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鈴木康介

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鈴木康介(すずきこうすけ) / 弁理士

プロシード国際特許商標事務所

コラム

iPad中国商標事件の経緯

2012年2月27日 公開 / 2014年7月31日更新

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 中国商標

こんにちは、プロシード国際特許商標事務所の弁理士の鈴木康介です。

現在、Apple社と広東省深センの唯冠科技は、2010年4月頃から、iPad商標に関する訴訟合戦を繰り広げています。

この訴訟事件の経緯を語るには、12年前に溯らなければなりません。

大筋は大体以下のとおりです。

iPad 中国商標 問題の関係者

1. 2000年頃から、唯冠科技の親会社である「唯冠国際控股有限公司(Proview International Holdings Limited.、「唯冠国際」と言います。)の傘下の子会社「唯冠電子股份有限公司(Proview Electronics Co., Ltd.、以下「唯冠電子」若しくは「台北唯冠」と言います。)」は10カ国において「IPAD」商標の登録出願を始めました。

2. 唯冠科技は同じく唯冠国際傘下の子会社として、2000年1月10日に中国において第9類のコンピューター、コンピューター周辺装置、モニターなどについて「Internet Personal Access Device」を意味する第1590557号「IPAD」を出願し、2001年6月21日にて登録を取得しました。
 そのほか、2000年9月19日に第9類のコンピューター、ソフトウェアなどについて第1682310号「IPAD」商標を出願し、2001年12月14日にて登録を取得しました。

3. 2006年頃、Apple社はタブレット端末「iPad」の登場を計画していた際、唯冠電子は既に諸国で「IPAD」商標を登録している事実に気がつきました。
 唯冠国際と譲渡交渉を行った結果、2009年12月23日に、Apple社は仲介代理社のIP Application Development Ltd(「IP社」と言います。面白いことは同社の略称も「IPAD」です。」を通じて、唯冠国際と商標譲渡契約書を結び、35,000ポンドの対価を支払い、唯冠国際から「IPAD」商標権を買い取りました。
 IP社は2010年2月頃、これらの登録商標を10ポンドの対価でApple社に売りました(このIP社はApple社より設立されたそうです)。その直後、商標「IPAD」を付したタブレット端末が中国市場で出回り始めました。

4. 2010年4月7日、中国商標局はApple社による商標譲渡申請手続きを却下しました。Apple社は商標譲渡契約書を結びましたが、中国における「IPAD」登録商標に係わる譲渡手続きが難航していたようです。

5. 2010年4月19日、Apple社は、唯冠科技が譲渡契約書に違反したり、譲渡契約書に従い、自社が「IPAD」商標権を保有したり、唯冠国際からワールドワイドの「IPAD」商標権を買い取った商標権は二件の中国登録商標を含むと主張し、日本の地方裁判所に相当する深圳市中級人民法院(地裁)に訴訟を起こしました。
 一方、唯冠科技側は独自の法人として自社が中国の商標権を持ち、唯冠国際は唯冠科技の中国商標権を売る権限はなかったと反論し、双方で意見が食い違っています。 
 深圳市中級人民法院は2011年2月23日、8月21日、10月18日三回に分けて開廷したところ、12月5日にAppleが購入した商標権には中国の商標権は含まれていないと第一審判決を下し、Apple社の訴えを退けました。
 これに対し、Apple社が2012年1月5日に広東省高級人民法院(高裁)へ上訴しており、2月29日に広東省高級人民法院で第二審の審理を始める予定です。
 (訴訟の管轄裁判所については、唯冠科技は広東省の深圳市に登記された法人なので、Apple社は被告住所地の中等裁判所に提訴しなければなりません)

6. 広東省での商標権帰属の訴訟が進行している同時に、唯冠科技は商標侵害調査・処理を担当する地方工商行政管理局に摘発し、中国各地の地方工商行政管理局に販売の停止を求め、Apple社に大きなプレシャーをかけて譲歩させる戦略を採っています。
 一部の地方工商行政管理局は販売の停止を命令しました。唯冠科技は、政府主管機関への摘発を通じてApple社になプレシャーをかけて20億~30億元の和解金を狙っている話もあるようです。
 (最初の譲渡金である35,000ポンドがあまりに低く、唯冠科技が後悔しているという話があります)

7. 唯冠科技は2012年2月にApple社の中国子会社「苹果貿易(上海)有限公司」を被告として、上海市浦東人民法院(地裁)に使用と販売の停止及び販売の仮差し止め命令を下すよう要求しました。
 同時に、唯冠科技は、ほかにも同様の訴えを起こしていて、今月20日には広東省恵州市の裁判所が訴えを認め、小売店に販売の停止を命じています。

8. 上海市浦東人民法院が2012年2月22日に審理したところ、広東省高級人民法院の判決が下されるまで本件訴訟を中止し、唯冠科技が申請した販売仮差止め請求を拒否した裁定を下しました。

9. 2012年2月24日、唯冠国際はApple社が詐欺によって商標譲渡を受けたという主張で米国のSuperior Court of the State of Californiaに提訴しました。

このように、「IPAD」の商標権を巡り複数の訴訟が争われています。

2012年2月22日に上海市浦東人民法院より退けられたのは唯冠科技側の販売仮差止申請です。
上海市浦東人民法院は唯冠科技側の販売仮差止申請に対し裁定を下したのです。
裁定は主に訴訟手続上生じた手続問題を解決するため下されるものであり、最終の判決ではありません。

同裁定書では、上海市浦東人民法院は商標譲渡契約の効力や商標権の帰属がまだ未確定なので、本件訴訟の審理を中止して、広東省高級人民法院の第二審判決が下されるまで、本件訴訟の審理を続けるとの姿勢を示しました。

この一連の裁判により、Apple社側は販売に影響が出かねない事態になっていますが、今回上海市浦東人民法院の裁定で重要な市場である上海市での販売停止はひとまず避けられました。
もちろん、広東省高級人民法院の第二審判決はこの事件を解決する鍵になることは言うまでもないので、上海の裁判所から広東省の裁判所に注目が移りました。

最終の判決がまだ下されていないため、どちらも勝訴していない状態です。

さらに、唯冠科技は2008年の金融危機のショックを受けて破産状態になっていますが、現在の所、中国では商標権者の状態は、商標侵害判断及び賠償金の金額にあまり影響しません。

外資系企業にとって、中国における商標権は登録によって権利が発生した登録主義を採用しているため、使用主義(アメリカで採用されている制度)はあまり働かないことに注意しなけれなりません。

このため、今回の「IPAD」を巡る争いは、中国で事業を展開する前に商標登録を取得したり、契約書を締結する際に条文や争いの疑いがあるところに対し絶対に油断できないことを示す良い事例だと思います。

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お読み頂きありがとうございました。
弁理士 鈴木康介(特定侵害訴訟代理権付記)
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参考 iPadの中国商標

iPadの中国商標 


iPadの中国商標

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