要望ありて加筆せり .ホールディングスが増えた理由
第6章 コーポレートガバナンス改革
順風満帆の中から、知恵は生まれない。教訓を得ることができないからである。現代人は、2008年に、リーマンショックを経験した。この衝撃と苦闘の経験は、コーポレートガバナンス改革を生んだ。だから、苦しみよ、汝は決して悪いものではない。
・・・本章では、そのコーポレートガバナンス改革の本丸であるコーポレートガバナンス・コード(CGコード)と、それに「企業の持続的成長」や「対話(エンゲージメント)」という共通言語でもって、文字どおり符節を合わせて作られたスチュワードシップ・コード(SSコード)について概説する。
第1節コーポレートガバナンス・コード
1.コーポレートガバナンス・コードの意味
コーポレート(corporate)とは、企業や会社の意味だ。この言葉は、「健全な企業統治」という文脈の中で使われているので、あるべき企業統治とか、望ましい会社経営いう意味で使われている。
CGコードは、元はイギリスで1998年に策定されたが、その後2008年にアメリカで起こったリーマンショックが契機になって、一気に世界で広く採用されるようになった。リーマンショックの原因は、リーマン・ブラザーズというアメリカの大手投資銀行がハイリスクのある事業モデルを野放図に拡大したことにあるが、これがコーポレートガバナンスの欠如によるものと認識され、世界中で、CGコードを策定して、上場会社にこれを遵守させようという気運になったということだ。
2.守りのガバナンスから攻めのガバナンスへの転換
内部的な監査に重点を置いただけの守りのガバナンスから、会社の情報開示を徹底させ、株主からの監視の力を強め、会社には独立性の高い社外取締役を数多く入れ経営陣を監視し、風通しのよい(透明性のある)、積極的なガバナンスの確立が求められるようになったということだ。
3.comply or explain
名称も「法」ではなく「コード(指針、原則)」だ。しかし、金融庁と東京証券取引所は、上場会社に対し、CGコードを遵守(comply)するかしないかを明らかにせよ、遵守しない場合は遵守しない理由を説明(explain)せよ(「comply or explain」)と迫っているので、事実上、上場会社は、CGコードを遵守せざるを得ないことになっている。もし、CGコードを遵守しない会社がいたら、外国人投資家から相手にされなくなり、ダイベストメント(divestment・投資忌避)に遭うおそれがある。
4.物言う株主の誕生
2017年の日経平均株価の上昇率は19%であったのに対し、物言う株主が保有した株の上昇率は平均33%にもなっているという。これはCGコードを遵守している上場会社の株式がよく買われていることを意味しているのでね。逆に言うと、CGコードを遵守しない上場会社の株式は買ってもらえないということでもあると思うよ。
2019年8月時点では、ほとんどの上場会社が、CGコードを受け入れているよ。
5.CGコードの基本原則
基本原則の第1 ― 株主の権利・平等性の確保
基本原則の第2 ― 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
基本原則の第3 ― 適切な情報開示と透明性の確保
基本原則の第4 ― 取締役会等の責務
基本原則の第5 ― 株主との対話
6.CGコードが指標とする言葉
基本原則の第1
・ウエブサイトによる株主総会招集通知、
・政策保有株式、
・いわゆる買収防衛策、
・株主の利益を害する可能性にある資本政策(議決権の希釈化)など
基本原則の第2
・中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定
・ESG問題、
・女性の活躍促進、
・内部通報など
基本原則の第3
・情報開示の充実(経営陣幹部や取締役の報酬や選・解任基準など)、
・外部会計監査人の責務
・外部会計監査人とCEO・CFO等とのアクセスなど
基本原則第4
・取締役会の役割・責務(経営陣の報酬についてのインセンティブ付け、CEOの選・解任の手続きなど)
・独立社外取締役の設置、有効な活用
・任意の指名委員会と任意の報酬委員会という仕組みを活用した統治機構のさらなる充実
・取締役会における審議の活性化など
基本原則第5
・株主との建設的目的を持った対話(エンゲージメント)、
・戦略計画や経営計画の策定・公表など
第2節 スチュワードシップ・コード
1. スュチュワードシップ・コードの意味
スチュワード(steward)は、執事、財産管理人等のことで、コード(Code)は指針ないし原則のことだ。そこから、日本版SSコードは、「責任ある機関投資家の諸原則 」という名称がついている。
2.機関投資家の意味
機関投資家(institutional investors)の明確な定義はないが、①一般にいうファンド、②生命保険会社、③損害保険会社、④銀行、信託銀行、⑤年金基金、⑤共済組合、⑥政府系金融機関などがある。
わが国の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、世界一の資金を持っているよ。同法人が公表した2018年度の運用資金は、159兆2154億円だ。
3.機関投資家の存在意義
日本の株式市場において、かつては(1970年頃)、個人投資家が40%近い株式保有比率を持っていたが、いまや十数パーセントにまで下がり、代わって機関投資家と事業会社の保有比率が約80%だ(下図参照)。株価変動の主役も機関投資家に移っている。その結果、機関投資家が今後、投資先の上場会社に対し「建設的対話」を求めてくる機会は増えるであろう。
4.機関投資家発祥の歴史
1929年にウオール街(株式市場)で株式の大暴落が起こり、それまでの投資家の間では株式への直接投資が忌避されることになった。そうした中から、株式投資で手痛い打撃を被った個人投資家を中心として、株式への投資・運用を、その道のプロに任せるようになったと聞いたことがある。
海外の機関投資家等の日本株式保有率は1990年に4.7%でしかなかったのが、2014年に31.7%を記録した。2018年には、少し下がって29.1%になっている。
5.SSコードの策定のきっかけ
2008年にリーマンショックが起こった後、その反省を踏まえて、2010年にイギリスで策定されたことに始まり、世界に広がっていったのだ。
6.SSコードを策定した目的・改訂の要点
機関投資家は、単に株式等に投資するだけでなく、顧客に対する受託者責任(スチュワードシップ責任)として、投資先の会社と建設的対話をして、企業の持続的成長と中長期的な企業価値の拡大を引き出す努力をすべき義務がある。そのための指針ないし原則だ。
改訂後のSSコードの要点は、次のとおりだ。これを見るだけで、現在のSSコードの問題点が分かるよ。
以下略