組織力強化:迅速に組織変革する9つの方法:ファシリテーターの観点で考察する
このコラムは、ビジネスパーソンの方々を対象として書いています。
私たちはコロナ禍を経験しました。いろいろなビジネス活動について、非対面・非接触へとシフトが進みました。
そして、withコロナの時代となり、出社とテレワークのハイブリッドな働き方が定着しました。
ハイブリッドな働き方をしながら、つまり非対面で働きながら、信頼を築くことが大切になりました。
2020年9月1日の日経ビジネスに、『早大大学院・川本裕子教授「非対面でも信頼は築ける」』という記事が公開されました。
このコラムでは、私の体験を振り返りながら、非対面で信頼を築くためのキーポイントを考察します。
このコラムは次の3つの章で構成します。15分程度で読める内容です。
私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのためのお手伝いをしたい」と考え、この屋号にしました。
ファシリテーション。Facilitation という名詞です。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテーター(facilitator)と言います。
1. 私の体験のご紹介
私は会社員時代に、非対面で信頼を得ることを体験しました。この章では、その体験をご紹介します。
2000年頃の数年間、営業が販売価格を申請し、社内審査を経て、承認あるいは否認を得るという社内ツールを、アジア・パシフィック各国に展開するプロジェクトの責任者として活動しました。このプロジェクトの対象国は、日本、中国、香港、台湾、ASEAN各国、オーストラリア、ニュージーランドでした。そのツールは社内で開発されていて、開発拠点はフランスでした。また、そのツール展開のグローバル側の責任者は米国にいました。直接やりとりをした利害関係者の数は40〜50人くらいでした。
プロジェクトの詳細はこのコラムの目標から外れてしまうので省略します。
お伝えしたいことは、各国の利害関係者とやりとりをしながら、ほぼほぼ非対面でプロジェクトを進めざるをえなかったということです。プロジェクトのキックオフは、できるだけ多くの人に集まってもらい、シンガポールで行いました。しかし、その後は基本非対面で進めました。非対面で進めた理由は、予算の制約です。長期間多くの人を物理的に一事業所に集めホテルに滞在させる予算は無かったのです。もう一つの制約は、これだけ多くの人になると、同じ場所に長期間集まることは、ワークライフバランスの観点から非現実的だった、ということです。子育て中のお父さん・お母さんもたくさんいましたので。
しばらくすると、このツールは日本には合わない(日本にはもっと良いツールがあった)ということで、日本は対象国から外れました。この時点で、言語は全て英語になりました。2章で振り返りますが、このことは私にとって幸運だったと言えるのかもしれません。
仕事の仕方は、電話、チャット、メール、社内サーバー上で共有する資料(パワポ、エクセル、ワードなどの資料)を使ってのやりとりでした。時差の関係で自宅から仕事をすることも多かったのですが、あの当時はインターネットの速度も遅かったですし、今のようにオンライン会議ツールはなかったので、上記のツールで何とかプロジェクトを漕いでいたという感じです。
もう一つの体験は、私が2018年に定年退職するまでの4〜5年間の体験です。
社内の営業に加えて、ビジネスパートナー企業様の営業担当者が、販売価格を申請し、社内審査を経て、承認あるいは否認を得るという社内ツールを、日本に展開するプロジェクトの日本側リーダーとして活動しました。日本は独自のツールを使っていたところに、グローバル共通のツールを展開し、実際に使ってもらって目標の効果を出す、というミッションがありました。
ツールを利用する国は日本。ビジネス側の利害関係者は日本、米国、ヨーロッパにいました。グローバル全体のPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)は米国。ツールは社内で開発されていて、開発場所はインドを中心として、米国、南米、中国、エジプトと多くの国に渡り、24時間体制(フォロー・ザ・サン=Follow the Sun、どこかの国は太陽が出ている日中という意味)でした。直接やりとりをした利害関係者の数は100人くらいでした。この数の人を一箇所に長期間集めることはコストの面からもワークライフバランスの面からも現実的ではないので、非対面になりました。
協働ツールとしては、Webexなどのオンライン会議ツール、メール、チャット、slack、boxでした。
2. 私の体験を振り返りキーポイントを考察する
