たちが作るすべてのものはこの地球から、戻すことのできない何かを奪っています。パタゴニアのウェアのひとつひとつが、たとえそれがオーガニックであれリサイクル素材を使ったものであれ、その重さに対して何倍もの温室ガスを排出し、最低でも半分の廃棄物を生み、地球上のあらゆる場所でだんだんと希少になっていく淡水を大量に使用しているのです。(中略)けれども、私たちは物を作り、売るビジネスをしています。私たちの給料はそれに依存しています。そればかりか私たちのビジネスは成長しており、新しい直営店をオープンさせ、カタログの発行部数も増えています。私たちを偽善者だと呼ぶお客様にはどう答えたらよいのでしょう。』とあります。自分たちの企業は何を成し遂げるために存在しているのか、ビジョンを公開することで自社の存在意義・存在目的を訴えていると思います。

これはかなり大切なことです。アクセンチュアのレポートには『自身が大義を果たす一員であると感じさせてくれて、共通の理念のもとに人々をつなぐ企業やブランドを好む』とありました。

さて、アクセンチュアのレポートの副題は『カスタマーエクスペリエンス(CX)を超えて、エクスペリエンス起点のビジネス変革(BX)へ』とあります。BXは Business of Experience の略だそうです。
下図はCXとBXを比較したものです。「BX思考へピボット」と書かれています。CX思考からBX思考へ方向転換すべきだ、と訴えているのだと思います。
BX思考

CX思考ではCEOの最大の目標は収益の最大化です。BX思考では存在意義とそれを起点とした顧客体験から利益を得ることが目標になります。

マーケティング/ブランドの目標は、CX思考では「人々に商品が欲しいと思わせる仕掛けを作る」ことです。BX思考では「人々が欲しいと思う商品を作る」に変わります。

営業の目標は、CX思考では「企業が売りたい商品にフォーカスする」であるのに対し、BX思考では「顧客が望む結果にフォーカスする」に変わります。

製品開発の目標は、CX思考では「使いやすい製品を作る」であるのに対し、BX思考では「顧客が利用するシーンに継続的に適応する製品を作る」に変わります。

人材の目標は、CX思考では「従来の測定基準(研修、年次評価など)に基づいて従業員の職種別にパフォーマンスを測定」であるのに対し、BX思考では「組織全体の成果を向上させるよう、インスピレーションとインセンティブを与える」に変わります。

CX思考では、顧客が望む方法で顧客の行動を支援するのではなくて、企業が望む方法で顧客に行動させるようビジネスをしている、という姿が見えます。
他方、BX思考では、企業が望む方法で顧客を行動させるのではなく、顧客に合った体験価値をしてもらえるように支援する、という姿が見えます。

顧客体験価値にフォーカスするには、顧客が満たされていないこと、つまりニーズを把握することが大切になりす。
従前であれば、調査したりするのでしょう。今は、社内に存在するデータを分析することは必須でしょう。アクセンチュアのレポートでは、部門部門でサイロ化したアプローチは非効率なので、組織を横断してデータを集め洞察を得ることが大切だ、と書かれていました。

以上、アクセンチュアのレポートから、顧客体験価値にこだわって、要点を抜き出し必要に応じて事例を交えながら私の考えを
まとめました。
2章では、データを活用して顧客体験価値に人間味を持たせる、ということをまとめようと思います。


2. 顧客体験価値(IBMのレポートから)

IBMは 『グローバル経営層スタディ』 というレポートを毎年出しています。
今回の調査は、世界98か国20業種にわたる、6つのCxO(最高責任者)レベルの経営層13,484名の回答に基づくものだそうです。6つのCxOとは下記のとおりです。日本からは858名が回答したそうです。
・2,131名の最高経営責任者(CEO)
・2,105名の最高財務責任者(CFO)
・2,118名の最高人事責任者(CHRO)
・2,924名の最高情報責任者(CIO)
・2,107名の最高マーケティング責任者(CMO)
・2,099名の最高執行責任者(COO)

この章では、IBMの 『信頼による卓越』 というレポートの内容を、顧客体験価値にフォーカスしてまとめようと思います。このレポートの副題は『AI/Data包摂時代のリーダーシップ』です。IBMは以前からデータが大切であると強調し続けています。AIとデータを包み込みながら顧客体験価値について考えます。

