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49「新しい資本主義」という概念の誕生

菊池捷男

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テーマ:コーポレートガバナンス改革

49「新しい資本主義」という概念の誕生

 岸田内閣は、2021年10月15日本部長を内閣総理大臣とする「新しい資本主義実現本部」を設置し、2023年6月16日「新しい資本主義」のグランドデザイン(大規模な事業などの,全体にわたる壮大な計画・構想)及び実行計画の改訂版を策定した。
これからの経済は、政府が財政支出をして、積極的に成長させる強い意志を表明したのである。
 なお、この「新しい資本主義」というテーゼ(概念の定立)は、「新自由主義」のアンチテーズ(反定立)としてつくられたものではないが、50年以上も前に生まれた「小さな政府」「民営化」「規制緩和」などをキーワードとする新自由主義だけでは、国の経済が国民や国家が望むような形で成長していくには限界が生じた。
 企業経営に関する「経営者革命論」が、負の部分があるため、株主やステークホルダーの利益を害するという弊害が出かつ拡大していった経緯に照らしても、自由放任に通ずる「新自由主義」では、時代の要求に応えることができなくなり、時代は新しいテーゼの樹立を必要としたのである。

 折しも、2022年2月24日に始まったロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻に端を発したサプライチェーン(供給網)の寸断や台湾有事の懸念の増大などを考えると、今は、国家が、これらの難題を解決すべく、力強い経済成長や国防力の強化を積極的に進める新しいテーゼを提示する必要が生じ、これが「新しい資本主義」に結実したと評しえよう。

 日本の政府がこのような経済の成長を牽引する強い意思を表明したこと(2021年11月28日新しい資本主義実現会議決定)や国防費の予算の大幅増を表明したことから、2023年8月27日付け日本経済新聞の記事「世界の防衛大手、アジア統括機能を日本移転 英BAEなど」が報ずるように、世界の防衛大手の複数社が、アジアの統括機能を日本へ移転することを表明し、このため関連企業も数多く誕生することが予測されるに至っている。

 50年以上を隔てて定立された二つのテーゼである、「新自由主義」と「新しい資本主義」のそれぞれの特徴は、片や「新自由主義」は、「小さな政府・民営化・規制緩和」であり、それは国鉄や電電公社など、官が非効率な企業企業経営をしていたのを止めさせこれら企業の経営を民に任せる効果を生んだ。「新しい資本主義」は、「成長と分配」であり具体的には「科学技術・イノベーション・デジタル田園都市国家構想・カーボンニュートラルの実現・経済安全保障・スタートアップの育成」等々を目的とするものであり、成果は今後のことになるが、大いに期待できるものである。
 
 なお、この「新しい資本主義」の思想は、日本だけに限られたものではない。欧米諸国も、国家が率先して厚い財政支援を通して自国の企業の成長を促しているのである。
 これは、今、世界の潮流になっているコーポレートガバナンス改革と目的が通底する価値観である。
 2023年という年、コーポレートガバナンス改革は一段と飛躍を遂げてきたように思われる。

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