1章で私の体験をご紹介しました。2つのプロジェクトとも幸運なことに成功裏に目標を達成することができました。非対面の信頼という観点では、一度も会ったことのない人とも信頼を築くことができました。ほとんどの海外の人とは一度も対面で会っていません。日本人の人でも、勤務地が遠かったこともあり、一度も対面で会ったことのない重要な利害関係者のチームがありました。
この章では、私の体験を振り返り、非対面での信頼醸成のキーポイントを考察したいと思います。
次の6つの観点でキーポイントを考えていきます。
- ローコンテクスト
- わかりやすい資料
- 誠実に確認しながら進める
- 論理性と納得性
- ソフトスキル
- ファシリタティブなリーダーシップ
2.1. ローコンテクスト
2000年頃の体験では、結局全ての利害関係者は日本人ではなくなった、という点を特徴としてあげたいと思います。このことは、プロジェクトを成功させるための労力を少し下げたのではないか、と思っています。
あなたは、ハイコンテクストとローコンテクストをご存知でしょうか?まず言葉の説明から始めます。
コンテクスト(Context)
コミュニケーションの基盤である言語、知識、体験、価値観、ロジック、嗜好性など。
ハイコンテクスト(High Context)
コンテクストの共有が高い。
伝える努力やスキルがなくても、お互いに相手の意図を察しあうことで、なんとなく通じてしまう環境。しかし、その環境が整わないと一転してコミュニケーションが滞ってしまう。お互いに話の糸口も見つけられず、会話も弾まず、相手の言わんとしていることが掴めなくなってしまう。
ローコンテクスト(Low Context)
コンテクストの共有が低い。
言語によりコミュニケーションを図ろうとする。見方を変えればコンテクストに頼った意思疎通が不得意とも言える。そのため、言語に対し高い価値と積極的な姿勢を示し、コミュニケーションに関する諸能力(論理的思考力、表現力、説明能力、ディベート力、説得力、交渉力)が重要視される。
雑誌ダイヤモンドのオンラインサイトに、『落ちぶれるハイコンテクスト人材、台頭するローコンテクスト人材』 という記事が載っていました。この記事の中から、ハイライトしたい点は、
『日本は島国で人種的な多様性もないので、文化的には非常に入り組んだお約束ごとが幅広く共有されており、ハイコンテクストなコミュニケーションが多い』ということです。
上のハイコンテクストの説明中の「伝える努力やスキルがなくても、お互いに相手の意図を察しあうことで、なんとなく通じてしまう環境」。対面であれば、しかめっ面してる、睨んでいる、微笑んでいる、頷いている、眉間にシワを寄せて斜め上を見ながら何かを考えている、等々の非言語メッセージを受け取ることができます。しかし非対面では非言語メッセージを受け取ることは困難です。非対面ではハイコンテクストなやりとりは困難である、ということです。ローコンテクストなやりとりをする必要がある、と私は考えます。
そもそも、このハイコンテクストとローコンテクストを論じたのは、エドワード・T・ホール (Edward Twitchell Hall, Jr.) という文化人類学者です。1950年代の研究らしいので、かなり昔の研究です。
下図のように分析したそうです。(下図の出所)
(画像のタップやクリックで拡大されます)
私はファームウェアのエンジニアとして西ドイツの開発研究所で働いていたことがあります。チーム内に日本人は私ひとり。アジアからは香港の人がひとり。後は全員欧米人。もちろんドイツ人が一番多い、というチーム構成でした。西ドイツ在住中にベルリンの壁が崩れました。上図のほぼ右端がドイツ人です。左端の日本人である私がどのようにコミュニケーションをとっていたのかを簡単にご紹介します。
今思うと、私に有利に働いていたことのひとつは、私は英語が下手だった、ということが挙げられます。チーム内で圧倒的に一番下手でした。言語によりコミュニケーションを図ろうとするローコンテクストの環境で働いているのに、うまく伝えることができない。一方、私は自分のアイデアやデザインを表現するテンプレートをいくつか持っていました。そこで私は自分のテンプレートを使って、アイデアやデザインを表現し、それでコミュニケーションをとっていました。圧倒的に拙い話し言葉を、自分のテンプレートを使って補完していたのです。後述するフレームワークにつながる考え方です。
ドイツにいた時、毎朝8時頃と15時頃になると、多くの人がカフェテリアに集まってきます。サンドイッチを食べたり、コーヒーやお茶を飲んだりしながら、プライベートのこと、仕事のこと、週末のことなどを話します。英語の下手な私は、「ん?」と思う時は、「それ教えて」と躊躇なく質問しました。相手は私が英語が下手なことを知っているので、紙ナプキンに書きながら教えてくれました。こんなことは日常茶飯事で、私の机の引き出しは紙ナプキンが沢山溜まっていきました。もちろん、ホワイトボードに図などを書きながら、技術的な基本設計を議論する場面も多かったのですが、キーポイントは何かを描きながら言葉でコミュニケーションしていた、ということだと考えています。後述する議論の見える化につながる考え方です。