1章の最後に書いたとおり、IBMのレポートはデータとAIを活用して、顧客体験価値に人間味を持たせるとしています。どういうことか、例を引用しましょう。

『不動産業者、住宅診断士、保険会社、および住宅ローン会社をつなぐプラットフォームでは、顧客をよりシームレスな体験の中心に置いている。』複数のパートナー企業が連携することができれば、顧客が住宅購入を検討する際に、ワンストップで住宅そのものだけでなく保険やローンまで、一気通貫で相談することが可能になります。

『Club Med 社は、あらゆる角度から確実に顧客を把握できるよう、観察に労を惜しまなかった。顧客がコール・センターに連絡した際、顧客の予約履歴や行動履歴など、クリック・ツー・コール・ボタンを押下しての連絡だった場合には、顧客が閲覧していたWeb サイトのページまで、関連する詳細情報すべてを社員はすぐに確認することができる。同社は、機械学習を利用したシステムを導入しており、顧客のメールから消費者調査で示した満足度に至るまで、すべてを分析にかける。そして来年中には、すべての着信通話について、顧客との対話をパーソナライズできるようにする。』昔の電話だけで旅行相談していた時代や、旅行代理店に出向いて相談していた時代、自分でサイトを調べながら検討していた時代、これらとは異なるレベルのサービスを提供し、さらに進化させようとしているようです。

さて、上の事例の前提となるものは、顧客のデータ・プライバシーを守ることです。
『今や、顧客が自分のプライバシーと引き換えに個人データを提供してもよいと思える条件を、いかに見いだせるかが企業の命運を握るようになった。』さらに『顧客の信頼は、かつてからブランドに対して寄せられたものだが、現在ではとりわけデータの取扱いに対して寄せられるようになった。』としています。
データは重要ですが、その価値を決めるのは「信頼」だというわけです。つまり、顧客からの厚い信頼なくして上の事例は実現できません。

とはいえ、顧客からの厚い信頼を得ることは、簡単なことではありません。オーストラリアのある銀行のCEOのコメントが、この辺りを語っていると思います。
『顧客は、銀行にデータに基づくパーソナライズされたサービスを期待している。つまり、自分を深く理解してくれということだ。しかし、企業への信頼が揺らぐ昨今、顧客からどこまで情報を共有してもらえるだろうか。』

IBMのレポートは、顧客からの厚い信頼を獲得するために必要な観点として、下記の3つの原則を挙げています。
『これらの原則は、自社が信頼に足る企業であると顧客に認知してもらうために採用されたものである。これらの原則は、現代の企業において、顧客との信頼を再構築するための基礎となるものである。』としています。
・透明性
・互酬性
・真実性と説明責任

透明性。
個々の顧客のデータの取り扱いについて透明性を担保しながら説明することです。平たくいうと、「あなたのデータは確実に保護されている。安心だ。」ということを証明することが必要だとしています。ワークフローの透明性、自動化に対する信頼、そしてパートナー間における信頼が大切だ、とレポートはいっています。

互酬性。
収集した個々の顧客のデータを、その顧客の利益のために活用できることが大切だ、としています。ここでも信頼が大切ということです。顧客から信頼されない企業は、個人データの収集と活用が許されないことになりますので、企業競争という点で大きな遅れを取ることになる、としています。
『スイスのPhilip Morris International社のCOOであるJacek Olczakは、「我々は顧客のプライベートな空間に立ち入ろうとしているのであり、価値あるものを提供しない限り、データを共有してくれることはないだろう。つまり我々は、毎回魅力的な体験を顧客に提供しなければならない。」と述べている。』