信頼構築という観点では、技術者なので、良いアイデアを持っている、とか論理的に考えて設計しているとか、要するに良いものをわかりやすく表現するということが大切です。私は話し言葉の拙さをテンプレートや図表で補足することで、チームのメンバーの一員として信頼されるようになっていったと思っています。
ローコンテクストなコミュニケーションについては、ドイツでの体験が、後の私の仕事にとても役立ちました。
2.2. わかりやすい資料
ここでも下手な英語の話をします。1章の最初のプロジェクト。2000年頃は、資料をメールで送り電話で議論する、という言葉中心の世界でした。例えばパワポの資料の場合、「◯◯ページのリストの上から3番目の項目について説明します」と言うと、うまく伝わらなかったのか「下から2番目か?」などとイジられることもありました。これは時間のムダです。こんな体験を何回かして、資料の作り方を変えました。「◯◯ページの項目3について説明します」と言う感じにしました。具体的には、リストの行頭を「・」にするのではなく「3」と間違えようのない表記にしました。これは、とても小さなことかもしれませんが、私にとってはとても役立つものでした。
そもそも、難しいことを難しく英語で伝えようとすると、自分で自分の首を絞めそうなので、できるだけ簡潔にわかりやすく伝えようとする癖がついたように思います。
この一例のように、わかりやすい資料で、わかりやすく説明することは、信頼構築に欠かせません。
2.3. 誠実に確認しながら進める
下手な英語の話ばかりで恐縮です。1章の最初のプロジェクトでは、各国の利害関係者と非対面で電話やチャットやメールでやりとりをするという手段しかありませんでした。技術的に、そんな時代だったのです。しかも英語が下手。こうなると、自分が言っていることが相手にちゃんと伝わったのか、理解してもらえたのか、確認する必要が出てきます。そもそも、伝えたいことを伝えるには、どう表現したら良いのか、どんな論理で話したら良いのか、等々伝えるための戦略を考える癖がついて行きました。逆に、相手が言っていることを私はちゃんと理解しているのか、ここも確認する必要が出てきます。英語が下手だったので、全く躊躇なく頻繁に確認していました。
例えば日本語で会話していると、自分が言ったことを相手が自分の意図の通りに理解しているものと勘違いしてしまうことがあります。日本人同士の対面での日常の会話はハイコンテクストが常なこともあり、そうなってしまうのかもしれません。私は、これは危険だ、と考えています。数分後には二人は全く違うことを頭の中に思い描いて、実はかみ合っていない会話をしているかもしれないのですから。日本語の会話でも確認しながら話を進める必要があるのです。
幸いなことに、誠実に確認しながら進めることで、各国の利害関係者からは信頼されるようになっていきました。一度も対面で会ったことのない人が多かったです。
2.4. 論理性と納得性
さて、そろそろ1章の2つ目のプロジェクトを振り返りながら、キーポイントを考察してみようと思います。1つ目と2つ目の大きな違いは、プロジェクトに日本人が入ってきたことです。ツール利用者、つまり私の観点ではお客様が日本人になった、と言うことが大きな違いです。
私がファシリテーションと出会ったのは2010年頃のことです。1つ目のプロジェクト2つ目のプロジェクトのもう一つの違いは、私がファシリテーションを知らなかった時の体験なのか、それなりに研鑽を積んだ後の体験なのかということです。
どんなプロジェクトでも会議を開いたら何かの合意を形成しますよね。つまり、To Do を決めることが多いと思います。この To Do、あなたはどのようにまとめていますか?私は、RACI(レイシー)というフレームワークを活用して、「誰が何をいつまでに何の役割を持って実施するのか」という形でまとめることが多いです。
RACI は役割と責任を見える化するものです。R、A、C、I 各々の役割と責任は下記になります。
- R:実行責任者 (RはResponsibleの頭文字):当該 To Do 項目を実行することに責任を持つ人(複数人可)
- A:説明責任者 (AはAccountableの頭文字):当該To Do項目について内容や進捗・状況を組織内外に説明することに責任を持つ人(通常ひとり)
- C:相談される人 (CはConsultedの頭文字):当該To Do項目の実行を支援する役割を担う(円滑に実行されるよう相談を受け助言する人(複数人可)
- I:報告を受ける人 (IはInformedの頭文字):当該To Do項目の進捗・状況について報告を受ける役割を担う人(複数人可)
R と A は誰かを必ず任命します。兼任可です。
C と I は誰も任命されなくてもOKです。この2つも兼任可です。
RACI については、英語ですが、わかりやすい動画がありますので、ご紹介します。
決定されたことが実行されるには、論理性と納得性が必要です。
デール・カーネギーは彼の著書「人を動かす」(ISBN978-4422100517)の中で、『人間は自尊心のかたまりです。人間は他人から言われたことに従いたくないが、自分で思いついたことには喜んで従います。だから、人を動かすには命令してはいけません。自分で思いつかせれば良いのです。』といっています。
皆で合意した To Do を、その人自らが納得すること、これは実施される To Do という観点でとても重要です。
RACI を活用して To Do を具体的に見える化する中で、意思決定プロセスに透明性を持たせることを意識していました。誰かと誰かで裏で握って決めてしまう、というようなことはしませんでした。さらに、RACI で決めていく中で、ある役割を持つ人が納得してくれるまで交渉するように心がけました。
日本人の多くの人たちとは対面を基本としました。しかしながら、日本国外の重要な利害関係者のチームとは、ほぼ非対面でした。1章の最初のプロジェクトに比べて、この頃になるとファシリタティブに仕事をすることが身についていましたので、ファシリテーションを核とした働き方で対応しました。
オンライン会議ツール、メール、チャット、slack、boxなどの協働ツールを駆使したコミュニケーションで、信頼を構築できました。
例えば、何かの問題が発生した場合、チームチャットを開いて、20〜30人の人が入って解決に向けて協働するということをよくやっていました。気がつくと日の出になっていたこともよくありました。修羅場をくぐり抜けるという体験はチームワークを強くする作用があると思います。そんな中から、信頼も生まれてくるものだと思います。
2.5. ソフトスキル
ソフトスキルとは、ファシリテーション、コミュニケーション、プレゼンテーション、リーダーシップ、チームビルディング、エモーショナル・インテリジェンスなどの対人系のスキルです。
米国デロイト・コンサルティングの "A new approach to soft skill development" という2020年5月8日に出されたインサイトは、『ソフトスキルの重要性を語り、ソフトスキルを研鑽すべきである』としています。
ファシリテーション
ファシリテーション。Facilitation という名詞です。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテーター(facilitator)と言います。
英語なので、アメリカかイギリスが発祥なのかな、と思われた方。その通り、アメリカです。私の個人的な考えなのですが、ディベート文化のある国ですから、「会議で合意を形成するための良い方法はないのか」という課題が出てきたのだろう、と私は想像しています。「こんなに時間をかけても何も合意できないのは何故なのだ」と。
非対面の会議やワークショップ。何かの合意形成を目標とする会議やワークショップでは、ファシリテーターは必須です。1章の2つ目のプロジェクトでは、私はあるときはファシリテーター、あるときは当事者として振る舞っていました。何故かというと、ファシリテーターは中立な立場で、議論プロセスに関わる必要があるので、ファシリテーターとして振る舞う時は中立に、当事者として振る舞う時は完全に当事者として議論に参加していました。
なお、私のファシリテーションは次の4つのステップで構成されます。
私が主催する会議は、この4つのステップを意識して運営しました。
毎回、何のために集まってもらったのか(目的)、会議終了時点でどこに到達したいのか(目標)を、確認してから議論に入るようにしました。これをやるだけで、会議は引き締ります。
コミュニケーション
ローコンテクストでコミュニケーションすることは非対面では必須である、と私は考えます。このことは私の体験からも言えることです。加えて、英語の下手な私であったからこそ言えることなのですが、ビジュアルな表現を用いると、よりコミュニケーションがとりやすくなります。これも実体験から言えることです。
あなたは対面の会議を下図のようにやっていますか?会議室に集まって何かを話しているように見えます。個々に何かを思い描きながら話しているものの、話がかみ合っているのか不明です。話がかみ合っていると錯覚していることも多いのではないでしょうか。(出所 "Why Visual Thinking Works" )
(画像のタップやクリックで拡大されます)
このような会議を開いていたとすると、オンライン会議は下図のようにみんなの顔を見ながら話をしているかもしれませんね。コロナ禍の初期の頃はこのスタイルが主流だったと思います。withコロナの今はどんな感じですか?(画像のタップやクリックで拡大されます)