真実性と説明責任。
真実性とは、真実のこととして認められる性質のことです。また、真実であるかどうかの程度という意味もあります。顧客に対して、真実でないものを提供すれば、一気に信頼を失います。当たり前ですね。
『説明責任は、ブランドのインテグリティーと同義である。顧客に対して約束を守ることから、データ・セキュリティーへのコミットメント、データ・プライバシーの尊重に至るまで、広範な問題が対象となる。』としています。
自分のデータが確実に保護されているという信頼を得るために、説明責任を果たすことが大切ということです。
ドイツのダイムラーグループのDaimler Commercial VehiclesのCIOは、『顧客のデータが信頼できる形で扱われていることを、顧客が納得できる形で伝えなければならない。』と語っています。納得を得ることは大切です。人が何かの行動を起こすためには、論理だけでなく納得も必須です。

セキュリティー事故、情報漏洩、サイバー攻撃による被害。毎日のように見聞きします。
IBMのレポートは、『適切な人材およびガバナンスと組み合わせて利用すれば、AI はサイバー・セキュリティー対策の強化を加速させ、旧来の防御姿勢から攻勢に転じることが可能になる。』とし、下記の3つのガイドラインを検討することを提案しています。(一部小川が変更加筆しています)
・ビジネスにおけるセキュリティーの担保は、その信頼と存続にとって必要不可欠である。企業は顧客体験や社員体験に摩擦が起きないような仕組みでセキュリティーを担保すべく、両者間のバランスを取る必要がある。
・企業は主なワークフローや、データ・ソースに関わる人およびマシンの両面において、セキュリティーを担保する取り組みを行わなければならない。
・ビジネス・エコシステム(パートナー企業間がつながったシステム)では、セキュリティーに対するオープン・ネットワーク・アプローチがすべての参加者に求められる。これにより、企業間の迅速な協働や洞察の発見が推進される。

信頼に関してIBMのレポート中の次の文章が私に刺さったので引用します。
『信頼による卓越は、銀行業界において顕著である。すべての業種のうち、顧客は銀行を最も信頼できる機関と考えている。一時は銀行を中抜きにするだろうと考えられたフィンテックの席巻をしのぐことができた理由の1 つが、銀行が今までに得てきた信頼であると言われている。銀行は、将来的にさまざまな業界のビジネス・プラットフォーム上で、蓄えた信頼を糧に新たな役割を果たすと期待されている。』

さて、顧客から厚い信頼を得ることができたとして、次に大切なことはデータを磨き上げることです。
IBMのレポートで「先導者」と呼んでいる、既にAIとデータを活用して人間味を持たせた顧客体験価値を実現しつつある企業は、データの質の向上に継続して取り組んでいる企業が多いそうです。具体的には、データ品質の改善に向けたクレンジングや標準化、不要あるいは利用制限があるデータの破棄、だそうです。キーポイントは、一回磨き上げて終了ということではなくて、継続して取り組む、ということです。

データというと、扱う人はデータ・サイエンティストと呼ばれる人たちなど、ごく一部の人たちが分析したり活用したりするもの、と思っていませんか。経営層の人たちは、特に「先導者」の企業の経営層の人たちは違うようです。
何人かのコメントを引用します。

『私たちは、全社員がデータを活用できるようになってほしいと考えている。なぜなら、データを見る観点は社員一人ひとり異なるからである。私たちは、『何でも知っている』という考え方よりも、『何でも学ぶ』という考え方を目指している。データ、情報、洞察を集約し、組織全体としての集合知の活用により、当社の経営と社員の働き方を向上させる試みを実施している。』

『データ重視の意思決定を推進する。経営層には、この方針を徹底し、データに基づいて意思決定できる社員の裾野を広げていくことが要求される。これは企業文化を変革することである。』

『最大の課題は、データに基づく意思決定が巻き起こす創造的破壊に、企業として対応できる力をつけることである。』

『データ分析をデータ・サイエンティストのコミュニティーに限定していると、今以上の進歩はない。保有するデータから価値を最大限引き出す唯一の方法は、すべての社員に適切なツールを提供し、彼らにデータを解放することである。』

企業としては、社員が必要とする分析スキルやツールの提供を積極的に行う必要があるでしょう。
また、社員としては、新しいスキルを身につけ向上させる努力が必要でしょう。