結論から申し上げますと、このやり方は時間のムダです。理由は後述します。
下図は、4人がホワイトボードの前に集まって議論しています。全員が同じものを見ています。空想している人はいません。議論を見える化しています。(画像のタップやクリックで拡大されます)
オンラインでも議論を見える化すべきです。
初対面の人であれば顔を見ながら挨拶し、顔を見ながら話を始めることも意味があるでしょう。一方、既に何回か協働したことのある人の顔を会議の時間中ずっと見続けることに、どれだけの価値があるのでしょうか。
何かの合意を形成することを目標とする会議であれば、顔ではなく議論対象となるものを見ながら議論すべきです。上図の VISUAL COLLABORATION でホワイトボード上に議論を見える化しているように。例えば、下図のように議論に合ったフレームワークを画面に写し、みんなで協働してフレームワークを完成させるイメージです。(画像のタップやクリックで拡大されます)
具体的に私はどのようなことをやっていたのかをご紹介しましょう。会議の資料を事前に作成します。そして事前に参加者と共有します。会議では、共有した資料を会議室のプロジェクターで写し、リモート参加者のためにオンライン会議ツールで画面共有し、議論をその場で資料に反映しました。議論をその場で資料に反映することで、リアルタイムに議論が見える化されます。「いや、そういうことじゃなくて、◯◯ということを言いたかったんだよ」というようなことは日常茶飯事でした。私は、これを議事録としていました。日本人だけの会議であれば日本語で議論します。英語であれ日本語であれ、言語に関係なく「誠実に確認しながら進める」を継続しました。
ところで、ビジュアルについて、こんな研究があります。
ヒトが絵やイメージでコミュニケーションをとるようになったのは、約30,000年前だそうです。その後、言葉でもコミュニケーションをとるようになったのは、約3,700年前だそうです。ということは、約26,300年間ヒトは絵やイメージでコミュニケーションしていたということです。つまり、ヒトの脳は絵やイメージを処理するのに慣れているのです。
そして、言葉に加えて絵やイメージを使ったコミュニケーションは、言葉だけのコミュニケーションに比べて、2〜3倍効率が良い(早く理解される)という研究もあります。
言葉に加えて、絵やイメージなどを活用したビジュアルな表現を使ってみませんか。効果がありますよ。
プレゼンテーション
この章で説明した「わかりやすい資料」は、ちょっとした工夫で、不要なストレスを減らすことができます。対面では、「これ」とか「あれ」と指差ししてしまうこともありますが、非対面ではそれはできません。パワポなどの場合、マーカーやペンを用いる場合もあるかもしれませんね。気をつけていただきたいのは、ネットワーク遅延です。数秒後に相手の画面に表示されてしまう場合があります。ページ送りした後、気持ち数秒そのページの概要を話すなどして、時間稼ぎすることも必要な場合があります。
「誠実に確認しながら進める」ことはとても大切です。パワポであれば、少なくともページを送る前に、何か質問やコメントはないのか、何か違和感を持っていることはないのか、こういったことを訊くことは大切です。これは対面でも、非対面でも大切なことです。そして、非対面では、ページを送った後で、新しいページが見えているか確認することも大切です。
リーダーシップ
まず、このコラムで言うところのリーダーシップとリーダーを定義します。
リーダーシップとは、チームで目標に向かって協働し、目標を達成することを成し遂げる力です。目標を達成するよう働きかける力とも言えます。
リーダーとは、役割や職責であり、具体的には主任、課長、部長などです。
リーダーシップは、リーダーの職責を担う人だけに求められる能力ではなく、チームの目標を達成するために活動している従業員一人ひとりに必要な力といえます。
1章の2つ目のプロジェクトで私が持った役割は、利害関係者をチームメンバーと捉え、グローバル共通のツールを展開し、実際に使ってもらって目標とする効果を出す、というものでした。私は、2.6節で説明するファシリタティブなリーダーシップで、この困難と思えた役割に挑戦することを決めました。
チームビルディング
上の段落で書いたように、私は利害関係者をチームメンバーとして捉えました。
実際、グローバルチームが日本に来てワークショップを開催した時には宴会を開いたり、節目節目で日本人同士で宴会を開いたりしました。チームビルディングという観点では、そういうものだけでは全く足りません。