最近、データとかAIとかが注目され始めて、プログラミング言語のPython(パイソン)を学ぼう、という動きがあるそうです。私のエピソードをご紹介しましょう。隣家に某全国紙の元記者の方が住んでいたことがあります。まだ若い記者だった頃、IBMの研修施設に通ってプログラミング言語のアセンブラを学んだそうです。大型コンピュータが出始めた頃で、コンピュータの仕組みを理解するためということで、上司の指示で研修を受講したそうです。「全然わからなかったよ。その後全く使うことはなかった。」と語っておられました。

例えば、Pythonで言えば、プログラミング言語を習得するだけではあまり意味がなくて、ライブラリーというものを理解して使えるようにならないと、例えばディープラーニングの仕組みを理解することはできません。コードを書いて動かして理解する方が早いという方は、そうすれば良いと思います。他方、このアプローチは将来コードを書く必要がない人には、私はお勧めできません。

データに関するリテラシーを上げて、データ分析するとはどういうことなのかを理解するためには、必ずしもプログラミングまで理解することを目標とする必要はありません。もっと、大切な本質的なことを学ぶべきである、と私は考えます。大きな企業であれば自社で研修コースを作れば良いと思いますし、そこまで体力のない企業であれば外部研修を活用するという選択肢もあると思います。言いたいことは、データに関するリテラシーを必須習得項目にして、いかに短期間で最大限の効果を得るためのアプローチを見つけることが大切なのだということです。

一例としては、IBMのSPSSというツールがあります。SPSSを使ってデータを加工して分析する、というのも1つでしょう。もっと身近な例としては、エクセルで分析するということもあると思います。フィルターを使ったり、関数を使ったりして分析できます。分析対象データはSPSSで社内データベースから(権限があれば)取ってきても良いでしょう。

実際にデータを使う人・分析する人は、当事者として、データ品質の改善に向けたクレンジング(不要データや古すぎるデータを取り除くこと)や標準化、不要あるいは利用制限があるデータの破棄、に貢献できます。データに不要なものが含まれていて分析ができない(不要データを探して取り除くのに手間がかかる)とか、そもそもデータが古いなどといった課題。こういった課題が最もよく見えるのは、データを扱う当事者です。

データを磨き上げて、そのデータをAIが活用することで、個別化された顧客体験や、人間味も兼ね備えた顧客体験を提供することが可能になります。これまでは提供不可能だったような共感を伴うサービスを提供することで、信頼を構築することが可能になるのだと思います。事例は、この章の冒頭で引用した、住宅購入の検討とClub Medです。

データの収集、利用、共有のルールを明確に定義することをデータガバナンスといいます。
AIのガバナンスについて、IBMのレポートでは、『AIの優れたガバナンスには、透明性と説明責任が包含される。これは、顧客の信頼を生み出すために必要とされる原則と同様である。しかし何をおいても、ガバナンスが担保するのは、データの使用方法やバイアスの慎重な除去に適用される倫理を含んだ、公正性である。この公正性をいかに担保するかは、役員会で討議されるべき重要な議題と言えるだろう。としています。

ソニーの役員の方は、『AI の広範な活用のためには、それによってもたらされる解に一切の偏りがなく、明快に説明できる根拠が不可欠である。それを抜きにした活用には必ず限界が来るので、私たちはAI利用における倫理規定や原理原則の整備を社内で進めている。』とコメントしています。

一方、ガートナーが2020年8月9日に発表した 『先進テクノロジのハイプ・サイクル:2020年』 によると、説明可能なAIが主流になるまでに要する年数は5〜10年としています。まだ数年かかりそうです。しかし、その日のために何もしないで待つ、というのではなくて、今からその日に備えておく、というマインドが大切だ、と私は考えます。(下図中、説明可能なAIを赤で囲みました)
ハイプサイクル

少し長くなりました。
1章と2章を踏まえて、次の章では具体策を考えます。


3. 具体的策を考える

顧客体験にこだわってビジネス変革を実現するために、デジタル技術を活用したビジネス変革を実現するためには、何が必要なのか、具体策を考えます。

下記の7つを考えます。
・CEOの決断とリーダーシップ
・DXはデジタル事やIT事ではなくビジネスそのものであると認識する
・マインドチェンジする、意識を変える、軸を変える
・関係者との効率良い濃密な協働
・テクノロジー、ツール、データ、プロセスの統合
・シチズン・データ・サイエンティスト
・セキュリティー教育