個々の人が、「自分は役立っている。自分が必要とされている。」という実感を得ることはとても大切だと思っていました。お互いに認め合うチームであることが大切だと思っていました。「価値ある体験ができる」と実感できることが大切だと考えていました。対面で会うことが多い日本人に対しても、ほぼ非対面で協働する海外の人に対しても。感謝することも大切だと思っていました。
対面であれ非対面であれ、協働の中からチームビルディングは生まれる、と私は考えます。仲良しチームではなく、時には喧々諤々の真剣な議論を経て、一歩づつ進んでいくという体験が必要だと思います。(「のたうちまわる」という表現の方が正しいかもしれません)昔は電話・メール・チャットくらいしかありませんでした。今はオンライン会議ツールなど、もっとリアルタイムに協働できる環境があるのですから、活用しない手はありません。チームとして困難な修羅場をくぐったという体験はチームを強くすると思います。
エモーショナル・インテリジェンス
エモーショナル・インテリジェンス(Emotional Intelligence)という言葉を、「感情知能」と日本語に表現する場合があります。私にはこの表現はしっくりこないので、このコラムではエモーショナル・インテリジェンスとカタカナ言葉を用います。
同僚、すなわちチーム内のメンバーとの関係性の構築、難しい局面での対応、こういったことをうまくできる能力は必要です。
例えば、プロジェクトマネージャーとメンバー A。
メンバー A はいつも期限内に進捗報告しない。今回も遅れた。プロジェクトマネージャーはイラつき怒りを覚え、メンバー A にキツい反応をして、対決モードになってしまった。こんな場合、どうすれば良いのか。エモーショナル・インテリジェンスとは、このようなプロジェクト・メンバー間で生じる難しい局面に対応できる能力です。
チームで協働していると、上の例のような難しい局面に遭遇することはあり得ます。
私は 交流分析 や 性格分類 などを活用して対応していました。
2.6. ファシリタティブなリーダーシップ
ファシリタティブ(facilitative)は、「物事の進行などを促進する」という意味の形容詞です。ファシリタティブなリーダーシップは、ファシリテーションを中核に置きながら、チームに働きかけチームを目指す目標に到達するようリードするリーダーシップです。
1章の2つ目のプロジェクトが始まる時点で、私はソフトスキルの重要性を認識していました。2.5節で述べたように、ソフトスキルには、ファシリテーションとリーダーシップが含まれています。ソフトスキルを活用しようとするならば、ファシリタティブなリーダーシップとなる、と考えるのが自然です。
ソフトスキルの項で書いたように、私はチームメンバーに恵まれていたといえます。結果として目標を達成できたわけですし、自分のソフトスキルを実際のプロジェクトの中で研鑽することができたわけですから。
3. キーポイントのスキルを獲得・研鑽するには
今まで書いてきたように、非対面でも信頼を築くことはできました。
PRESIDENT Onlineの『リモートワークを続けてわかった“幻想”』という記事から一部抜粋します。
働き方全般に言えることですが、「みんなが何となく当たり前だと思い込んでいること」が世間一般に浸透し、あたかも定説のように語られています。ただ、その中には「幻想」というべきものが多くある──ということです。
そして、記事は下記の4つの幻想について解説しています。
- 幻想① 優秀な人は東京に集まっている
- 幻想② 対面でないと信頼関係が作れない
- 幻想③ 会わないとクリエイティブな仕事ができない
- 幻想④ リモートワークは優秀な人のもの
信頼を築くということはどういうことなのか。本質を考えることが大切ではないか、と私は考えます。私は、このコラムでご紹介した自身の体験から、対面とか非対面は関係ないと考えています。
もう一つ。一人ぼっちでビジネスをしている人はいないと思います。最低お客様という利害関係者はいるのですから。信頼はチームの中に築くべきものだと思います。自分だけ信頼されれば良い、という考えには私は反対です。お互いに信頼し合えるチームであることがとても重要だ、と考えるからです。
2章で書いたキーポイントを獲得するには、座学や研修に参加するだけでは身につきません。はじめの一歩としては、座学や研修で学ことは必要でしょう。次のステップとして、学んだことを実際の仕事の場で使ってみることが必須です。そして結果を振り返り、次はどうするべきかを検討することも必須です。スポーツが座学や研修だけで上達しないのと一緒です。
例えば、ソフトスキルであれば、既にソフトスキルを保持している人をコーチ役やメンター役につけて、適宜助言をもらいながら、実際のプロジェクトで揉まれながら悩みながら研鑽することが、上達への近道である、と自身の体験から強く思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。