【CEOの決断とリーダーシップ】
アクセンチュアのレポートでもIBMのレポートでも強調されていますし、他でも散々言われている事ですよね。
これなしに、成功はあり得ません。アクセンチュアのレポートやIBMのレポートに書かれていること。あなたの会社はどうですか?結構できてる、という方は稀なのではないかと危惧します。
『なぜテレワークが機能せずDXの成功率が低いのか』 に書いたことになりますが、日本のDXの特徴は下記の2点だそうです。
・事業部門のトップが推進するトランスフォーメーションが87%
・CEO直属の組織が推進しているトランスフォーメーションは日本は30%以下(グローバルは62%)
部門にサイロ化してはいけません。全社プロジェクトとすべきです。
デジタル敗戦状態の日本ですが、DX敗戦は避けるべきです。


【DXはデジタル事やIT事ではなくビジネスそのものであると認識する】
DXすなわち、デジタル技術を活用したビジネス変革はビジネス事(ビジネス・マター)なのです。ビジネスそのものです。デジタルやITは後からついてくるものです。


【マインドチェンジする、意識を変える、軸を変える】
アクセンチュアのレポートから引用した表が語っているとおり、CX思考からBX思考に軸を変えるべきです。
アクセンチュア、IBMの両レポートが指摘しているとおり、顧客体験価値にこだわるべきです。
マインドチェンジしなければ、意識・軸を変えなければ、変化は起こりません。グローバルはじめ他社は変化しています。


【関係者との効率良い濃密な協働】
社内の各部門との協働や、エコシステムを構築しているパートナー企業との協働など、顧客体験価値にこだわるのであれば、関係者との協働が必須です。人を集め、人が集まり、議論することが必須です。対面で会うことは、コロナ対応や移動時間などの理由で簡単ではないかもしれません。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」をするファシリテーションが必須です。特に、あまり協働したことがない人たちが集まったオンライン会議では、ファシリテーターは必須です。


【テクノロジー、ツール、データ、プロセスの統合】
やはり今の時代なので、テクノロジーは大切です。しかし、最初に来るのはビジネスです。ビジネス事なのですから。そのビジネス目標を達成する手段として、必要ならば必要なテクノロジーを使えば良いのです。
ツール、データは2章で詳しく扱いました。
顧客体験価値にこだわってビジネス事を考えるのですから、当然ビジネスプロセスは考えることになります。


【シチズン・データ・サイエンティスト】
社員全員をデータ・サイエンティストにする、という考え方です。
専門家としてのデータ・サイエンティストには、その専門家としての役割と仕事があるでしょう。
他方、社員(シチズン)としてのシチズン・データ・サイエンティストには、下記の具体策がある、とIBMのレポートは書いています。
・データ・サイエンティストであるかどうかにかかわらず、必要とするすべての社員がデータ活用ツールにアクセスできるようにする。
・すべての社員に、データへのアクセスと、分析・可視化ツールを提供する。また、それらデジタル資産の活用に必要なスキルの開発にも投資する。
・データ活用推進チームを、多様な観点とスキルを持つメンバーで構成した上で、自社の事業領域を網羅できるような位置付けの組織とする。
2章で書いたとおり、社員はシチズン・データ・サイエンティストとして仕事ができるように、新しいスキルを学び、そのスキルを向上すべく研鑽することが求められます。


【セキュリティー教育】
顧客体験価値にこだわるためには信頼が不可欠です。
セキュリティー事故、情報漏洩、サイバー攻撃による被害は避けなければなりません。
そのためには全社員・全従業員を対象にしたセキュリティー教育が必要です。大きな企業であればすでにやっているところが多いと思いますし、そうでないところは外部研修などを活用してできる限り早く教育すべきです。会社としての信頼を失うのは一瞬ですが、信頼を得るのは努力と時間が必要です。今日では、セキュリティー教育はとても大切になってきている、と私は考えます。喫緊の課題である、と言っても過言ではない、と私は考えます。


最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

この記事を書いたプロ

小川芳夫

ファシリテーションの活用を支援するコンサルタント

小川芳夫(BTFコンサルティング)

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